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日中首脳会談、習近平はなぜ笑顔だったのか

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

 11日の日中首脳会談で習近平は笑顔だった。習近平政権の基盤強化により反日の必要がなくなったからだという解説があるが、違う。中韓合意文書にある通り、反日はもっと具体化している。ではなぜ笑顔だったのか?

◆習近平、笑顔のわけ

 11月11日、ベトナムのダナンで安倍首相と習近平国家主席が会談した。習主席は笑顔で安倍首相の方を向き、むしろ安倍首相の方が、またいつもの仏頂面をされるのではないかと警戒して、習主席ほどの笑顔を見せていなかった。それに対して正面を向いた習主席が不快な様子を見せるかと思ったが、なんと、笑顔。しかも穏やかな笑顔だ。

 安倍首相も正面を向きながら、同程度の笑顔を見せた。

 これに関して日本の一部のメディアでは、「党大会が成功裏に終わり権力基盤が盤石になったので、反日姿勢を国内に示さなくとも、反対勢力に利用されることはないから」といった、またしても権力闘争を軸にした分析が見られる。このような分析をしていると、日本はまた同じ過ちを繰り返すことになる。

 習主席が笑顔を見せたのは、ひとえに一帯一路に日本を誘い込みたいからである。

 日本を落せば、アメリカも落ちる。

 逆に、アメリカが落ちれば、日本は必ず慌ててアメリカに追随するだろう。

 だから、どちらか一国を落せば、習主席は中国が提唱する一帯一路大経済圏に、日米両国を従えることができるのだ。

 日米は中国がトップリーダーとして君臨している経済圏に「中国に従う形」で入ってくることになる。

 これこそが「中国の夢」であり、「中華民族の偉大なる復興」なのだ。

 アメリカに追いつき追い越すには、まだ時間がかかる。

 しかし、習近平政権の期間内に、中国が君臨する経済圏に日米が入ってくれれば、習主席は中国人民に「中国の夢を叶えた」と誇ることができ、「遂に中華民族の偉大なる復興を成し遂げた」として胸を張ることができるだろう。

 「習近平新時代の中国の特色ある社会主義国家思想」が定義するところの「新時代」を実現化することができるのだ。

 中国の「反日」は、以前よりももっと強固に具現化している。

◆中韓合意文書の存在を軽く見ない方がいい

 その歴然たる証拠として、トランプ大統領の北京歴訪に合わせアメリカは当初、米空母3隻を含めた日米韓3か国による合同軍事演習を提案したが、韓国が反対し、日米、米韓がそれぞれ別々に実施することになった。トランプ大統領がどんなに強く日米韓3か国で同時に合同演習を行うよう要求しても、韓国の文在寅大統領はそれを拒否した。

 なぜなら中国外交部のホームページに掲載されているように、2017年10月31日、中国と韓国は「中韓関係に関する意思疎通」という中韓合意文書を締結しているからである。この合意の中における肝心な要素は、「中国は日米韓軍事協力などと関連し、中国政府の立場と懸念を明らかにした」という文言で、これは「日米韓における安全保障協力は決して軍事同盟にはつながらない」ということを意味する。事実、この精神に基づき韓国外相は国会で「韓米日安保協力が三者軍事同盟に発展することはない」と答弁している。

 ベトナムのダナンでも11日、中韓首脳会談が行われ、改めて「日米韓の安全保障協力関係を、絶対に軍事同盟に持っていかなこと」が約束された。そのことを要求する習主席に、文大統領は「どんなことがあっても守ります」と、まるでへつらうような満面の笑顔で応えていた。その仲の良さを裏付けるように来月の訪中の約束を取り付けている。

 すなわち、「反日」は、このような北東アジア情勢の形成に大きな影響を与える形で進んでいるのである。

 習近平政権は、絶対に反日デモを許さない。

 なぜなら反日デモは必ず反政府デモにつながることを知っているからだ。それくらい、人民の不満は大きく、政府は人民を信用していないのである。

 だからこそ、なおさら、一刻も早く「中国の夢」を叶えなければならないし、「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げなければならない。

◆日本は中国の覇権に、また手を貸すのか

 1989年6月4日に、民主化を求める若者たちの口を銃口で塞いでしまった天安門事件が起きた。そのあまりの残酷さに、西側諸国は中国に対する経済封鎖を断行した。 

 それをいの一番に破ったのは日本である。

 1992年には、江沢民の要求に応じて、天皇陛下の訪中をさえ決行している。中国の計算通り、それを見た他の西側諸国は経済封鎖を解き始め、特に日米が中心となって中国への投資を加速させ、こんにちの中国の繁栄をもたらしたのである。

 江沢民はあのとき、天皇陛下の訪中さえあれば中国は二度と歴史問題を口にしないと言いながら、実際はその逆だ。経済成長した中国は、その分だけ日本に対して歴史問題を厳しく突き付けるようになった。

 もしあのとき、日本が中国に手を差し伸べていなければ、中国はあるいは民主化への道を歩むチャンスを得たかもしれない。しかし日本が手を差し伸べて以降、急速な経済発展を遂げた中国は、日本に歴史の反省をしろと要求するだけでなく、国内における言論弾圧を著しく強化するようにもなっている。

 「習近平の笑顔」を喜ぶということは、日本は中国の世界制覇に、またもや手を貸そうとしているに等しい。中国の言論弾圧に手を貸し、中国の民主化のために努力し苦しんでいる少なからぬ人民への弾圧にも協力しているに等しいのである。

 この構図が分からないのだろうか。このような言論弾圧をする国が世界を制覇することにより何が起き始めるかを、日本には考えてほしい。真の自由と民主に対する日本の責任は大きいのだ。贖罪意識の使い方を間違えてはいないのか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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