国立「新」デザイン決定で思い出すシドニー・クリケット・グラウンドの19世紀と現代の融合
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場のデザインは大成建設と隈研吾氏によるいわゆる「A案」に決まったようだ。「木と緑」がテーマだという。個人的にはあまり特徴を感じないが、何せ今回は建設日程や予算が議論の対象になっていたので、奇抜なものはそもそも期待すべきではなかった。
ぼくは、日本以外でも(といってもほとんどがアメリカだが)で50くらいの会場で野球を観てきたが、その中で特にデザイン的に印象に残っているスタジアムをちょっと紹介したい。
それは、2014年の3月にMLB初の南半球での公式戦となったダイヤモンドバックス対ドジャースの開幕シリーズ計4試合(エキジビションも含む)を観戦したシドニー・クリケット・グラウンド(以下SCG)だ。
ここは、その名前が示す通り本来はクリケット用のスタジアムなのだが、その時はMLBの球場規定に合わせるために大掛かりな改装を一時的に施し使用した(開幕シリーズ終了後に再び元の姿に戻した)。ダイヤモンドやマウンド、ダグアウトを新設したのだが、一連の改装の中でも特に大変だったのが、マウンドや内野の塁間、外野のウオーニングトラックに敷き詰める土の調達だったようで、現地産の材料をどうブレンドしてもMLB基準を満たすものはできず、結局カリフォルニアから約300トンの粘土を輸入したそうだ。
そして、このSCGの最大の魅力は19世紀と現代の融合だった。一見すると近代的な外観を持つため分かり難いが、完成はなんと1848年だ。そのことは、スタジアムを一周すると理解できた。円形の競技場のスタンドの一部(一塁側のベースからファウルポールにかけてのあたり)が19世紀中盤からの古色蒼然としたオリジナル状態に保たれて、今もそのまま使用されているのだ。その他の部分は基本的に1980年代以降に順次建て替えられているようで、比較的モダンなデザインだった。要するにフェンウエイ・パークやリグレー・フィールドと近代的なスタジアムが同居しているようなものだ。「このテがあったのか」と、多いに敬服したのを覚えている。
国立競技場に話を戻すと、もともと「旧」がそれほど特徴的なデザインだった訳ではないので、SCGのようなアプローチは難しかったと思うが、前回の東京五輪より前に生まれた世代としては、どこかに「旧」のテイストを残すものであって欲しかったなあ、というのは正直な感想だ。