発射するのか、しないのか、待機状態の北朝鮮の弾道ミサイル!
米韓の合同軍事演習(16-20日)が始まった。
朝鮮半島の東西海域で実施される演習には「動く海軍基地」と称される原子力空母「ロナルドレーガン」も世界最大規模の原子力潜水艦「ミシガン」も参加している。4隻のイージス艦と2隻の原子力潜水艦に加えて韓国からもイージス駆逐艦の「世宗大王艦」が合流し、訓練に動員される米韓の艦船は40隻以上に上る。
海上での演習にはP-3海上哨戒機リングスと(Lynx)AW-159海上作戦ヘリ UH-60、MH-60Rなどの対潜ヘリ、アパッチ攻撃ヘリAH-64E、F-15K戦闘機やFA-18対戦車攻撃なども動員される。昨年よりも戦力は増強されている。北朝鮮がミサイル発射の動きを示していることと無関係ではない。
韓国のメディアは先週(14日)、平壌からミサイルを搭載した発射台が格納庫から移動する様子が「米偵察衛星によって捕捉された」と伝えていた。移動時期は10日頃とみられている。
ミサイルの種類は確認されてないが、一段式の「火星12号」、あるいは二段式の「火星14号」、さらには一度も発射テストされてない三段式の「火星13号」が取り沙汰されている。何であれ、発射されれば、グアムやハワイ、米本土を脅すことになる。
北朝鮮は9月15日に発射した「火星12号」以来、ミサイル発射を行ってない。北朝鮮が1か月以上もミサイルを発射しなかったのは、今年1年に限ってみると、初めてのことだ。自制しているのか、それとも発射準備が整ってなかったのか、理由は不明だ。
日本列島を飛び越えた「火星12号」発射の翌日、トランプ大統領が核戦略爆撃機「B―2」を前に北朝鮮に向かって「審判の日が来るだろう」と威嚇し、また国連での演説(19日)で「北朝鮮を破壊する」と牽制したことでもしかすると、慎重になっているのかもしれない。米本土を攻撃できるICBMをまだ完成してない段階での米国との軍事衝突は避けたいのが本音だろう。
トランプ大統領にはすでにペンタゴンから軍事オプション計画が提出され、いつでも臨戦態勢に入れる状況下でのミサイル発射はへたをすると、米国に先制攻撃の口実を与えかねない。
また、18日から始まる中国の共産党大会を前に、あるいは大会期間中に発射すれば、中国からの「報復」も覚悟しなければならない。
周知のように中国は昨年から今年にかけて「G20」や「一帯一路」など鳴り物入りの国際的なイベントを再三にわたって北朝鮮の核実験やミサイル発射などで台無しにされてきたが、それでも中国はまだ、北朝鮮の息の根を止めるような原油供給中止などの制裁には踏み切ってない。仮に北朝鮮が今回また、中国の晴やかな舞台に冷水を浴びせるようなことをすれば、中国を完全に敵に回すことになりかねない。
北朝鮮にとって常識的に考えて、このタイミングでの発射はあまりにもリスクが多すぎる。従って、避けるかもしれない。また、ミサイルが平壌から移動したからと言って、決して発射されるとは限らない。
先月も28日頃、平壌郊外の山陰洞の兵器研究所(工場)から複数のミサイルがどこかに移動したと伝えられていた。また、北朝鮮のミサイルの移動に合わせ米軍のミサイル追跡艦「ハワード・レーレンシェン」が28日午後、長崎の佐世保から出航したことも確認された。過去3回この追跡艦が出航してから数日後にミサイルが発射されていたことから警戒されたが、9月の発射はなかった。
今回のミサイルの移動は米韓合同軍事演習への牽制、対抗措置の一環かもしれない。4年前の2013年の危機の時も北朝鮮は米韓合同軍事演習に対抗し、中距離弾道ミサイル「ムスダン」を日本海に面した東海岸基地に移動させたが、発射することはなかった。
しかし、発射の準備が整っているならば、ボタンを押す可能性も否定できない。「一歩も引き下がらない」と虚勢を張ってきた手前、米国の軍事プレッシャーを前に委縮し、このまま何もできなければ、足元を見られるからだ。
また、金正恩委員長自らが声明(9月21日)を出して「米国の老いぼれた狂人を必ず、必ず火でしずめるだろう」と啖呵を切った以上、どこかのタイミングで予告している「史上最高の超強硬対応措置」を断行するのだろう。
北朝鮮は「世界は我々がどのように米国を罰するかを、しっかりと目の当たりにすることになる」(外務省声明)と公言し、5日前も労働新聞(10月12日付)が「制裁と封鎖、軍事圧力の策動を水の泡にし、国家核武力の完成目標を我々がどう完成させるか(米国は)自分の目で見ることになるだろう」と予告していた。
北朝鮮の李容浩外相は訪朝したタス通信代表団とのインタビュー(11日)で▲米国との力の均衡を維持する最終目標はゴール寸前にある▲核武力完成の歴史的課業を成功裏に終わらせると発言し、さらなる核実験とミサイル発射をこれまた示唆していた。
原子力潜水艦「ミシガン」が釜山に入港したことに反発し、外務省外郭団体の米国研究所の研究員は「我々はグアム周辺に対する包囲射撃を含む自衛的対応措置を取ることを再三警告してきた」と述べたうえで、「米国は我々にその引き金を引かそうとしている」と、これから行うかもしれないミサイル発射の責任は米国にあるとの予防線を張っていた。
北朝鮮がミサイルを今月中に発射するのか、それともトランプ大統領の日韓中歴訪(11月5-8日)中に発射するのか、どちらにしても、発射は避けられないだろう。