外資スーパー唯一の生き残ったコストコ、貫いた独自路線と生存戦略とは?
外資で唯一、日本に着実に浸透したコストコ
コストコホールセールジャパン(以下コストコ)は1999年、福岡の初出店を皮切りに今年の7月30日には「コストコ木更津倉庫店」(千葉県木更津市:以下、木更津倉庫店)で日本国内の出店数は27倉庫店となった。来年には熊本、愛知、北海道に3倉庫店のオープンが決定されている。コストコの事業モデルは、会員制倉庫型店の形態を取って、取り扱うブランドやプライベートブランド商品のアイテム数を絞り込み、徹底して高品質で低価格な商品を販売している。取り扱い商品数約3,500点を他業態で比較すると、例えばコンビニエンスストアは2,500点から3,000点であることからも店舗坪数を考えるといかに絞り込んでいるかが理解できる。
そこで今回、他社との明確な違いについて述べていきたい。
外資系スーパーはこれまで日本における出店でいずれも撤退
外資系スーパーの日本での出店進出が最も盛んだったのが、2000年代初頭。アメリカからウォルマート、フランスからカルフール、そしてイギリスからテスコが上陸し、「黒船到来」と話題となった。2002年、ウォルマートが出店すると発表された当時、出店するまでに日本国内の調査をすべく、マーケティングチーム、幹部は早朝から深夜近くまで日本中を飛び回って、各スーパーを調査していると囁かれ、日本のスーパー各社は脅威に感じていた。
しかしオープン後、いずれのスーパーも日本の模倣に過ぎない商品が散見され、独自の色が感じられなかった。結果、ウォルマート、後に出店するフランスのカルフール、イギリスのテスコはいずれも苦戦を強いられ、撤退の憂き目を見る。
日本では生活に密着した地域の食品スーパーが強く、外資が進出する際、圧倒的な違いがなければ難しい。
そのような日本の風土において、コストコは今までにない販売方法が明確にわかることで顧客に支持された。まず会員制であり、倉庫型店であることから陳列は一切の無駄を省き、商品はパレットに積み上げられ、商品はいずれもボリュームがあり、圧倒的なお得感のある価格設定である。そして会員専用のガスステーションが一部の倉庫に併設され、ガソリンも非常にお得な価格で、買い物とついでにガソリンを入れる。支払いはコストコグローバルカード、コストコオリコマスターカード、Mastercardブランドのクレジットカート、またはチャージ機能付きコストコプリペイドカードのみで、現金での支払いは出来ない。コロナ渦で、スーパーに行っても商品がない状態が続いたこともあり、顧客は買いだめするようになり、コストコでの買い物需要が増えたのだ。
コストコ日本支社長は「60倉庫店をめざす」
とはいえ、日本の人口減、単身者の急増を考えると日本でのさらなる出店は可能なのだろうか。
そこでカナダについて調べてみると、単身者も急増しており、高齢化も進んでおり、これは日本並みとされ、人口動態も日本同様、釣鐘型となっている。(出典「カナダにおける人口動態・家族・労働の変化に関する行動力としての知識の形成について」スーザン・A・マックダニエル)
つまり1倉庫店の標準サイズが約1万4000平方メートルという規模の立地、高速出入口近所があれば商圏も広がり、60倉庫店も可能だと考えられる。
カギはリピートと会員更新
先述したとおり、コストコは年会費を支払うことでコストコ会員となれる。
会員になることで大容量かつ、高品質で低価格な商品を購入できる。商品は原価に近い価格で販売しているため、年会費が主な利益となっているのだ。
そのため、いかに会員数を増やし更新してもらえるかがカギとなる。と同時に管理しやすくするために商品数を最小にし、徹底した倉庫店内オペレーションでもって運営をコントロールしている。商品を原価に近い価格で販売することで利益は少なくても、商品力の高さがリピートにつながり、会員数、そして更新につなげていく。
限られた商品数で一つの商品を深く掘り下げ、価格、そして見るだけで分かる圧倒的なボリュームで付加価値を打ち出すことでリピートされるのだ。
更新、リピートは90%近い
米国の2020年第2四半期、コストコの会員の更新率は91%となり、過去3四半期の90.9%より増加している。そして第3四半期末の会員数は5,580万人で、前四半期と比較して50万増加している。
また全世界で見ると、更新率は88.4%で横ばいとなった。
これが利益の69%に値するとされ、いかに会員のリピートが利益に大きく影響するか物語っている(モトリーフール米国本社引用)。
支持され続けるための商品作りとは
更新してもらうには、先述したように詰まるところ商品なのである。
そこで今回、コストコ和泉倉庫店 倉庫店長 小川恭一さん(以下小川倉庫店長)に商品の絞り込み、商品のこだわりについてお話を伺った。
池田「デリ、そしてベーカリーを見て感じますのは、アイテム数の絞り込みが実に見事にうまくなさっているという印象を受けたのですが」
小川倉庫店長「例えばベーカリーでしたら20アイテムまでに抑え、効率の良いオペレーションにしております。その一方で原価に関しては最大限かけており、良質の素材で製造、提供しております。ベーカリーでは粉から倉庫店内でブレンドし、焼き上げている商品もあります」
