主な意見をみると日銀の金融政策はやや流れが変わりつつあるのか
2日に9月21、22日に開催された金融政策決定会合における主な意見が日銀のサイトに公表された。このなかの「金融政策運営に関する主な意見」について確認したい。
「現時点では、賃金の上昇を伴う形で、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っておらず、イールドカーブ・コントロールのもとで、粘り強く金融緩和を継続する必要がある。」
この会合では金融政策の現状維持を全員一致で決定しており、その理由を説明したものといえる。
「金融緩和の継続を通じて賃上げのモメンタムを支え続けることが必要である。」
日銀が強固な緩和を続けているのは「賃上げのモメンタムを支え続ける」ことが大義名分となっている。2%はどこにいったのか。
「先行きの物価見通しが上振れるかが不透明な中、運用を柔軟化した現行のイールドカーブ・コントロールのもとで、物価動向を見極めることが重要である。」
消費者物価は順調に2%を超えて1年以上もの間、上昇し続けているが。
「イールドカーブ・コントロールの運用の柔軟化により、長期金利は比較的安定しており、追加的な見直しを行う必要はない。」
10年371回債の利回りは0.770%と2013年9月以来の水準まで上昇しているが、たしかに急騰はしていない。1%に向けて順調に上昇している。
「イールドカーブ・コントロールの枠組みの撤廃やマイナス金利の解除は、あくまで、2%実現との関係で、その成功とセットで論じられるべきことである。」
繰り返すが、日銀の物価目標である消費者物価指数(除く生鮮)の前年比は安定して2%を大きく上回っている。ただし、これは日銀の緩和によるものではないので「成功」と言う表現の意味がわからない。
「賃金上昇のモメンタムが中小企業を含めて着実に強まっていくのか、賃金上昇に伴う労働コストの価格転嫁が着実に進んでいくのかという点に注目している。」
とにかく賃金に置き換えようとしているが、賃金上昇ピッチがこの高い物価をさらに超えてきた場合には、インフレどころではなくなるのではなかろうか。
「予想物価上昇率に上昇の動きがみられ、やや距離はあるが、「物価安定の目標」の達成に近づきつつあるため、今年度後半は、来年に向けた賃上げ動向も含め、その見極めの重要な局面となる。」
やっとまともな意見が出てきたが、やや距離はあるが、物価安定の目標の達成に近づきつつあるためとの表現はおかしい。数値上、物価目標はすでに達成している。
「日本経済は今が正念場であり、企業の改革意欲を後押しすることが求められる局面である。」
いまが正念場となっているのは日銀の金融政策そのものではなかろうかと思う。
「政策修正の時期や具体的な対応については、その時々の経済・物価情勢や見通しに依存するため、不確実性が大きい。現時点で決め打ちできる段階ではない。」
正常化であれば別に現時点で決め打ちなどする必要はなく、いますぐにでも行うべきものであろう。
「経済・物価の不確実性が高い状況を踏まえると、様々なコミュニケーションを通じた実質上のガイダンスについても、政策対応の時期や順序についての自由度が過度に制約されないよう工夫していくことが望ましい。」
むしろいまの日銀の政策こそが、自由度を極端に奪っていると思われるのだが。
「2%の持続的・安定的な物価上昇」の実現が、はっきりと視界に捉えられる状況にあると考えており、来年1~3月頃には見極められる可能性もある。1.流動性の確保・回復等による市場機能の改善、2.出口を見据えた市場や社会とのコミュニケーション等、出口に向けた準備、環境整備を進めることがリスク・マネジメント上、重要である。」
ほぼ同意であるが、来年1~3月頃まで待てるのかということに加え、この意見であったのであれば反対票を投じて、自由度を得るためにも、修正の可能性を意識させても良かったではなかろうか。そういったことも審議委員の役割のひとつではないのか。
「イールドカーブ・コントロールの柔軟化により、市場機能に一部改善の動きがみられるが、柔軟化を経ても、市場不安定化のリスクや市場機能面での副作用はなお残存している。イールドカーブ・コントロールは、この間の歴史をみても、多くの役割を果たした段階と考えられる。」
指値オペも伴ったイールドカーブ・コントロールが何の役割を果たしたというのか、少なくとも私にはわからない(財政を助けたことは確か)。ただし、柔軟化を経ても、市場の不安定化のリスクや市場機能面での副作用はなお残存しているとの指摘は同意。
「仮にマイナス金利を解除しても、実質金利がマイナスであれば金融緩和の継続であると捉えられる。こうしたことを、丁寧に発信していくことが重要である。」
そのとおりなのだが、修正に向けて(この場合はマイナス金利解除)、複数の意見が存在していることは興味深い(同一人物の複数意見を記載することはあるようだが)。
「当面は緩和的な金融緩和の維持が望ましいが、将来の出口局面にあたっては、イールドカーブ・コントロールのみならず、国債以外の資産買入れの要否についても検討すべきである。」
「国債以外の資産買入れの要否」という言葉が出てきたことはやや驚きである。むろん当然のことなのではあるが。
どうやら今回の主な意見を見る限り、日銀は究極緩和の殻に閉じこもっているようにみえたが、その殻のなかでは、殻を破ろうかといった動きが見え始めているようにも思われる。