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MLB「仮装儀式での女装禁止」は野球界も現代社会の一部であることの証明

豊浦彰太郎Baseball Writer
前田健太はチアリーダーに扮したが抵抗を感じた選手や不快に思ったファンもいたはずだ(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

メジャーの新労使協定で新人イビリの女装が禁止された。一部では惜しむ声も上がっているようだが、野球界も現在社会の一部である以上致し方ない措置だろう。

レッドソックスなどでプレーしたケビン・ユーキリス氏も黙ってはいられなかった。日本のプロ野球、楽天にも在籍していた同氏は「ウソだろ?自分の時はフーターズガールの格好でトロントにまで遠征したが、それはメジャーリーガーになったという誇りだったよ」と過去を振り返った。

出典:スポニチアネックス 12月15日

ここで誤解してはいけないのは、禁止されるのは「女装」であり、「仮装」そのものではないということだ。ユーキリスに限らず若い頃を懐かしむのは人の常だ。「過剰反応しすぎ」という意見もあるかもしれないが、女性蔑視や性的マイノリティへの差別に繋がりかねない風習は、その可能性を含んでいる段階で排除されるのが現代の価値観だろう。

また、ユーキリスはフーターズのセクシーな衣装に身を包むことを楽しんだかもしれないが、苦痛を感じた選手もいたはずだ。この風習の問題は、いたずら好きの一部の古株選手によるパーソナルなものではなく、全球団が組織的に取り組んでいる点にあると思う。この世界で生きていこうと思う限り、反対することは許されないのだ。このことも問題だと思う。

何もこれは野球界に限ったことではないが、閉ざされたコミュニティでは必ず特殊な価値観が生まれる。しかし、その閉ざされた世界とて社会の一部であり、社会全体の趨勢や価値観の影響を受けずにいることは不可能だ。社会学的には、この一件はそのことの典型例だと言えるだろう。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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