ディズニー・プラスがストリーミング界を一変させる FT紙の2020年大予測でお勉強してみた
[ロンドン発]英紙フィナンシャル・タイムズが毎年恒例の新年予測を発表しています。 予測を見ていきましょう。
――ビッグテクノロジーに対する有意義な規制はとられますか?
FT紙「いいえ。少なくとも米国の巨大市場では。民主党は厳しい規則を望み、共和党はより弱い規制を支持しています。欧州連合(EU)のプライバシー保護と独占禁止法の規制も前例を作るのに何年もかかるでしょう」
――ディズニー・プラス(Disney +)はストリーミングサービス業界を一変させますか?
FT紙「はい。アナリストは2020年後半までに最大1200万人のユーザーを獲得すると予想しましたが、すでに2000万人を突破する勢いを見せています」
(筆者)アメリカやカナダ、オランダでストリーミングサービスを始めたディズニー・プラスの加入者は初日の11月12日に1000万人を突破。
国際金融大手クレディ・スイスは今年末までの加入者を1430万人と予想していましたが、早くも2000万人に上方修正しました。
ネットフリックス(Netflix)やアマゾン・プライム、米TVチャンネルHBOに強力なライバル参戦です。エンターテイメントの世界では放送から通信への大転換が急激に起きているようです。
――配車サービス大手のウーバーテクノロジーズは2020年に利益を計上できるでしょうか?
FT紙「いいえ」
――中国は次世代通信規格(5G)の世界的リーダーになりますか?
FT紙「はい。5Gにおける中国のリードは2020年末までに明らかになるでしょう」
(筆者)アメリカが中国封じ込めを強化するためにアングロ・サクソン系スパイ同盟「ファイブアイズ」に日本、韓国、インドを加えるという話が浮上しています。
5Gは「モノのインターネット」の核心的な技術なので、経済的側面だけでなく安全保障上の観点からの政治判断が必要です。5Gが最後ではなく6G、7Gという技術も出てくるため、注意深い判断が求められています。
――アメリカのドナルド・トランプ大統領は新年11月の大統領選で民主党大統領候補の得票数を上回りますか?
FT紙「いいえ。2016年の大統領選で敗れた民主党のヒラリー・クリントン候補はトランプ大統領より約300万票も多く票を獲得しました。その差は2020年の大統領選でさらに拡大しますが、トランプ氏が再選する可能性があります」
(筆者)この質問は次の米大統領選の勝者は?とすべきでしょう。イギリスでEU残留派の国民が多いのに、離脱派の保守党が総選挙では地滑り的な大勝利を収めたのと同じように、トランプ大統領が再選を果たす可能性は十分にあると思います。イギリスの政治的な傾向はアメリカにも大きな影響を及ぼすと言われています。
トランプ大統領がイギリスのEU離脱問題や総選挙に再三にわたって口先介入してきたのはこのトレンドを理解しているからです。
イギリスのEU残留派が都市部のロンドンに集中しているように反トランプ・リベラルは都市部のカリフォルニアやニューヨークに集中しています。二大政党制のイギリスやアメリカのような選挙制度ではこうした票の多くは「死に票」になってしまいます。
イギリスの場合は地域政党、スコットランド民族党(SNP)は「EU残留派」というより「スコットランド独立派」で残留派の結束を乱しました。
工場や機械が錆びついた米ラストベルト(脱工業地帯)のミシガン(0.23%差、選挙人16票)、ペンシルベニア(0.72差、選挙人20票)、ウィスコンシン(0.77%差、選挙人10票)や、フロリダ(1.2%差、選挙人29票)の4州が大統領選の勝敗を決します。
――アメリカは景気後退に陥りますか?
FT紙「いいえ。消費者は2019年も驚くほど活気に満ちたままです。2020年も失業率が依然として低く、経済の最も貧しい地域で雇用が創出されているので、この活気が続く十分な理由があります」
――イランとの戦争はありますか?
