「今の日本はがん治療などで仕事を続けにくい」6割近くが同意(2019年公開版)
日本における最大の死因のがんだが、その検査や治療には少なからぬ時間が必要となる。一般的ながん検診は1つの部位に付き数十分で済むものの、事前の準備や待ち時間も合わせると、半日から1日丸ごと時間を空ける必要が生じる。そして検査の後は終日安静を求められることも少なくない。ましてや治療が必要との判断が下り、通院治療となれば、月数回の通院が求められることになる。そのような状況に置かれた場合、今の日本では就業の継続は可能なのだろうか。内閣府大臣官房政府広報室が2019年9月に発表した「がん対策・たばこ対策に関する世論調査」(※)から確認する。
他の病気同様にがんもまた、治療の開始時期が治療動向・リスクの高低に大きな影響を与える。そして早期治療のためには早期発見が欠かせないが、それには定期的な検診が必要不可欠になる。ところが日本のがん検診受診率は低く、今調査の限りでも部位を問わずに2年以内に受診した経験がある人は5割台程度にとどまっている。
この「検診を避ける」状況を作り出す一因が、がん検診やがん治療に対する社会的認識。がん検診、さらにはがん治療では、冒頭で触れたように時間を割いた(=休みを取った上での)通院、場合によっては入院が必要になる。検診の場合は年に1度の期間、数回分(部位ごとに検診を行い、一度にまとめて受けられないこともあるため)で済むが、治療の場合は中長期にわたり月数回単位で定期的な通院が求められる。
そこで「2週間に1度程度(明記は無いが事実上1日丸ごとを使い)通院しなければならない」場合を仮定し、その場合、現代の日本社会は仕事を継続できる環境にあるかと尋ねたところ、「そのような状況でも仕事を続けられる」と考えている人は37.1%に留まっていた。対して「仕事の継続は難しそう」との意見は57.5%に及ぶ。
がん検診・がん治療に限った話ではないが、「体のメンテナンス、チェック」に相当する医療機関への時間投入には、厳しい目が向けられているとの認識が高い。
男女別では女性、年齢階層別では60代以上の高齢層の方が、より一層「がん検診や治療通院で2週に1度定期的な休みが必要な場合、働き続けられない」とする意見が強い。女性の場合は職場での立場の弱さ、高齢層では重責にあるために治療の時間を取りにくいとの判断があるのだろう(要は回答者自身における「もしも」を社会全体の認識と重ねてしまっている)。
しかし一方で、50代まででも「通院・治療に至っても仕事を継続できる」とする意見は4割前後でしかない。企業、そして社会全体の理解度の低さが「がん検診そのもの、そして検診で仮にがんが見つかり通院治療を始めたら、仕事を辞めざるを得ない。あるいは時間を割けるよう配慮してもらうのは難しいので、通院治療そのものが不可能」との発想に至り、それががん検診率を下げる一因となっていると考えられる。
実際、「そう思わない」派(「どちらかといえばそう思わない」+「そう思わない」)に具体的理由を聞いたところ、時間を割けるような職場環境に無いと回答した人が多い。女性では体力的に困難との意見がトップだが、男性では仕事を代わりにしてくれる人が見つからないとの意見が最大値を示している。
職場環境自身にリソース的・精神的余裕が無いのも原因ではあるが、何か必要な事態が発生した際に、該当者が席を外し他の人が一時的にバトンを引き受ける雰囲気、慣習そのものが薄いのが問題といえる。この点は育児休暇(特に男性)でも見られる事象で、大いに問題視すべき点である。
今調査はおおよそ2年おきの定点調査だが、この数年の限りでは環境に大きな変化は無かった。直近年の結果では、「そう思う」派(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)が増えているのは喜ばしい限り。しかしながら増えているとはいえ、まだ3~4割程度でしかない。
制度の整備とともに、がん、そしてそれ以外も含め、疾病そのものとその予防・検診・治療に対する認識や理解を一人一人が、そして社会全体が高めてほしいものだ。
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※がん対策・たばこ対策に関する世論調査
2019年7月25日から8月4日にかけて、層化2段無作為抽出法によって選ばれた全国18歳以上の日本国籍を持つ人に対し、調査員による個別面接聴取方式にて行われたもので、有効回答数は1647人。男女比は774対873、世代構成比は18~19歳29人・20代126人・30代178人・40代295人・50代268人・60代324人・70歳以上427人。
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