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ConIFA第三回ワールドフットボールカップ大会前夜記者会見。出場するチベット代表の思い

木村元彦ジャーナリスト ノンフィクションライター
BBCもNHKも。世界各国からの記者団に囲まれるチベット選手団 撮影木村元彦

 CONIFA(Confederation of independent football association)の第三回ワールドフットボールカップが、5月31日にいよいよ開幕する。CONIFAとはFIFA(世界サッカー連盟)に加盟できない、あるいはしようとしない地域や民族のサッカー協会が集った連盟で、独立サッカー連盟と翻訳される。世界には固有の領土を持たない民族や弾圧によって国を追われた人々、あるいは北欧のサーミ人などの先住民族や中国のチベット少数民族等々、属している国家のパスポートと自らのアイデンティティーが合致しない事例が山ほどある。FIFAはパスポート主義であるから、このような人々をフォローすることはできない。そんな人々のためのサッカーの世界大会がCONIFAワールドフットボールカップである。開催地は2014年の第一回が,サーミ人である会長のペール・ブランドの暮らすスウェーデンの土地サープミ(英名ラップランド)、第二回が2016年で、グルジア(現ジョージア)から独立宣言するも国際社会には認められず、孤立を余儀なくされている旧ソ連のアブハジアであった。アブハジアにも当然ながら、サッカー選手はいるが、ロシア、ニカラグア、ベネズエラ、ナウルの4か国からしか、国家承認がされていないためにFIFA加盟ができず、国内の選手は実質的にキャリアの道が閉ざされていた。そこに陽を当てたわけである。筆者はこの大会でかつてイラク代表でプレーしていたクルド人の選手に会った。「自分の本当のアイデンティティーの代表チームにようやく出会えた」と彼は語った。もちろんCONIFAはFIFAと対立しているわけではない。それ故にワールドフットボールカップとW杯の両方の大会に出場する選手が出て来ても不思議ではない。CONIFAはその目的を、「地球上の人々、国、マイノリティや僻地まで、友情、文化とサッカーをする喜びの橋を架けること」「CONIFAは所属メンバーの発展のために尽力し、フェアプレイと人種、宗教、性を含むすべての差別撤廃を誓う」としている。FIFAをリスペクトし、その共存も望んでいるわけである。

 今年の第三回大会はサッカーの母国イギリスで行われる。主催ホストのサッカー協会はブラバサッカー協会で、これはアフリカのソマリア南部を出自とするブラバ民族の人々でイギリスにコミュニティを持っている。先述したイラク・クルディスタン代表は参加しないが、タミル・イーラム(スリランカ内戦で国を追われたタミール人のチーム)、北キプロス(キプロス島北部でトルコに実効支配しているとされて未承認国家)、カビリア(アルジェリア政府から迫害を受ける同国北部のベルベル人のチーム)など、複雑な背景を背負いながらもサッカーに希望を見出している多彩なチームが参加する。

 そして日本からは元Jリーガーで北朝鮮代表としてW杯出場経験もある安英学監督が率いるUKJ(ユニナイテッドコリアンズインジャパン)という在日コリアンのチームが参加する。

 ロンドンでの前夜祭ならぬ前夜記者会見では、300名を超えるプレスが世界中から駆けつけて、盛況を博した。

中でもひと際、注目を集めていたのが、チベット代表チームである。ミックスゾーンでも記者たちの人だかりが出来ているので覗くと、必ず中にいるのはチベットと背中に入った選手たちであった。 

 中国政府が出国を許さないので、チベット自治区からの参加選手はいなかったが、多くはインドに亡命していたチベット人の二世や三世、またはヨーロッパからもCONIFAの大会の存在を知って出場を申し出てきたフットボーラーたちであった。

 DFの通称バハラ選手はインドのアマチュアチームの選手であるが、仕事を休んで駆け参じたという。「この大会に出ることは大きな夢であった。チベットのアンセムやエンブレムを露出できることが何よりも嬉しい」

 自分たちの存在を世界に知って欲しいという思いは大きい。FWのバキレ選手もまたチベット同胞と同じユニフォームに袖を通すことの喜びを語った。「自分が何者であるかをサッカーを通じて確認できる大切な機会がここにはあった。全力でプレーをしたい」

 自分たちのシンボルのエッセンスを落とし込んだエンブレムは、青と赤の円に自由に羽ばたく白い鳥があしらってある。ジャージにはチベットの旗である雪山獅子旗をモチーフにしたであろう獅子の画が右腹のあたりに描かれている。

 しかし、CONIFAは政治的な活動を止めているので「フリーチベット」のような文言のアピールはしない。「試合前にアンセムを聴いて、旗を掲げて、でもそこまで。あとはサッカーを全力でやるだけだ!」チベットの選手も理解した上で芝生の上で自分たちを表現する。

 中国政府への批判を引き出そうとする記者たちの質問にも真摯に答えながら、これはサッカーの大会なのだと強調していた。

 見えない存在に置かれていた人々が、一気に可視化する。同じ宿泊施設なので参加チームの選手同士の交流も生まれる。CONIFAワールドフットボールカップが今日、5月31日開幕する。

ジャーナリスト ノンフィクションライター

中央大学卒。代表作にサッカーと民族問題を巧みに織り交ぜたユーゴサッカー三部作。『誇り』、『悪者見参』、『オシムの言葉』。オシムの言葉は2005年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞、40万部のベストセラーとなった。他に『蹴る群れ』、『争うは本意ならねど』『徳は孤ならず』『橋を架ける者たち』など。

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