FT紙「いいえ。トランプ政権はイランへの“最大圧力”戦略を強化していますが、トランプ大統領は軍事行動を取ることを嫌がっています。すべての参加者が戦争を望んでいません。2020年は選挙イヤーです。しかし計算ミスがあると偶発的に大規模な軍事衝突が起きる危険性があります」
――世界の二酸化炭素排出量は減少しますか?
FT紙「いいえ。世界の国内総生産(GDP)が予測通りに増加すると、エネルギー使用量の増加が見込まれます」
――ボリス・ジョンソン英首相はEUとの新たな貿易協定に合意しますか?
FT紙「はい。それが彼の目標であり、彼には良いチャンスがあります」
(筆者)交渉期限を2020年末に設定し、ジョンソン首相はEUと無関税、輸入割当なしの非常にシンプルな自由貿易協定(FTA)を結ぶことを目指しています。筆者は原産地証明も労働者保護、環境保護の基準もEUに合わせるとみています。
一から協議すれば10年以上かかる恐れがあるからです。
同時にアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドともFTA締結を目指しており、全国10カ所にフリーポート(保税港)を設けることで英国の港湾部分を“保税特区”化する構想を描いているように感じます。英国は世界トップクラスの大学を拠点に高度サービス産業化を加速させるでしょう。
その一方で労働党から切り捨てられた旧炭鉱・造船街の貧困・低所得者からの支持に応えるため、全国一律の法定生活賃金(労働者が最低限の生活を維持するために必要な生計費から算定した賃金)を引き上げることで国内の格差解消に努めるはずです。
少年時代をEU本部のあるブリュッセルで過ごしたジョンソン首相は語学が堪能で、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議での様子を見るとフランスのエマニュエル・マクロン大統領やカナダのジャスティン・トルドー首相ら若手リベラル政治指導者との相性も良いようです。
英国はブレグジット危機を脱し、新たな航海に出発します。日本はオーストラリアやニュージーランド、カナダが参加するTPP11協定(アメリカを除く11カ国の環太平洋経済連携協定)をテコに英国との関係を強化する必要があります。
最大の難関と見られる漁業について、EU法を専門にするケンブリッジ大学のキャサリン・バーナード教授は「英国で獲っている鮮魚の大半がEUに輸出され、英国で食べている鮮魚の大半がEUから輸入されている。だから貿易交渉で合意する相互利益が存在する」と解説しています。
結局、イギリスとEU双方の着地点は筆者の当初予想とさほど変わりませんでした。
EU側には離脱ドミノが起きないようイギリスを徹底的にいたぶっているように見せる必要があり、イギリス側には保守党と労働党という政党の対立軸とEU離脱派と残留派の対立軸のズレを調整するのに時間がかかり、それに3年半もかかってしまったということです。
――ドイツのアンゲラ・メルケル首相の大連立は崩壊するでしょうか?
FT紙「はい。メルケル首相は連立相手の社会民主党(SPD)が左に傾いているため、大連立を維持するのに苦労するでしょう」
(筆者)SPDが支持者の不満をなだめるために大連立から離脱することはあっても解散総選挙までは望んでいないでしょう。選挙になればSPDは台頭する環境政党、90年連合・緑の党に大量に票を奪われ、解党的大敗を喫する恐れがあります。
イギリスで起きていることは時間を置いてドイツでも緩やかに現れています。しかし極右化する新興政党「ドイツのための選択肢」の伸びは頭打ちになっています。製造業がまだまだ健在であるドイツでも労働組合の組織率は低下しており、中道左派のSPDが弱体化しています。
ドイツの政治もいずれ右派と左派の再編を避けて通れなくなってくるでしょう。ジョンソン首相がポピュリスト政党・ブレグジット党をのみこんだように、メルケル首相を支えるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が「ドイツのための選択肢」を丸呑みできるかどうか。
そして緑の党の動きからも目が離せません。
(おわり)