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それでもネット銀行を使いたい、あなたのために!

森井昌克神戸大学 名誉教授
(写真:アフロ)

ネット銀行の不正送金による被害が深刻化しています。件数や被害額自体が大幅に増加しているというわけではないのですが、多くの銀行がネットサービスを導入し、いわゆるネット銀行化することによって、被害がネット専業バンクだけでなく、大手都市銀行や地方銀行さまざまな銀行に広がっているのです。1件あたりの被害金額も数万円から数千万円と多様であり、「大したお金をもっていないから、私が狙われるわけがない!」とは言っていられない状況です。繰り返しますが、誰でも被害に遭う可能性があるのです。以前に、

残念ながら現時点で完璧に近い対策が十分にとられている銀行はほとんどありません。特に顧客のセキュリティ意識の大小によらず、安全性が保証されているネット銀行は皆無といって良いでしょう。現在のところ、リスクを考えると在宅決済をする必要性のない人はネット銀行を避けるべきかもしれません。

出典:悪いこと言わないから、ネット銀行は使いなさんな!?【Yahooニュース!個人】

と書きました。そもそもネット銀行を使う必要がないのであれば使わないほうが良い、という当然のアドバイスを書いたまでです。ネット銀行としても、金利等の優遇、振り込み無料等の様々なサービスや特典を付けて顧客を獲得、拡大しようとしています。目先の小さな利益にとらわれて、危険性や、あるいはそれに伴う不安を背負うことは避けるべきでしょう。

不正送金の被害に遭う可能性はあるのです。もちろん、銀行側も最善の防御策を取っているはずです。しかし、手口が巧妙化し、特にコンピューターウイルス(マルウェア)に感染することによって、ほぼ自動的に不正送金が行われるようになってしまいます。現在、不正送金の被害に遭う原因は、ほとんどの場合、マルウェアの感染です。マルウェアに感染しないためには従来から言われている

  1. アンチウイルスソフトを必ず動作させる。
  2. むやみにメールやSNSで送られたプログラムを実行しない

を厳守する以外にも、必要のないページ(ウェッブ)を、できるだけ閲覧しないようにするとともに、ボタンをクリックする際には、一息ついて、その意味を考える事が重要です。ボタンをクリックする事によって、プログラムを無意識にダウンロードし、さらに実行してしまうことがあります。このプログラムがマルウェアなのです。また、スマートフォン(スマホ)のマルウェアも大きな問題になっています。このマルウェアは主に不正なアプリを入れる事から感染します。スマホでもセキュリティソフトを入れる事は重要ですが、最も有効な対策は必要のないアプリを入れないことです。

パソコンやスマホ、それにその利用方法は日々進化しており、マルウェアも同等です。これをすれば絶対に感染しないという対策はありません。将来にわたっても有り得ないでしょう。では、対策をとる必要はないかというと決してそうではありません。自宅のドアに鍵をかけない人はいません。それは泥棒や見知らぬ人に入られてプライバシーを侵されないようにするためです。しかし、鍵をかけたからといって、絶対に泥棒に入られないわけではありません。裏窓を壊されるかも知れませんし、ピッキングといって鍵をこじ開けられるかも知れません。この玄関の鍵がアンチウイルスソフトの導入であり、感染しないために上記に挙げた対策です。

そして一番必要な対策はマルウェアに感染した後の事を考える事です。ネットバンクの不正送金対策であれば、まず常に注意深くパソコンやスマホの操作を行い、日頃と少しでも異なる操作を要求されたり、時間が異様にかかるようであれば、マルウェアの感染を疑い、すぐに操作を中断し、パソコン操作やセキュリティに長けた人に相談することです。それでも注意が足らず、不正送金される事も有り得ます。その対策として、高額な預金を行う貯蓄用の口座はネットバンクとせず、決済用の口座としてネットバンクを利用し、必要最小限の金額しか預けないことです。

ネットバンクの不正送金問題のみならず、ネットの利用全体に対しても、最悪の事態を想定し、その被害を最小に押さえる対策をとる必要があります。それがリスクコントロール(危機管理)と言われるものです。今、求められる対策は被害に遭わない事だけでなく、被害にあった際にその被害を最小限に止めることなのです。そして被害に遭わないための最大の対策は、必要のない事は行わない事なのです。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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