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アトピー性皮膚炎や乾癬に新たな光明!免疫寛解療法の最前線

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

自己免疫疾患は、免疫システムの異常により、本来は外敵から体を守るはずの免疫細胞が、自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気です。代表的な自己免疫疾患には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などがあります。また、皮膚科領域では、アトピー性皮膚炎や乾癬なども自己免疫の要素が関与していると考えられています。

現在、自己免疫疾患の治療は、炎症を引き起こす特定のサイトカイン(TNFαやIL-6など)の活性を抑える生物学的製剤や、免疫担当細胞(B細胞など)を調節する薬剤が主流となっています。これらの治療法は一定の効果を示していますが、長期的な寛解を達成することは難しく、感染症などの副作用のリスクもあります。また、ステロイドや免疫抑制剤への依存から完全に脱却することは容易ではありません。こうした現状の治療法の限界を踏まえ、新たなアプローチとして注目されているのが「免疫寛解(immune resolution)」です。

【免疫寛解とは?自己免疫疾患治療のパラダイムシフト】

免疫寛解とは、免疫系のホメオスタシス(恒常性)を回復させることで、自己免疫疾患の根本的な解決を目指す治療戦略です。健康な状態では、免疫系の活性化と抑制のバランスが適切に保たれています。しかし、自己免疫疾患ではこのバランスが崩れ、過剰な炎症反応が引き起こされます。免疫寛解療法は、このバランスを取り戻すことを目的とし、具体的には以下のような方法が研究されています。

1. 制御性T細胞(Treg)の機能を高める:Tregは炎症を抑える働きを持つ重要な免疫細胞です。IL-2を低用量で投与することでTregを選択的に増やし、免疫の過剰反応を抑制できる可能性があります。

2. 炎症を抑える分子を活用する:アネキシンA1やプロリゾルビン脂質メディエーター(SPM)など、炎症を収束させる働きを持つ分子に着目し、これらを増強することで炎症反応を抑えられるかもしれません。

3. 免疫チェックポイント分子を標的とする:PD-1やCTLA-4などの免疫チェックポイント分子は、過剰な免疫反応を抑制する役割を果たしています。これらの分子を活性化することで、自己免疫疾患の病態を改善できる可能性があります。

免疫寛解療法は、従来の治療法とは一線を画すアプローチであり、自己免疫疾患治療のパラダイムシフトを引き起こす可能性を秘めています。長期的な寛解や、場合によっては治癒に近いレベルでの症状改善が期待できるかもしれません。また、ステロイドや免疫抑制剤への依存を減らせれば、副作用のリスクを低減することにもつながります。

【免疫寛解療法の現状と課題】

免疫寛解療法に関する研究は、世界中で活発に行われています。例えば、SLEや関節リウマチの患者さんに低用量のIL-2を投与したところ、Tregが増加し、症状が改善したという報告があります。また、シロリムス(ラパマイシン)という薬剤が、Th17細胞を減らし、Tregを増やすことで、SLEの病勢を改善させた例も報告されています。

アトピー性皮膚炎の領域でも、免疫寛解療法の可能性が示唆されています。Th2細胞とTh22細胞、およびそれぞれが産生するサイトカイン(IL-4RとIL-22)を同時にターゲットにすることで、より効果的な治療ができるかもしれません。実際、アトピー性皮膚炎患者さんの血清IL-22レベルが、病勢の重症度と相関していることが報告されています。

ただし、免疫寛解療法はまだ研究段階であり、克服すべき課題も多く残されています。まず、臨床試験のデザインや評価項目について、明確なコンセンサスが確立していません。免疫寛解をどのように定義し、どのような指標で評価すべきかについて、専門家の間でも意見が分かれているのが現状です。また、長期的な安全性や、実臨床での有効性についても、さらなるエビデンスの蓄積が求められます。

【皮膚疾患への応用と将来展望】

自己免疫疾患に対する免疫寛解療法の研究は、皮膚科領域にも大きなインパクトを与える可能性があります。アトピー性皮膚炎や乾癬などの炎症性皮膚疾患は、自己免疫の要素が関与する複雑な病態を持っています。ステロイド外用薬や生物学的製剤などの既存治療は、症状の改善には一定の効果を示すものの、長期的な寛解の維持は容易ではありません。免疫寛解療法の研究が進み、皮膚疾患にも応用できれば、こうした難治性疾患の治療選択肢が大きく広がるかもしれません。

もちろん、免疫寛解療法を皮膚疾患の臨床現場に導入するためには、まだ多くの課題があります。適切な対象患者の選定方法、最適な投与量や投与期間、長期的な安全性の確認など、クリアすべきハードルは少なくありません。また、免疫寛解療法が奏功するメカニズムについても、さらなる基礎研究が必要です。皮膚における免疫反応の複雑なネットワークを解明し、治療標的を明確にしていく努力が求められます。

とはいえ、免疫寛解療法は自己免疫疾患治療の新たなパラダイムとして、大きな可能性を秘めています。今後の研究の進展により、皮膚科領域でも免疫寛解療法が実用化され、難治性の炎症性皮膚疾患に苦しむ患者さんに福音をもたらすことを期待したいと思います。

参考文献:

Klekotka P, Lavoie L, Mitchell B, et al. Systematic literature review on early clinical evidence for immune-resolution therapies and potential benefits to patients and healthcare providers. Front Immunol. 2024 Oct 17;15:1425478. doi: 10.3389/fimmu.2024.1425478.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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