早期採用を「青田刈り」と思っている人は3割強
本来は「いやがうえにも」、でも「いやがおうにも」の方が多い
複数の単語を合わせて別の意味を持たせる、慣習的に認識させる言い回しを慣用句と呼んでいる。しかし普段使わない組合せであることから、異なる表現で覚えている事例も少なくない。慣用句の利用実態について、文化庁が2015年9月に発表した「平成26年度 国語に関する世論調査」の概要から幾つかの事例を挙げて、確認していくことにする。
次に示すのは4つの状況「企業が学生を早い時期に採用する事」「夢中になって見境が無くなる事」「いよいよ、ますます」「心配や不安を感じ、表情に出す事」に関し、それぞれ本来は「青田買い」「熱にうかされる」「いやがうえにも」「眉をひそめる」と、異なる言い回しだが使われる場合が多々ある言い回し「青田刈り」「熱にうなされる」「いやがおうにも」「眉をしかめる」を例示し、回答者がどちらの言い方を使うか、両方とも使うか、さらにはどちらも使わずに別の言い方を用いるか、そして「分からない」かの中から一つを選んでもらった結果。グラフでは本来の意味の選択肢の棒を赤色で塗り、さらに回答項目部分の背景色を変更している。
本来の言い回しを使われている方が多いのは「青田買い」「熱に浮かされる」。第二候補と同率なのが「眉をひそめる」、そして本来の言い回しでは無い方が多く使われてしまっているのが「いやがうえにも」。「いやがおうにも」の方が7.3%ポイント上となっている。またこの項目では「両方とも使わない」との回答が13.9%にも達している。
なお「熱にうかされる」だが漢字表記では「熱に浮かされる」。「浮かす」に受け身を意味する「れる」がついたもので、浮かばされてしまう、ふわふわとした状態になること、つまりあまりにもの熱中ぶりに心を奪われてしまうことを意味する。また発熱でうわごとを言うような状況を意味する場合もある。
「いよいよ、ますます」の意味の「いやがうえにも(弥が上にも)」だが、この本来の言い回しでは無い「いやがおうにも」は「否が応でも」と表記する。意味としては無理矢理、相手の意向を無視する形でとなり、大いに異なる意味を持ってしまうので注意が必要。
年齢階層で大きな違いを見せる認識
これらの言い回しの選択に関して、例示された2つのどちらを選んだかを、年齢階層別に見たのが次以降のグラフ。青棒は本来の意味、赤棒は別の意味で統一している。
一番直接関係があるはずの10代において、本来の言い回しでない方の「青田刈り」を用いる例の方が多くなってしまっている。他方、50代以降も「買い」と「刈り」の差はあまり開かなくなる。直接「買い」に携わる側である20~40代は、本来の言い回しに留意を払っているということか。
10代以外はすべて本来の言い回しの方が認識率が高い。特に50代から60代は大きな差が開いている。本来とは異なる言い回しの方が多いのは10代のみ。
「いやがおうにも」を使っているのは若年層。50代でもほぼ同率。60代でようやく「いやがうえにも」の方が値が上となるが、差異はさほどない。本来の意味は両言い回しで大きく異なるため、口述の限りでは聞き手側も文脈から判断することが予想されるため、さほど心配はいらないと考えられるが……。
総計値が本来の言い回し・異なる言い回しで同率の結果であることからも分かる通り、どの年齢階層でも大きな違いは出ていない。しかも世代による傾向も特に見受けられず、実質的には年齢に限らず「眉をひそめる」「眉をしかめる」の認識が肩を並べていることが分かる。
ちなみに「しかめる」も「ひそめる」も漢字表記は「顰める」で同一。一方で慣用句的に使われるのは「しかめる」のは眉では無く顔。意味としては「眉をひそめる」同様に、ネガティブな感情を有した時を表すものとなる。つまり「眉をひそめる」「顔をしかめる」が本来の言い回し。
今件慣用句的な言い回しに関しては、本来の表現を「正しい言い回し」とは表記していない。これは慣用句そのものが使われ方、時代の変遷と共に意味を変えていくため、多分に「正しい言い回し」なるものを定義できないからに他ならない。
数十年もすれば、今回挙げた表現の仕方に関しても、「本来とは異なる言い回し」の方が「従来の言い回し」として認識されるようになるかもしれない。
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