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中国の党と政府のメディアがSMAP解散騒動を報道!

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

SMAPの解散と撤回発言に関して、中国共産党の機関紙や中国政府通信社などのウェブサイトが言及し、中央テレビ局CCTVも放映。温家宝元首相が日中和解の手段に使ったほど中国の若者のSMAP人気は高いが、あの反日国家がなぜ?

◆中国共産党機関紙「人民日報」のウェブサイト「人民網」

まずは中国共産党機関紙「人民日報」のウェブサイト「人民網」が書いた記事。

1月20日08:11に、「人民網」が「日本のSMAP、5人揃って謝罪 結局解散しないことに」という見出しで記事を掲載。そこには日本のメディアの「生放送」という文字付の画面が二つ、大きく貼り付けてある。

一つは5人が揃って生番組で謝罪する場面で、もう一つは木村拓哉が一人大写しになっている画面だ。

おおむね以下のように解説している。

――日本の報道によれば、分裂騒ぎを起こしたSMAPの5人が、1月18日に放送する《SMAP × SMAP》という番組の中で、ナマ出演し、解散に関して説明をした。SMAPは今後も存在すると表明し、木村拓哉がファンに心配をかけたことを詫びた。そしてこれからもともに前に向かって進んでいくと言った。

記事は続けてメンバー一人一人の発言を紹介しているが、日本で報道されたままなので省略する。

この記事を書いた記者の筆名が「小新」。これは「クレヨンしんちゃん」の「しんちゃん」を表す中国語だ。「チャン」に相当する言葉はないので、一般に前に「小」という文字を付けて表す。

日本のアニメを見て育った、「80后(バーリンホウ)」(1980年以降に生まれた世代)以降の生まれであることが、この筆名からわかる。

◆中国政府の通信社「新華社」のウェブサイト「新華網」

つぎに1月21日10:31:20に公開された「新華網」の場合を見てみよう。見出しは「SMAPは謝罪会見したあとも紛争が絶えない 木村拓哉と4人の関係が悪化」である。

もともとのニュースソースは「騰訊娯楽」だ。

概ね、以下のことが書いてある。

―― 日本の「天団(トップアイドルグループ)」SMAPの解散騒動に関しては、たしかに一応幕を下ろしたものの、しかし今週月曜日(1月18日)に行った謝罪生放送で紛争が収まったとは言えないようだ。隊長の中居正広と木村拓哉的との仲がさらに悪化したと言われている。ある(日本の)記者は、「もともとは中井に最初に発言させて、喜多川社長に謝罪する機会を作ってくれた木村に感謝の言葉を述べさせることになっていたのに、中井がそれを拒否したので、結果、草なぎ剛が代弁することになったのだ」という。おまけに当日、木村だけは一人で一つの控室を使い、他の4人が一緒にもう一つの控室を使ったとのこと。また、一部のファンがネット上で署名活動を呼び掛け、ジャニーズ事務所の喜多川副社長に辞職しろと要求している。日本政府はSMAPに国民栄誉賞を与えようとしていたが、解散騒動により取り消したようだ。

新華網がこのような記事を載せたものだから、他のウェブサイトもつぎつぎに転載し、中国のネット空間は一時炎上した。

◆「人民日報」の姉妹版「環球時報」のウェブサイト「環球網」

2016年1月21日11:31、環球網は「大騒ぎした後に、結局解散しない」という見出しで報道している。

「人民網」の姉妹版なので、内容は人民網と同じだ。

◆中共中央機関紙の一つ「光明日報」のウェブサイト「光明網」

中国には、中華人民共和国が誕生する前の1949年6月16日に創刊された「光明日報」という新聞がある。現在では中国共産党中央委員会(中共中央)の機関紙の一つで、中宣部(中共中央宣伝部)が管轄している。

そのような新聞のウェブサイト「光明網」までが、SMAP解散劇と謝罪に関して「安心して、smapは解散しないよ」という記事を発表。「蘭州晩報(蘭州夕刊)」の転載だ。

