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東京五輪の予選にすら立てない選手が続出…韓国スポーツ「孝子種目」の災難

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
キム・ヒョンウも東京五輪出場権を逃した(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナ感染症の影響で、東京オリンピック出場への道が閉ざされてしまった。韓国スポーツ界が恐れ心配されていたことが起きてしまった。

レスリング韓国代表が、新型コロナウイルス感染症の影響によってたった2人しか東京五輪の出場権を獲得できなかったというのだ。

韓国でも日本同様に五輪出場予定のアスリートを対象にしたワクチン接種の是非がいろいろと話題になっているが、ワクチン接種以前の問題が起きてしまった印象だ。

というのも、レスリング韓国代表は4月12日から18日までカザフスタンのアルマトイで行われた東京五輪アジア予選と、5月4日から9日までブルガリアのソフィアで行われた世界最終予選にそれぞれ参加したが、なんとコーチ陣含め大会に派遣された23人中、18人から新型コロナ陽性反応が出てしまい、思うように大会を消化できなかった。

その中には、グレコローマンスタイルで2012年ロンドン五輪と2014年仁川アジア大会で金メダル、2016年リオデジャネイロ五輪と2018年ジャカルタ・アジア大会でも銅メダルを獲得したキム・ヒョンウも含まれていた。

キム・ヒョンウは世界最終予選前に陽性判定を受け、大会に出場することができなかったのだ。

この結果、韓国はグレコローマンスタイル67キロ級のリュ・ハンスと130キロ級キム・ミンソクだけが出場権を獲得。東京五輪にはたった2名しか派遣できなくなった。

そもそも韓国ではかつてレスリングは“ヒョジャ種目”のはずだった。

「ヒョジャ」とは漢字にすると「孝子」。韓国ではオリンピックでメダルが確実視される競技や種目は「(国に)孝行している」という意味を込めて“ヒョジャ(孝子)種目”と呼ぶのだが、レスリングは文字通り、最初の「孝子種目」。韓国初のオリンピック金メダルは、1976年モントリオール五輪の男子レスリング・フリースタイル62キロ級のヤン・ジョンモだった。

以降、韓国レスリングは2004年アテネ大会まで、出場した五輪すべてでかならずメダルを獲得して「孝子種目」の地位を守り続けてきた。そんな韓国レスリングを財閥もバックアップ。かつてはサムスン・グループ総帥だった故イ・ゴンヒ氏が韓国レスリンク協会トップを務めていた時期もあったほどだ。

(参考記事:大財閥サムスン会長の死去で韓国のスポーツ界の未来が不透明になるワケ)

ただ、そのサムスンがレスリングから撤退した2000年代後半に入ると、韓国レスリングも斜陽に。2012年ロンドン五輪と2016リオ五輪では前出したキム・ヒョンウだけがメダリストだった。

東京五輪ではそのキム・ヒョンウも欠き、たった2名で臨むことになった韓国レスリング。

オリンピック出場人数2人は過去に例がないほど最も少ない数字だ。以前は1972年モントリオール五輪で11人、2012年ロンドン五輪で9人の選手を派遣したが、前回の2016年リオ五輪では選手団の規模が5人に減少。東京五輪ではさらに少なくなってしまったことに、関係者たちが大きく落胆していることは言うまでもないだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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