ベーカリーを見ても商品の出来上がりが顧客から見て同じ形状に仕上がる工程になっている。
これ以外にケーキもすべて倉庫店内で製造されているとのこと。
とあるメーカーの人も「コストコのティラミス、最高ですよ」と言っていたが、濃厚ながら甘さ控えめで無理なく食することができる。
小川倉庫店長「実はこのティラミスは、イタリアのマスカルポーネを使用しております。これ以外にスポンジもすべて倉庫店内で焼き上げ、ソースで使用するコーヒーエキストラ、これが結構、高価格の材料なのですが惜しげもなく使用しております」
ティラミス、そしてその他のケーキも素材にこだわり、そして製造においても極力冷凍や外注にせず、すべて一から倉庫店内で作っている。
サーモンはノルウェーから、牛肉はアメリカから
物流に関しては、徹底してフレッシュにこだわっているとのこと。
そのため驚いたことに、サーモンはノルウェーから、牛肉はアメリカからチルドで物流されているとのこと。
牛肉は、輸送機関の約3週間で追熟されてより旨味が増すと言われる。
そして何と言っても冷凍していないため、素材の細胞を損なうことなく美味しい。
例えばスーパーで最近、よく聞かれるのが「寿司が売れない」といったこと。
「生」が新型コロナウイルスによって敬遠するようになったと言われる。
しかしコストコでは売り上げ上々である。やはりフレッシュな素材で価格も圧倒的にお値打ちであるからだ。
例えば販売数が良好な「寿司ファミリー盛」は、48巻で2,678円(税込み)。
写真でもわかるように、フレッシュでネタも大きい。
他のスーパーの価格と比較すると、大手I社では具材内容は違うが8月の価格で10巻で1,080円となっている。
コストコは、ネタの厚みが通常の3倍ほどの大きさでカットされているのが特徴だ。
1,080円の4倍、もしくは4.8倍と単純計算であるがお値打ちなのだ。
この他、神戸倉庫店に行った際、ワインを購入し、とてもバランスの良い出来上がりに驚いた。小川倉庫店長によると、ワインのみならずシャンパンもオリジナルだと言われた。
小川倉庫店長「実はシャンパンがプライベートブランドを持っております。日本ではコストコのみです。シャンパンと名付けられるには厳しい基準がありますからプライベートブランドで販売しているのは当社だけです」
シャンパンは、ブドウにキレのある酸をもたらす冷涼で厳しい気候条件や、長期熟成を可能とする冷たく湿った石灰質のカーヴなど一定の基準を満たして醸造したスパークリングワインの1種であり、その選定基準の厳しさと熟成期間の長さにおいても他を追従させないと言われている。プライベートブランド「KARKLAND SIGNATURE」として、シャンパンを自社製造しているという。
健康にも配慮された商品
健康訴求についても以前から手掛けられている。例えばグルテンフリー商品は以前から取り扱っており、最近では大豆を使ったデリ商品も販売されている。ここ数年、随分、大豆ミートに関心がある人々が増えていることもあり、ニーズがある。今回、購入した商品「ファラフェルサラダ」1,180円、この他にパスタのソースなどにも大豆ミートを使っている商品が見受けられた。
倉庫店内では徹底した衛生管理
さて不思議に思ったことの一つに倉庫店内のバックヤードにフライヤーがないことだ。
今、他のスーパーでこぞって陳列されていたフライ商品が、ばら売りからパック売りになったことで売り上げがダウンしている。
しかしフライ商品はスーパーの惣菜にとって、重要な看板商品であり、売り上げの10位以内に入っている。
スーパーにおいて看板商品とされるフライ商品が一切ないのだ。
小川倉庫店長「フライヤーを入れることでのメンテナンス、衛生の側面を考えると管理が難しいからです。その分オーブンを多く設置してあります」
フライヤーの洗浄、衛生を考え、コストコでは導入されていない。コストコでは衛生のチェックリストは非常に細かく作成されており、一つでも問題があれば、その都度、確認を行っている。それは他のスーパーより非常に厳しいと言われている。
衛生面、メンテナンスを考え、本社のあるアメリカでもフライヤーは導入されていないとのこと。
油で揚げるフライ調理より、オーブンでの調理提供の方が身体にやさしいので、健康への配慮の面でも合理的と言えるのではないだろうか。
WITHコロナで求められる ストック・バリュー・ヘルシー
原料における物流温度、倉庫店内の徹底した衛生管理、一目でわかるボリューム感。最初の出店からボリュームは日本風に変えないことで、日本人はアメリカへのあこがれで購入し、今やコストコカルチャーとしてしっかり定着しているようだ。
現在はコロナの影響でストック出来る食品が多く購入されるようになったと言われる。そのためコストコで販売されている冷蔵庫、冷凍庫の売れ行きが良いとのこと。
小川倉庫店長「鮮度が良く、ボリュームがあり、圧倒的な高品質で低価格な商品であれば、どのような状況でも売れるのではないでしょうか」
コストコという日本のスーパーとは全く違う経営方針を知るにつれ、利益をどこで生み出すかを、顧客側の立場になって考えられていると実感した。この経営方針は、人口減、高齢化、そして未曽有のコロナ時代にも対応できるのではないだろうか。