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【令和】女性皇族を「籠の中のプリンセス」にしてはならない 子供よりペットの方が多いニッポンの暗い未来

木村正人在英国際ジャーナリスト
「令和」が幕を開けた(写真:長田洋平/アフロ)

「籠の中の皇太子妃」

[ロンドン発]「平成」が幕を閉じる直前の4月29日、米紙ニューヨーク・タイムズ電子版が「皇位の存続」と題した大型連載の中で「ためらう花嫁」「籠の中の皇太子妃――皇室の存続は、彼女の肩にかかっていた。そして、その呪縛から逃れられなかった」と報じました。

皇后になられた雅子さまは幼少期の半分を海外で過ごされ、米国の公立高校を卒業、ハーバード大学で経済学を学ばれました。外務省でも日米貿易の交渉を担当した才色兼備のキャリアウーマンでした。

「結婚一カ月後に行われた宮中晩餐会で、彼女は、ビル・クリントン大統領、ボリス・エリツィン大統領、フランソワー・ミッテラン大統領とそれぞれの国の言語で会話し、国民は彼女を誇らしく感じた。彼女は、皇室だけでなく、日本自体が近代化するのを助けるだろうと予測するものもいた」(NYT紙のモトコ・リッチ記者)

「(ご成婚から最初のご懐妊までの6年半)その年月は、ハーバードとオックスフォードで勉強し、多言語を操る貿易の専門家を、今や、日本にとって大切な、唯一の義務と思われる『皇位継承者の出産』を果たせずにいる女性に変えていた」(同)

小泉純一郎首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」は2005年11月、女性・女系天皇、女性宮家の設立を認め、長子優先を提案する報告書をまとめました。しかし議論は自民党保守派の反発に合い、06年9月に秋篠宮さまと紀子さまの長男、悠仁(ひさひと)さまがお生まれになると自然と立ち消えになりました。

「失われた30年」

もしあの時、女性・女系天皇が認められていれば、平成の「失われた30年」は回避されていたかもしれません。

平成元年、西暦で言うと1989年には民主化を求める学生を武力鎮圧した中国の天安門事件が起きました。欧州ではベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終結しました。日本では12月29日、取引時間中に最高値の3万8957円44銭をつけました。バブル経済の絶頂期でした。

しかしバブルが崩壊したあと、日本は世界から取り残されてしまいました。

ゴールドマン・サックス証券副会長のキャシー・松井さんのチームは4月16日、「ウーマノミクス5.0 20年目の検証と提言」と題した報告書を発表しています。雅子さまが最初にご懐妊されたのと同じ1999年には「『ウーマノミクス』が買い」と題する最初の報告書を出しています。

20年前、「ウーマン」と「エコノミクス」を合わせた「ウーマノミクス」という言葉を生み出したのはキャシーさんです。当時、2人目の子供を身ごもっていました。女性の労働力率は結婚・出産期の20代後半から30代にかけて低下し、育児が落ち着くと再び上昇する「M字カーブ」を描きます。日本のM字カーブは谷が非常に深かったのです。

そこで「日本の人口は減少しており、資本は有限で、生産性向上には時間がかかるため、抜本的な手立てが講じられなければ、日本は潜在成長率の一段の低下はもとより、いずれ生活水準の低下にも直面する恐れがある」と警鐘を鳴らし、男女機会均等の実現を訴えました。

99年当時、日本の女性就業率はわずか56%。しかしその後、71%まで急上昇して66%の米国と62%のユーロ圏を追い抜きました。「現在では、広範な人手不足と景気拡大の結果、職場でのジェンダーダイバーシティはもはや選択肢ではなく、経済と企業が避けて通れない急務となった」とウーマノミクス5.0報告書は指摘しています。

「すべての女性が輝く社会に」

4月29、30日にロンドンで開かれたフィンテックのイベント「イノベート・ファイナンス グローバル・サミット」でもジェンダーダイバーシティが大きなテーマになりました。

右がアンナ・スコグルンドさん(筆者撮影)
右がアンナ・スコグルンドさん(筆者撮影)

ゴールドマン・サックスのパートナー、アンナ・スコグルンドさんがウーマノミクスの20年について触れました。同社も新規採用者を男女同数にする目標を掲げています。

イベントではプレゼンターが男女同数になるように配慮されているように感じました。「女性の就業率が増えたからと言っても非正規雇用で賃金は男性より4分の1も少ない」と国内の評判は散々の安倍晋三首相の「すべての女性が輝く社会づくり」ですが、欧米では評価されています。

高度サービス産業では男性が圧倒的に優位な「筋力」は全く意味をなしません。性別に関係なく、優秀な人材を奪い合っています。デジタル、マーケティング、デザイン分野では1年の転職が当たり前の超「売り手市場」になっています。出産・子育てがしやすいというのも当然、女性人材を確保する決め手になります。

男女格差をなくせばGDPが15%増加

ウーマノミクス5.0報告書によると、日本の女性就業率が男性に追いついた場合の国内総生産(GDP)の押し上げ効果は10%。女性の労働時間が上昇し、男女格差が経済協力開発機構(OECD)加盟国の水準まで縮まると最大15%も増加する可能性があるそうです。

しかし(1)官民両部門の女性リーダー不足(2)賃金格差(3)硬直的な労働契約(4)既婚女性の就業を阻害する税制の歪み(5)家事支援、保育・介護人材の不足(5)無意識のバイアスが依然として大きな壁になっています。

日本は登録ペット数はイヌ、ネコだけで1870万匹。15 歳未満の子供1660 万人を上回っているそうです。12年にはおむつの売上高が子供用1390億円、大人用1590億円と逆転したことが大きなニュースになりました。昨年、国際通貨基金(IMF)は、人口減少によって今後40年間で実質GDPが25%以上減少する恐れがあると予測しています。

日本の皇位継承はずっと「男系」でした。旧皇室典範が「男系男子」に改めたのは帝国主義の時代、明治天皇に軍隊を指揮監督する最高指揮権(統帥権)があったからに他なりません。現在は首相が自衛隊の最高指揮監督権を有しています。

首相官邸が公開している資料によると、男系男子の継承制度を守っているのは中東のヨルダンと日本ぐらいです。「国のかたち」は時代とともに変わっていくものです。日本人が賢明なら本来、天皇と皇后のご成婚の前に、皇室典範を改正しておくべきでした。

英国は王位継承順位2位のウィリアム王子とキャサリン妃の結婚に合わせて男子優先から長子優先に王位継承法を改正しています。結婚1カ月後の宮中晩餐会であれだけ輝いていた雅子さまが輝きを失った理由を日本はもう一度、真剣に考えてみる必要があると思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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