女優菅井きんさんの現在に学ぶ高齢者のリハビリと希望
■女優、菅井きん:ゴジラ、必殺、家なき子、トリック・・・
女優の菅井きん(88歳)。大好きです。ここのところ、テレビではお見かけしませんでしたが、大好きな女優さんです。
1954年の映画『ゴジラ』第一作(東宝)。1973年スタートの長寿ドラマ『必殺仕置人』シリーズ(TBS)で、主役の中村主水(もんど)を演じる藤田まことをいびる姑役。「むこどの~!」が懐かしい。
1994年のヒットドラマ、安達祐実主演の『家なき子』(日本テレビ)。「同情するなら金をくれ」のセリフで有名ですが、ここでは主人公に影響をあたえる「ババア」役を好演。
2000年スタートの仲間由紀恵主演の人気テレビドラマ『トリック』(テレビ朝日)。その第一話で演じた、カルト新興宗教の教祖役も、とても印象的でした。
■菅井きん、認知症報道に「腹が立ちました」
菅井きんは、現在老人施設に入所しています。一部報道では、認知症で俳諧(はいかい)も始まっていると報道されました。
菅井きんさん、カンカンですね。そして、がんばっています。
■怒りとエネルギー
個人的な恨み、つらみは、それがエネルギーになると言う人もいますが、やはり辛いことでしょう。しかし、菅井きんの「腹が立つ」は、そんな湿っぽい個人的恨みとは違う気がします。
弱い者いじめをするな、高齢者をバカにするなというような、社会正義にも似た感覚、女優菅井きんのプライドのようにも感じます。このような感覚は、たしかに生きる力になるでしょう。
年寄り扱い、認知症扱いされたことで、心理学的に言えば「心理的リアクタンス(心理的反発)」が起きたとも言えるでしょう。悔しさをバネにするというものですね。
その悔しさも、若い人のどうしようもない悔しさとは違って、どこか余裕とユーモアを感じます。菅井きん、がんばっています。
■高齢者のリハビリと希望
若い人ならば、リハビリをする動機はたくさんあるでしょう。仕事や学校に復帰したい、恋をしたい、もう一度スポーツをしたいなど。しかし、一般論ですが、かなりの高齢者になると、リハビリの動機はなんになるでしょうか。
いまさら、仕事も結婚もスポーツもあまり考えられません。人生も秒読み段階です。でも、だからといって希望をなくし、リハビリもしなければ、心身ともに衰えるばかりです。絶望の中で最期を迎えるのは悲しいことです。
実際に90歳前後の高齢者のリハビリを担当されている方にお聞きしました。「何を目標にするのですか」と。すると、こんな答えが返ってきました。
「高齢者なりの目標があります。たとえば、「もう一度家に戻ってみんなでごはんを食べる」といったことがリハビリへの動機になるのです」。
それは、小さなことかもしれませんが、小さくても希望になります。
菅井きんの場合は、「足が丈夫になって動物園に行く」なのですね。具体的で、楽しそうな目標です。目標のない、意味を感じないリハビリや治療は、それが必要なことであっても、ただの難行苦行です。でも、意味と目標があれば、大変であっても不幸ではありません。
高齢者の望みがかなえば、ハッピーです。でも、たとえ望みが実現しなくても、目標と希望があれば絶望しません。希望を持った積極的な晩年は、人生という舞台のすばらしい花道、人生というドラマのすてきなハッピーエンドになることでしょう。
(なんてことを書いていると、「私はまだまだ20年、30年生きますよ!」と菅井きんに怒られそうですが。)