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AIを使って株や為替の動きを予測するのは可能なのか

久保田博幸金融アナリスト
ニューヨーク株式市場(写真:ロイター/アフロ)

 私のような昭和生まれにとって、昔と比べて天気予報が良く当たるようになったと思うことがある。そもそも天気予報は天気占いではないので、当たるとか外れるとの表現はどうかと思うが、昔は占いでもあったかのように天気予報は外れることも多かった。

 しかし、最近の天気予報はかなり正確になっている。これまでのデータの積み重ねと、雲の動きなどが的確に予想できるだけのスーパーコンピューターによる演算能力の向上などによって、かなり正確な予報が可能になってきたものと思われる。

 それではいわゆるAIと呼ばれる技術を使って、株や為替、債券といった金融市場の動きを的確に予測することはできないのか。

 天気といった自然現象は観測地点を広げ、物理学の法則などに基づけば、より正確な予測はそれほど困難とはならないのではなかろうか。はやぶさ2が小惑星リュウグウにピンポイントでたどり着けるのも物理学などの法則にもとづくものと思われる。

 それでは、はやぶさ2をリュウグウに着陸させるのと同様に物価の番人とされる中央銀行は果たして金融政策により、ピンポイントで物価目標を達成させられるかといえば、ここにきての5年間の日銀の苦労をみれば、困難であることも明らかである。

 日銀の金融政策は金融市場を通じて行われる。今回の日銀の異次元緩和によって、条件が整えば短期金利だけでなく、長期金利もピンポイントでコントロールが可能ということは示された。しかし、金利をコントロールし、市中に出回る資金量を調節したところで、それがピンポイントで物価を動かすことにはならなかった。

 日銀は否定しているが、異次元緩和は通貨安もある程度想定していたものと思われた。こちらは金利ほどコントロールはできていなかった。これにはむろん通貨は相手国もあり、また金融政策だけで通貨はコントロールできるものではなかったためである。

 日本の長期金利は国債への信認が強いこともあって、いまのところ日銀のコントロール下に置かれているようにみえるが、条件が異なってくれば、長期金利も市場で決定されるだけにアンコントローラブルに陥る可能性は十分ある。

 この国債への信認度合いとかが国債市場には大きな影響を与える。ここにきてのイタリア国債の荒れた動きの原因もそうである。ただし、その信認度合いがどのように変化し、さらに市場のポジションの傾き度合いがどのようなものであり、結果として目先はどう反応し、それもひとつの要因となって、どのようなトレンド形成が成されるのかを予測することは難しい。

 物理特性に応じた動きであれば予測は可能かもしれないが、人の心理状態とポジションの傾き度合いが相まって相場は形成される。株や為替、債券などはいろいろな材料をどのように捉え、それが結果としてどう値動きに反映されるのか。長年ディーラーとして相場に四六時中値動きと向き合っていると、何となく相場の動きが見えてくるものの、それがどのような理由で動いているのかを的確に説明はできない。

 相場が動いている理由も的確に説明できないとなれば、予測はさらに困難となる。相場の先行きを正確に予測するのは、過去の膨大データをもとにし、人間心理をそこに加えたとしても、困難に近いのではなかろうか。ポジションを抱えた、もしくは抱えようとしている人達の立場、状況は十人十色となっている。

 しかも、テールリスクと呼ばれるものの多くは自然現象だけでなく、人が絡んでいる。リーマン・ショックやギリシャ・ショックもまさにそうであり、ブラックマンデーなどはポジションも絡んでいた。これらのリスクを分析して的確に相場を予測することは、AIという技術がどんなに発達しても難しいのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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