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北朝鮮6回目核実験は米攻撃ミサイルに搭載可能な新型「水爆」 前より10倍強力で白頭山の噴火を誘発?

木村正人在英国際ジャーナリスト
大陸間弾道ミサイルに搭載できるという水爆について説明を受ける金正恩(労働新聞)

日本の気象庁は、9月3日午後零時半ごろ(日本時間)に観測した北朝鮮の地震(マグニチュード6.1)について、昨年9月の5回目核実験(M5.3)をはじめ過去に観測された震動波形と類似していると発表しました。

【気象庁の発表】

発生時刻: 3日12時29分57秒

北緯:41.3度

東経:129.1度

深さ:0キロメートル

マグニチュード(M):6.1

小型化された水爆弾頭を視察する金正恩(労働新聞より)
小型化された水爆弾頭を視察する金正恩(労働新聞より)

北朝鮮の機関紙「労働新聞」電子版は、兵器産業を担当する政府高官と核兵器研究所の研究員に囲まれ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭に入る「水爆」を笑顔で視察する朝鮮労働党委員長、金正恩の写真を3枚も掲載しています。もちろん「水爆」が本物か、模型かは私たちには分かりません。

金正恩は「主体思想(中ソ対立、アメリカ・韓国と敵対する中で北朝鮮が自立して生きのびていくための政治思想)に基づく自国産の水爆をこの目で見て、莫大な費用をかけて核兵器を強化してきたことを誇りに思う」と胸を張っています。

水爆の核出力は10キロトンから数百キロトンまで調整可能で、電子機器に不可逆的な損失を強いる電磁パルス(EMP)を発生させるため高い高度で爆発させられると述べ、「強力な核兵器を欲するだけ生産できる」と豪語しています。

電磁パルスは、情報・電力インフラが整備され、社会の依存度が加速度的に高まる中で安全保障上の脅威として改めて注目されるようになってきました。電磁パルスによって電力・通信インフラが不可逆的に広範囲にダウンしてゆく大停電事象を「ブラックアウト事態」と呼んでいます。

北朝鮮は弾道ミサイルに搭載した水爆を高い高度で爆発させることで「ブラックアウト事態」を引き起こす能力を身に着けたと宣言しています。

1962年にアメリカがスペースシャトルの軌道とほぼ同じ高度約1040キロメートルの大気圏内で水爆実験を行った際、約3360キロメートル北西の都市でブラックアウト事態が発生。ソ連も同じ時期、カザフスタン上空で大気圏内核実験を行った際、約600キロメートルにわたって地下の埋設ケーブルに損害が出たことを確認しています。

CNNデータより筆者作成
CNNデータより筆者作成

金正恩はアメリカを2国間交渉のテーブルに引きずり出す新たな「政治的カード」を手に入れたわけです。韓国気象庁によると、今回の爆発は昨年9月の5回目核実験より9.8倍も強力だそうです。中国当局は「M4.6」と低く観測していますが、アメリカ地質調査所(USGS)は「M5.6で、地下10キロメートルで爆発」としていた当初発表を、日本の気象庁発表に近い「M6.3で 、地下ゼロキロメートルで爆発」と訂正しました。

「大陸間弾道ミサイルに搭載できる水爆」という北朝鮮の大本営発表はともかく、北朝鮮がとんでもないスピードで核・ミサイル開発を進め、米本土攻撃能力という最終ゴールまで近づいていることはもはや疑う余地はないようです。

気象庁発表から地震の震動波形を見てみましょう。

出所:日本の気象庁発表資料
出所:日本の気象庁発表資料

今回と昨年9月の5回目核実験の震源に近い場所で観測された自然地震の振動波形です。自然地震では最初に小さなP波が観測され、次に大きなS波が到達します。核実験による人工地震である上の2つのグラフを見ると突然、P派の大きな揺れが観測されていることが分かります。

同

次に震央を見ると少しずつ動いていますが、6回とも核実験場がある咸鏡北道吉州郡豊渓里(プンゲリ)を指しています。

出所:グーグルマップで筆者作成
出所:グーグルマップで筆者作成

北朝鮮は5回目核実験でも「戦略的弾道ミサイル用に規格化された核弾頭のテスト」と発表していますが、「水爆」とは言っていませんでした。今回の「労働新聞」の写真が本当なら2回目の核弾頭テストを水爆で実施し、大陸間弾道ミサイルに搭載できる水爆の小型化に成功したことを世界に宣言したかたちです。

アメリカのトランプ政権は、イランに効いた第2次制裁が北朝鮮にも効果があるとして、核・ミサイル開発から経済活動に広げて中国やロシアの企業や銀行にも単独で制裁を発動しています。しかし北朝鮮はイランと違って完全な独裁国家であり、核兵器保有国です。どんなに制裁を強化しても苦しむのは罪のない一般大衆で、金正恩や側近、核兵器研究者は核実験の成功に高笑いです。

トランプ政権が制裁強化を打ち出し、中国やロシアは口では北朝鮮を非難しても、アメリカ、日本、韓国ほど真剣に北朝鮮の核・ミサイル開発を止めようとしているようには見えません。中国やロシアが動いてくれない限り、西側諸国は北朝鮮を「核兵器保有国」として扱わなければならなくなってしまいます。

北朝鮮が核実験を続けると、核実験場の豊渓里から114キロメートルの距離にある中国国境の白頭山が火山爆発を起こすという海外メディアの報道が続いていますが、米ジョンズ・ホプキンス大学が運営する北朝鮮専門ウェブサイト「38ノース」によると、過去のデータを見ると、そんなことはあり得ないそうです。

(おわり)

参考:防衛研究所紀要「ブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望」一政祐行著

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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