内容はほぼ同じなうえに長いので省くが、瞬間最高視聴率は37.2%を越えたという、日本の情報を報道している。

◆中央テレビ局CCTVまでが

中共中央管轄下のウェブサイトがすべて一斉に報道しているので、もちろん同じ管轄下の中央テレビ局CCTVも例外ではない。全国向けの放送の中でSMAP解散劇を扱った。

直接のURLを示したいのだが、探し出すのが困難だったので、中国のツイッターである「微博(ウェイボー)」の中にある画像をクリックして頂きたい。左上に「CCTV13」という文字があり、真ん中に△が横になった印がある動画があるので、その△をクリックして頂ければCCTV13(新聞チャンネル)を視聴することができる。ベージュ色の服を着た女性が映っている画像だ。

これにより、中国の党と政府という、国中が国家として報道したということになる。

◆なぜ、国家が?

日本人としては、「あの反日歴史闘争で先鋭化している中国がなぜ?」という疑問を持ってしまうだろう。

しかし、冒頭に紹介した「人民網」の記事を書いた記者の筆名「小新」にもある通り、1980年以降に生まれた中国の若者で、日本のアニメや漫画を見ないで育った者はいないと言っても過言ではないほど、日本の動漫(動画+漫画)に魅せられて育っている。

日本のサブカルチャーへのあこがれは、動漫に留まらず、映画やテレビドラマ、そして何よりも日本のアイドルへの熱気には尋常でないものがあった。

中でも「天団」という言葉まで生んでしまった日本の「トップアイドルグループ」SMAPへの人気は飛びぬけていた。

そのため、2010年に尖閣問題ですっかり悪化してしまった日中関係をなんとか打開しようと、2011年5月に日中韓の3か国首脳会議に出席するため訪日していた温家宝(元)首相は、東日本大震災で被災した宮城県と福島県をそれぞれ視察し、都内のホテルでSMAPと会った。そのとき中国語で「世界に一つの花」を歌ったことは有名だ。これも当時、中央テレビ局CCTVで報道されたが、今は中国政府管轄下の香港の「鳳凰チャンネル」の動画しか見つからないので、興味のある方はクリックして見ていただきたい。

温家宝元首相は、このとき「9月の北京公演を歓迎する」と言ったのだが、それは尖閣問題などでSMAPの初めての上海公演をキャンセルさせた経緯があったからだ。

2010年、尖閣問題で中国では激しい反日暴動が起きたが、これは中国政府に不満を持つ底辺層の若者たちが主体となって起こしたものである。言うならば「反政府暴動」に等しい。

その中国政府が日本で大地震があったからと言って、親日的態度を取ったりなどしたら「親日政府」として底辺層の若者たちに罵倒されるのは明らかだ。しかし、中国の若者にも人気のあるSMAPを「使う」のなら、「親日政府」と罵倒されないだろうという計算が、中国政府にはあったのである。

そして実際の北京公演では、中国政府系メディアは「中国で最も有名な日本人アーティスト」としてSMAPをほめちぎった。

このたび中国共産党および中国政府が一斉にSMAP問題を取り上げたのは、過去にこういう経緯があったからだ。中国政府が日中友好への橋梁と認めている「天団」に傷がつくのは困るのだ。「反日政府」と罵倒されないための中国政府の対日強硬策には、実は苦渋が混在していることが、このことからもうかがい知ることができる。

中国の若者たちの声をご紹介したいが、他の執筆などに追われ、なかなか手が回らない。たいへん申し訳ない。別の機会に譲りたいと思う。

ただ、ひとことだけでも書いておくと「解散と聞いたときには、あまりのショックで眠れなかった。SMAPは私の青春だ!」「謝罪報道を見たときには、涙があふれてならなかった」という熱狂的なものから、「でもなぁ、もうみんな“おじさん”の齢だよ。そろそろ解散させてあげても、いいんじゃないの?」とか「でも、謝罪会見で、“解散しません”とは言ってないよね? 暗くて、もう私たちに元気をくれた、あのSMAPじゃないみたい」などというのがあった。

これら若者の声は何百万と書きこまれているので、平等を期して読み込むのにも時間がかかる。

なお、ここでご紹介した党と政府のウェブサイトに若者のコメントが見つからないのは、若者たちがこのようなウェブサイトを見ないためと、中には書き込みを禁じているケースもあるからである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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