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医療が逼迫しているのは民間病院のせいなのか?

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナ患者の爆発的な増加によって、適切な医療が提供できなくなってきています。

一部の報道では「この状況は民間病院が新型コロナを診ないから」という論調が目立つようになってきていますが、本当にそうなのでしょうか?

東京都の新型コロナの状況

東京都の新型コロナ入院患者数(第28回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)
東京都の新型コロナ入院患者数(第28回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)

東京都の新型コロナの新規報告数は現在も1日1500人〜2000人と非常に多い状況が続いていることから、入院患者数も増加を続けています。

東京都は病床確保に向けて医療機関と調整していますが、現状では新型コロナを診療している医療機関が通常医療を縮小して対応せざるを得ない状況となっています。

重症化リスクの高い新型コロナ患者も入院できていない

東京都の新型コロナ患者の療養状況(第28回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)
東京都の新型コロナ患者の療養状況(第28回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)

これまで入院となっていたのは、

・ 高齢者、呼吸器疾患等の基礎疾患があるなど重症化リスクのある者

・ 症状等を総合的に勘案して医師が入院させる必要があると認める者

・ 都道府県知事が入院させる必要があると認める者

等に該当する方でしたが、入院調整が難航し本来入院が必要な方もなかなか入院できない状況です。

この1週間は私も感染症病床のベッドコントロールを担当していましたが、電話が鳴りっぱなしの状況で、連日多くの患者さんを受け入れましたが、病床や人員の理由でお断りせざるを得ない事例も増えています。

おそらく都内の他の医療機関も同様の状況と思われ、本来すぐに入院することが望ましい高齢者や基礎疾患のある人も入院先が見つからないという状況が続いているため、ようやく入院先が見つかったときにはすでに重症化している、という事例が増えてきています。

重症化リスクの高い方は本来はすぐに入院できて適切な治療を受けていれば重症化を防ぐことができていたかもしれませんが、医療体制が逼迫し重症化するまで入院できずに治療の機会を逃してしまうことになります。

救急車を呼んでも搬送先が見つからない

東京都の東京ルール適用件数の推移(第28回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)
東京都の東京ルール適用件数の推移(第28回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)

東京都では、救急隊が医療機関への受け入れ照会を5回以上行ったか、搬送先選定に20分以上かかった場合に適応となる「東京ルール」というものがあります。

搬送先がなかなか見つからない救急患者の受け入れを円滑に行うためのルールですが、この東京ルールの適用となった件数が急増しており、第一波のときのピークを大きく上回りました。

なぜこのようなことが起こるのかと言うと、新型コロナ患者をめいいっぱい受け入れている医療機関は、「これ以上新型コロナの患者は受け入れられない」「医療体制を縮小しているため通常医療が行えない」といった理由で救急車を断らざるを得ないという状況が増えています。

新型コロナを診ていない病院も「新型コロナの患者が来てクラスターが発生したら困る」「新型コロナの患者だった場合、うちじゃ診れないから」ということで受け入れに消極的になっています。

また冬は心筋梗塞などコロナ以外の入院患者も全体的に増えていることも搬送先が見つからないことに拍車をかけています。

急性期の病院に入院した方が、状態が落ち着けば療養病院など後方支援病院に転院となることが多いのですが、転院の際には全ての患者にPCR検査の陰性確認することを条件にする後方支援病院も増えており、転院調整に時間がかかるようになってきています。

そうすると、急性期病院から患者が減らずに「目詰まり」を起こし、新たに患者が受け入れられなくなります。

後方支援病院もクラスターを起こさないためにこうしたPCR検査の確認を行っているわけですが、今の医療の状況を改善するためには急性期病院に検査を義務付けるのではなく「転院先で(一時待機スペースなどで)PCR検査を行う」などに行政が主導して変えていく必要があるかもしれません。

このような状況ですので、もはや救急車を呼べば病院が必ず見つかるとも限らず、新型コロナと診断されて入院待ちの方が呼吸苦が出現し救急車を呼んだものの、何時間も搬送先が見つからず、仕方なくそのまま自宅待機となる症例も増えています。

医療が逼迫しているのは民間病院のせいなのか?

さて、報道では「民間病院がもっとコロナの患者を受け入れれば良いじゃないか」という論調が目立ってきています。

しかし、そんなに簡単な話ではなく、そもそも医療機関で新型コロナを診療するためには「患者を診る」だけでなく「感染対策が適切に行える」必要があります。

新型コロナ診療を行うキャパシティのある民間病院はすでに新型コロナの患者を診ている、というのが私の印象です。

今新型コロナ患者を診ていない民間の医療機関は、感染症専門医もいなければ感染対策の専門家もいない、という施設が多く、こうした民間の医療機関に何のバックアップもないままに「コロナの患者を診ろ」と強制しベッドだけ確保したとしても、適切な治療は行われず、病院内クラスターが発生して患者を増やしてしまう事になりかねません。

ではこうした民間病院にしっかりバックアップをしてコロナ診療も感染対策もバッチリできるように指導すればいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、現在は専門家も他院の指導に回る余裕はありませんし、病院のコロナ患者の導線を確認し、コロナ患者を診療する病棟のゾーニングを行い、診療に当たる職員の個人防護具の着脱のためのトレーニングを行い・・・といった準備は一朝一夕で身につくものでもありません。

コロナ治療の医師や看護師にインセンティブを払えば医療体制が瞬く間に強化される」という首相への提言が行われたそうですが、単純にお金で解決する問題ではないでしょう。

少なくとも単にお金を配って病床を確保するのではなく、「医療従事者の安全」と「診療の質」の両方が担保された上で民間の医療機関での診療拡充を行うべきと考えます。

おそらく、第一波の緊急事態宣言の後など、流行が落ち着いている時点で行政が主導してそうした備えをしておく必要だったのだろうと思いますが、今さら言ってもどうしようもありません。

現在、新型コロナ診療を行っている医療機関は、多かれ少なかれ通常診療の規模を縮小していますので、新型コロナ診療を行っていない民間の医療機関は、

・新型コロナを診療している病院がこれまで診ていた、コロナ以外の患者の診療をカバーする

・新型コロナ診療医療機関からの転院など後方支援を徹底する

ということで相互に協力をする、というのが現時点では望ましいのではないかと思います。

東京都は都立病院などでコロナ病床数を増やすことにするようです。

都立病院はこれまでも多くの新型コロナ患者を受け入れてきていますので、経験のある医療機関に新型コロナ患者を集約化することは、交通整理のためにも良いことだと思いますし、「医療従事者の安全」と「診療の質」の両方を担保しつつ病床を増やすという意味では、民間病院での病床を拡充するよりも現時点では現実的だと思われます。

ただし、いくら経験のある医療機関と言えども、病床数を増やすとこれまでコロナ診療をしていなかったスタッフも対応することになります。

今まで新型コロナを診ていなかった医療従事者が突然新型コロナ診療に参加することには相当な精神的ストレスがかかりますので、メンタル面でのサポートも含めて十分なサポートが必要です。

現時点での解決策は「感染者を減らす」以外ない

一時的に病床数を増やしても、このペースで患者数が増え続ければすぐにこれらの病院も埋まってしまうでしょう。

結局、根本的な解決方法は患者の増加を抑えることしかありません。

今は誰かを責めるよりも、個人個人がこの難局を乗り越えるための努力をすべきときです。

乗り越えることができたら、そのときは次への備えとしてどう病床を確保すべきかしっかりと議論を行えば良いでしょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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