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福島第一原発、欺瞞の廃炉目標 ── 燃料デブリはどこへ行く?

木野龍逸フリーランスライター
富岡町から福島第一原発を遠望する。距離約10km(2014年7月撮影)

政府は30年から40年後に廃炉(法律用語では「廃止措置」)にすることを目標に、復興政策を進めている。しかしこの目標が達成できる可能性は、残念ながら非常に低いというしかないのが現実だ。

政府と東電が公表しているロードマップは、廃止措置までの工程を以下のように想定している。

中長期ロードマップの工程

・第1期

ステップ2(※)完了〜使用済み燃料プール内の燃料取り出し開始まで

目標時期:ステップ2完了から2年以内

・第2期

第1期終了〜燃料デブリ取り出し開始まで

目標時期:ステップ2完了から10年以内

・第3期

第2期終了〜廃止措置終了まで

目標時期:ステップ2完了から30〜40年後

※「ステップ2」は、2011年4月に示された「事故の収束に向けた道筋」で示された目標で、2011年12月16日に野田政権が完了を確認。同年12月24日に閣議決定された「『日本再生の基本戦略』について」の中で、ステップ2完了を明記するとともに、「道筋」を継承する「廃止措置に向けた中長期ロードマップ」に沿って作業を進め、「廃止措置に向けた取組」を進めると記載している。

ロードマップが最終目標にしている「廃止措置」は、燃料デブリを取り出して更地にすることを意味している。それにもかかわらず政府は、取り出した燃料デブリをどこに持っていくのかの議論を棚上げにしてしまっている。

燃料デブリは、核燃料だけでなく、核燃料を収めている原子炉圧力容器や格納容器、それらに付随する補機類や配管などの構造物が、メルトダウンによっていちど溶けたあと、一緒になって冷やされて塊になった物体だ。現在、取り出しを進めている使用済み核燃料に比べても、はるかに危険性の高い「高レベル放射性廃棄物」である。

スリーマイル島原発2号機の事故では、134トンの燃料デブリが発生したという。(http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=02-07-04-09)。福島第一原発は、圧力容器内で溶融燃料がとどまったスリーマイル島原発とは違い格納容器にまで溶け落ちているので、デブリの量は圧倒的に多い。しかも3基分だ。そして今のところ、その量も、場所も、状態も、まったくわかっていない。

スリーマイル島原発から取り出した燃料デブリは、アイダホ州アイダホフォールズの国立研究所に保管されている。スリーマイル島のあるペンシルベニア州は北米大陸の東側なので、アイダホ州まで大陸を横断したことになる。それだけ、保管場所が限定されていたということだ。

では日本に、燃料デブリのような高レベル放射性廃棄物を持っていく場所があるのだろうか。

おそらく、ないだろう。

原発事故で発生した放射性廃棄物の処分先すら決まっていない中では、はるかに放射能が強い燃料デブリを引き受ける自治体があるとは、とても想像ができない。

ましてや原発の運転で発生した使用済み燃料など核のゴミの処分方法に見通しがつかない中で、燃料デブリの処分方法が先に決まるのだろうか。「トイレなきマンション」といわれたように、原発の本質に関する問題を先送りにする政府の体質は、事故収束作業でも同じように再現されているといえる。

今のままでは、取り出すための作業をしても、持って行き場がないことですべてが徒労になってしまう可能性も否定できない。

デブリ取り出しに向けた作業は、高線量の原子炉建屋の除染や格納容器の調査などがすでに始まっている。作業はコストがかかるだけでなく、作業員の被曝を伴う。燃料デブリの行き先が決まらなければ、こうした作業の多くが無駄になってしまうかもしれない。

それでも政府、東電は、「ロードマップでは取り出すことが目標になっている」というだけで、取り出しができない、あるいは行き場がない可能性について言及することを避け続けている。

廃止措置ができなければ燃料デブリは百年単位でその場に留まることになるにもかかわらず、そのことは議論せずに避難指示解除や福島県の復興計画を進めている。

安倍政権は2013年12月20日に、避難者の早期帰還などを目指す「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を閣議決定した。いわゆる復興加速化指針だ。

さらに政府は2014年6月23日に「福島・国際研究産業都市構想」(イノベーション・コースト構想)を発表。燃料デブリ取り出しのための研究開発や、廃炉に向けた地域再生計画を打ち出し、復興加速化指針と一体的に具体化を進めていくとしている。

復興加速化指針が掲げる目標は「早期帰還支援と新生活支援の両面で福島を支える」、「福島第一原発の事故収束に向けた取り組みを強化する」、「国が前面に立って原子力災害からの福島の再生を加速する」ことの3つだ。このうち2つめの原発事故については本文で「福島第一原発の事故収束は、福島再生の大前提である」とし、どのように事故収束を実現するかという「方策も明らかにする」と明記している。

もしそうであればなおさら、真っ先に議論すべきは、燃料デブリの処分場所ではないだろうか。現時点で見えている、おそらく最大の課題である以上、少なくとも事故収束作業と並行して議論を進めるべきではないのか。事故収束と廃止措置は別、という話が飛び出さない限り、燃料デブリの行き先が見つからなければ復興計画の土台が成り立たないだろう。

都合の悪い条件を排除した工程表は、画竜点睛を欠くというよりは現実から目を背けた夢物語でしかないだけでなく、欺瞞が明らかになった時には被害者に新たな負担を課す可能性すらある。

政府、あるいは事故収束作業に関わっている関係者は一刻も早く、廃止措置が現実的なのか、実現性があるのか、このまま進めるなら大量に出てくる核廃棄物をどうするのか、数十年後の福島第一原発の状態をどのように想定したらいいのかについて、公の場での議論の俎上に載せるべきだ。そこには関係する市民の参加も必要だろう。それをせずに現在の復興計画を進めるのは、原発事故の被害者への重大な背信行為ではないだろうか。

フリーランスライター

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況等を中心に取材中。ニコニコチャンネルなどでメルマガ配信。連載記事「不思議な裁判官人事」で「PEP(政策起業家プラットフォーム)ジャーナリズム大賞2022 特別賞」受賞。著作に「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)他。

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