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米国最後の半導体雑誌SSTが新興オンラインメディアに買収された

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
SSTのよきライバルだったSemiconductor International

半導体技術の最後の雑誌であったSolid State Technologyが身売りすることになった。通称SSTは、3~4年前に休刊になったSemiconductor Internationalの良きライバルとして米国の半導体産業と共に歩んできた。

ただ、今回の買収劇は急すぎて、いったいどうなっているのかまだはっきりしない。確かなことは、SSTの編集長であるPete Singer氏も一緒にExtension Mediaに行ってしまったことだ。SSTのホームページを見ると、また従来のPennwellから発行されていることになっている。たった今、Peteにメールで問い合わせたところなので、いずれ明らかになるだろう。

買収したExtension Mediaは、CMPとMiller Freemanという古い出版社にいた人たちが設立した新興出版社である。半導体チップ設計、組み込みシステム、ソフトウエア、IPなど、いわゆるエレクトロニクス・半導体・ITを主とする出版社だ。ここが発行しているChip Designは独立性の高いメディアだが、たくさんのカスタムパブリッシングで稼いでいる出版社でもある。

日本でもB2Bメディアの雄であった日経BP社の勢いが以前ほどではなくなった。昔のような完全独立の出版社はもはやB2Bメディアでは成り立たないのかもしれない。特に紙媒体は数年前から次々と休刊していった。私がリードで立ち上げたSemiconductor International日本版、日経マグロウヒルで立ち上げた日経マイクロデバイス、Nikkei Electronics Asia(英文媒体)は休刊した。工業調査会の電子材料、日刊工業新聞の電子技術、EDN Japan、EE Times Japanなどの紙媒体も次々と姿を消した。

今生き残っている紙媒体も青息吐息状態だと聞く。IT Mediaが健闘しているとはいえ、オンラインも含めた出版社が快走しているという話は聞かない。半導体関係では今は電子ジャーナルと半導体産業新聞しか紙媒体は残っていない。いずれも快調という訳ではない。何とか生き残っているという状態だ。

ではインターネット媒体は快調か。残念ながら昔と同じビジネスモデルでは難しい。単なるバナー広告だけのビジネスモデルや会員制でB2Bメディアを運営することはかなりしんどくなっている。インターネットのコンテンツの多くが無料で読めるということとも相まって、有料にするととたんに読者がぐっと減る。米国のNew York Timesでさえも、有料にしたり無料にしたり、試行錯誤を重ねている。

一般メディアと同様、専門メディアでも、編集の独立性は担保されていなければメディアとしての価値を生まないことに変わりはない。このため、独立性を確保しながら、いかにして収益を上げるか、が大きな課題となっている。

Extension Media の試みは、新しいB2Bメディアのビジネスモデルなのかもしれない。彼らは、独立性のある中立メディアを発行しながら、カスタムパブリッシングメディアもたくさん持っている。すなわち、収益はカスタムパブリッシングで得て、媒体コンテンツの持つ価値は中立メディアで生む、という仕掛けなのかもしれない。もちろん、彼らが本当に成功しているのかどうかはまだわからない。しかし、従来とは違ったビジネスモデルで収益を稼いでいることは間違いない。

Extension Mediaが発行しているChip DesignのJohn Byler編集長もまた知り合いであるし、Chip Design とコラボしているSemiconductor Design & ManufacturingのEd Sperling編集長も友達だ。新しいB2Bメディアビジネスはどうあるべきなのか、10月にまたシリコンバレーに行くので、詳しく聞いてみようと思う。

(2013/06/13)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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