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対北朝鮮制裁に賛同の用意あり――中国訪韓し、韓国のTHAADの配備を牽制

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

中韓外交部門ハイレベル戦略対話のため中国代表が訪韓し北朝鮮への国連安保理制裁に賛同の用意があることを伝えた。但しTHAADの韓国配置をしないのが条件だ。ドイツで外相会談をし、韓国で次官級会談をした中国の思惑は?

◆中韓外交部門ハイレベル戦略対話

2月16日、第7回の中韓外交部門ハイレベル(次官級)戦略対話をソウルで行なうために、中国外交部の張業遂(ちょう・ぎょうすい)・常務副部長が訪韓し、韓国の韓国外務省の林聖男(イム・ソンナム)第一次官と対談した。

張業遂は外交部常務副部長であるため、日本語としては「外務次官」と一般に翻訳されているが、実は中国外交部の中国共産党書記で、他の副部長(外務次官)とは異なる。

中韓外交部門ハイレベル戦略対話という枠組みは、2008年12月に創立されたが、第6回対話は2013年6月3日に北京で挙行されて以来、実は途絶えている。今般は2年8カ月ぶりの開催だ。

張業遂・常務副部長は「中国は国連安保理が北朝鮮制裁に関して、これ前より厳しい新しい決議を出すことには賛成である」とした上で、「同時に対話と協力により問題の根本的解決への道を模索すべきだ」と述べた。

しかし、「米韓が韓国にTHAAD(高高度迎撃ミサイル)を配備することについて、中国は反対する」と明言した。韓国側は「THAADの配備により中国の利益が損なわれたり、韓中関係に影響が出ないように配慮する」とはしたものの、安保理決議の厳しさのレベルには、なお隔たりがあり、韓国へのTHAAD配備に関してはさらなる立場の相違がある。

◆ミュンヘンにおける中韓外相会談

中国の王毅外相は2月11日に、ミュンヘン安全保障会議出席のためにミュンヘンを訪れていた韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相と会談している。その際、北朝鮮への制裁をめぐる新たな国連安保理決議を迅速に採択する必要性について、中国も賛同するという認識は共有している。

ただし、その制裁内容に関して、ケリー国務長官が王毅外相に伝えた米議会で決議した米国独自の制裁のような制裁レベルに関しては、中国は賛同できないとしており、ましてや韓国にTHAADを配備することに関しては絶対反対だという意思を、中国政府は表明し続けている。

中国としては国際社会がこれまでより強い制裁決議をすることに関しては賛同するが、北朝鮮を極限まで追い詰める制裁をすることには賛同できないというのが基本姿勢だ。

さらに韓国にTHAADを配備するということは、事実上、中国をその射程内に入れることになる。したがって、これは対北朝鮮のための防衛ではなく、対中国を射程に置いているというのが中国の見解だ。

11日にミュンヘンで中韓外相が会談し、同じ見解を王毅外相は述べているのに、ここで敢えて、2年8か月ぶりの中韓外交部門ハイレベル戦略対話開催を口実に張業遂を訪韓させたのは、来週からTHAAD配備に関する本格的な交渉が米韓間で始まるからもあろうが、もっと別の微妙な理由もあるのではないだろうか。

◆THAADの韓国配備は中朝を軍事的に近づける――中国が警戒

THAADを韓国に配備すれば、中韓関係は必ず悪化する。

それを最高に喜ぶのは誰だろうか?

日本ではない。北朝鮮だ。

中韓関係は昨年末の日韓外相会談(慰安婦問題)で最悪になった。それでも中国は中韓関係が悪化することによって、日米や北朝鮮を利することを嫌がっているのだ。だから北朝鮮が事実上の弾道ミサイルを発射してからは、日韓外相会談への不満(恨み?)など言っていられず、2月5日に習近平国家主席はパククネ大統領と電話会談をした。

だというのに、韓国がTHAAD配備を受け容れたりすれば、習近平政権になってから、あんなにまでして築いてきた中韓蜜月は、完全に終止符を打つ。

それはすなわち、中朝軍事同盟を強化させる方向に動いてしまい、中国にとっては最悪のシナリオだ。

万一にも北朝鮮がさらに暴走し、アメリカと軍事的衝突を起こした場合には、中国は中朝軍事同盟があるために北朝鮮側に立たなければならない。中国の軍事力が現状でアメリカの軍事力に勝てるはずがない。中国は必ず負ける。となれば中国共産党による一党支配体制は、必ず崩壊するのだ。

こんなシナリオを、中国が許すはずがない。

◆韓国内にもTHAAD配備反対派が

実は韓国内にもTHAAD配備を反対している者がいるし、お金もかかるし、韓国内でだって諸問題があると、中国政府関係者は漏らした。

中国語だと翻訳しなければならないので、たとえば日本語の画像で見て頂くと、「THAADの韓国配備に反対」というのがある。そこには

――米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍配備が取り沙汰される中、市民団体がソウル市内で韓国への配備反対を訴えた。北朝鮮の事実上の長距離弾道ミサイル発射などを受けて、韓国政府は米国とTHAADの 在韓米軍配備について協議することを決めたが、中国は米軍のレーダーが自国軍の監視に利用される恐れがあるなどとして強く反対している=17日、ソウル (聯合ニュース)

と書いてある。

中国ではこういった情報を流して、いかに韓国にTHAADを配備することがまずいことであるかを強調している。

中国の一党支配体制が崩壊することは、国際社会としては望むところかもしれない。平和裏に崩壊するのなら、中国という国に初めて言論の自由が生まれるのだから、歓迎するところだ。

しかし朝鮮半島で戦争が起きることは、誰にも(日本にも)メリットをもたらさない。われわれとしても、戦争になる道は何としても避けてほしい。

いずれにしても国際社会としては、まずは国連安保理で一致して「一斉に」北朝鮮への制裁を決議するという方向で動く方が賢明だろう。

各国による独自制裁では、北朝鮮に中国への抜け道を許すだけだ。

一刻も早く国連安保理における一致した制裁が決議されることを望む。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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