自分の良さに自分で気づけるか:にっぽん縦断こころ旅
にっぽん縦断こころ旅という番組があります。
俳優の火野正平さんが、視聴者から送られたお手紙を読み、その人の「こころの風景」を自転車で訪ねる番組です。
「こころの風景」は多くの場合、有名な観光地などではなく、どこにでもある山や田んぼといった、何気ない風景です。視聴者にとってはもちろん、地元の人にとっても取り立てて特別な場所ではないかもしれません。
しかし、番組の最後には特別な意味を感じられるようになります。
最後の30秒くらいは「こころの風景」の映像が流され、自然の音以外、音楽もナレーションもありません。正平さんも映っていません。でも、とても穏やかな気持ちで「こころの風景」に見入っている自分に気づきます。
この番組を見ていて気づくのは、普段見過ごしているものの中にも良いものがあるということです。
以前、私の出身地にある野球場が「こころの風景」だったことがありました。その球場のことは知っていましたが、特別気にしたことはありませんでした。しかし番組で取り上げられ、自分の中にあった「あまり関係ない球場」という意味づけが「良いエピソードを持つ球場」へと変わっていきました。単にミーハーなだけかもしれませんが、実際に帰省した時に行ってみたりしました。
「こころの風景」には、視聴者のエピソードが添えられています。ただ「自分にとって特別なんです」というだけではなく、嬉しい、悲しい、寂しい、温かい、楽しいなどいろいろな感情が織り込まれた、奥深く豊かなエピソードです。こうしたエピソードを通して、その場所に誰かが「良さ」を感じていると知ったことなどが影響したのだと思います。
普段目にしているものの良さは、自分では気づきにくいものです。
地域の強みを活かしたまちづくりを進める都市計画課の西郷真理子さんは、そのまちの良さや住人が誇りに思っていることを活かすことが、都市再生の要と述べています。しかし、住人は毎日接しているがゆえに、地域の良さに気づきにくいこともあるそうです。西郷さんは、その地域にある素晴らしさを再発見するお手伝いも、専門家の役目だと指摘しています(「NHK仕事のすすめ まちづくりマネジメントはこう行え」NHK出版)。
今あるものの中にも、実は良いものがあるということなのだと思います。私の経験を振り返ると、自分が何気なくやっていて普通だと思っていたことに「そういうやり方いいね」と言ってもらったことはずっと記憶に残っています。そういう言葉を支えに頑張れたりもします。
新しい良さを手に入れることは大事かもしれませんが、今あるものからも良さを探すことができます。もちろん普段接している場所の良さに気づきにくいように、普段接している人や自分の良さにも気づきにくいように思います。
そういったときに、普通だと思っていることに対して、「こんなふうに良いんだよ」と誰に言ってもらえると、違った点から自分を捉えるきっかけとなるかもしれません。同じように、自分が誰かに対して「こんなふうに良いんだよ」と言うことで、その人が自分の良さに気づくきっかけになるかもしれません。
こころ旅は、そんなことに気づかせてくれる番組だと思います。