国民とともにある天皇の実像は? 映像化された歴代天皇が物語るもの
■お出ましがかなわぬ中で
来月23日に予定されていた「天皇陛下お誕生日の一般参賀」は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために行わないことが先日発表された。
新年の皇室行事「講書始の儀」と「歌会始の儀」も延期となった今、天皇陛下がお住まいの赤坂御所や皇居以外の場所で行われた公務は、1月18日の国会開会式へのご出席が久々だった。昨年来、天皇陛下はもちろんのこと、雅子さまや皇族方のお姿を目にする機会があまりない状況となっている。
そんな中で、昔の天皇の一端を垣間見る機会を偶然にも得たのである。それは、明智光秀を主人公にしたNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」。人間国宝の歌舞伎役者・坂東玉三郎さんが、戦国時代に在位した正親町(おおぎまち)天皇を、圧倒的な存在感で演じていた。国の行く末を憂い、民の思いに応えようと心を痛めるその姿は、ドラマとはいえ往時の天皇のお姿を現代に蘇らせたようなリアリティを感じさせてくれた。
まさに名優の演技によって、一瞬、あの戦国乱世の時代にタイムスリップさせてくれたのだ。印象的だったのは、正親町天皇が明智光秀に「信長が道を間違えぬよう、しっかと見届けよ」と言葉をかけ、月明かりの中、去って行くという幻想的なシーン。
神々しいほどの美しさとともに天皇の威厳をも漂わせ、かの時代の天皇とはかくあるべしという思いを強くした。
■映像化された天皇陛下
思えば映画やテレビで多くの俳優たちが、古代から現代まで歴史上の数々の天皇役を演じてきた。
1957年に公開された映画「明治天皇と日露大戦争」では、明治天皇役を鞍馬天狗で大当たりをとった、アラカンこと嵐寛寿郎さんが演じていた。
完成後の試写会には、当時の皇太子殿下(現在の上皇陛下)も足を運ばれ、ご覧になったという。この映画は大ヒットし、映画館を訪れた人たちは、アラカン扮する明治天皇が登場するたび、手を合わせて拝んだというのだから、天皇という存在がいかに日本人にとって神格化されていたのかが分かる。
センセーショナルな物議を醸したのは、2005年に製作されたロシア映画「太陽」だった。終戦前後にかけて昭和天皇の苦悩がロシア人から見た視点で描かれ、日本では賛否両論渦巻く問題作として注目されたが、結局、日本国内では数日の上映で打ち切られたと聞いている。昭和天皇役を演じたのは、一人芝居の第一人者・イッセー尾形さんだった。
近年、若者をはじめ広い世代に観られたのは、今月亡くなった昭和史研究の第一人者・半藤一利さんが書いたノンフィクション「日本のいちばん長い日」の映画であろう。2015年のリメイク版では、昭和天皇役を本木雅弘さんが熱演し、ポツダム宣言受諾の苦衷をにじませて新境地を切り開いた作品となった。
トム・クルーズと渡辺謙さんの共演で世界的なヒット作となった2003年の「ラスト サムライ」では、中村七之助さんが若き明治天皇役を演じていた。最初はおどおどと閣僚の言うことに従うばかりであったが、西南戦争を思わせる最後の内戦終結後、トム・クルーズ演じる元アメリカ軍人を引見する際、堂々とした面持ちでこんなセリフを言う。
「我々は鉄砲や大砲、西欧の衣装を手に入れたが、日本人たることを忘れてはならぬ」
明治維新を経て近代国家へと変貌する大きな過渡期に、実際の明治天皇はまさに同じことを考えておられたのではないだろうか。リアルな天皇像が描出されているように感じるシーンであった。
■実像に迫る、映像化された歴代天皇
この他にもたくさんの映画作品やテレビドラマで、多くの俳優が天皇役を演じているが、やはり心に残るのは、国を統べる立場にあるからこそ、そこに生まれる苦悩や葛藤を描いた作品だろう。そして、天皇が国民を安寧に導き、国家の繁栄を願って模索されるお姿は、時代ごとの実像と重なっているような気がする。
私たちは天皇ご一家や上皇ご夫妻、そして皇族方の笑顔に触れてきたが、その内面は拝察するしかない。
しかし、フィクションの世界で描かれる天皇のお姿は、私たちに国民とともに歩む天皇の実像を、より鮮明に語り掛けてくれる。コロナ禍で天皇皇后両陛下のお出ましがなかなか見られないこの時期、上記のような映像作品を鑑賞し、天皇というお立場がいかに大変なのかを知るには、良い機会かもしれない。