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「閉店詐欺」とまで言われた「なご味や五八」が今度こそ年内閉店へ。鉄板ナポリタンも食べ納めか?

田中健介ライター

多くのドラゴンズファンが集まる場として関東では稀有な存在として知られた東京・神田のなごやめし専門店「なご味や五八」。

昨年、年内閉店ということで取材させていただいたが、実は今年2月にシレっと復活し、今日まで営業を続けていたのだ。

※昨年の記事「東京・神田で『名古屋めし』を提唱し、鉄板ナポリタンも美味しい「なご味や五八」が年内閉店のワケ」

一部では「閉店詐欺」の声もあったものの、筆者としてはいろいろと事情があるのだろうと静観していた。だがここへ来て今年12月27日をもって本当に閉店するという情報が耳に入ってきた。

そんな神田の夜空にこだまする竜の叫びを再び耳にして、店主・山本俊夫さんに真偽のほどを確かめることにした。

「今度こそ本当」12月27日閉店の貼り紙

店をたずねるとまだシャッターが閉まっていた。山本さんはまだ店には来ていないようだったが、12月27日をもって閉店する旨のお知らせが貼ってあった。

どうやら今度こそ本当のようだ。

悪びれる様子もなく「身体の調子が良かったから…」

飄々とした姿で店に現れた山本さん。

昨年筆者が書いた記事を振り返ると、66歳という年齢に加え、昨年体調を崩してしまったことで体力的に自信がなくなったことが閉店の主な理由であった。

山本さん:あれから体調が戻ってね。もうちょっと続けられるかなと思って、結局閉店せずここまで営業してきたんだ。

何も知らずに「誤報」をYahoo!ニュースにアップしてしまった私に対して悪びれる様子はひとかけらもない。

夢が潰えた「トーチュウ」の休刊と体力の限界

一部常連客からは「閉店詐欺」(過去にも「前科」があったらしい)と言われながらも、気にも留めず営業を続けてきた山本さんだが、やはり体力的な限界が近づいてきたようだ。

山本さん:昨年も言ったと思うけど、完全な引退ではないんだ。年齢的にも体力的にも、神田という人が多い場所で営業を続けていくことに限界を感じてたけど、お客さんとの関係もあるから、何度か辞めると言いつつ営業してきたんだよ。ちょっと離れた場所で、今よりも小さなスペースで再開を考えているんだ。

そして山本さんが「本当に」閉店を決めたもう一つの理由がトーチュウ(東京中日スポーツ)の紙面における休刊(2025年2月より電子版へ全面移行)だ。

山本さん:もう一度ドラゴンズが優勝して、うちの店がトーチュウの一面に掲載されることが密かな夢だったんだよ。けれどドラゴンズはちっとも優勝しねぇし、立浪がどうこうと言っているうちにトーチュウまで休刊しちゃうんだからな。夢を叶えることができなくなっちまった、っていうのは俺の中で意外と閉店の理由のひとつとしては大きかった。

1999年のドラゴンズ優勝時には、ファン全員3割引きセール実施!という記事がトーチュウに掲載されたのが、山本さんにとって良い思い出となっている。

「アライバ」ならぬ「クシテバ」は最強の一、二番コンビ

山本さんと、なご味や五八の取材をしているつもりが、いつの間にかビールなどを注文してしまっている筆者。

「味噌串カツ」は、なご味や五八の一番人気メニューだ。

柔らかくジューシーな北海道・日高四元豚にパン粉を付けて串揚げしたものに名古屋名物の赤味噌ベースのタレでいただく。

これで一串190円というのが素晴らしい。

「手羽先唐揚げ」は二番人気のメニュー。

ホワイトペッパーがベースのシーズニングと特製ダレがピリッと甘辛で良い。

これも一つ190円なのだ。

山本さん:最近は食材高騰が凄いけど、この二点はサービス品だね。この二点をスターターに、高いものをどんどん頼んでもらいたい(笑)。

意外と味噌串カツの方が原価が安いんだよね。最近の食材価格はほんとによくわからないよ。

かつてドラゴンズには「アライバ」という鉄壁な二遊間コンビが一、二番で一時代を築いたが、なご味や五八では「クシテバ」が鉄板の一、二番コンビなのだ。

創作料理人ならではのひつまぶしピザ

今のなごやめし専門店以前には創作居酒屋という形で営業してきた山本さんならではの料理が「ひつまぶしピザ」だ。なご味や五八では三番目に人気のメニューだ。

山本さん:まあさすがにピザに出汁をかけて食うわけにはいかねえんだけど、どの辺がひつまぶしなのかと言えば、鰻と刻みのりと浅葱がトッピングされているところかな。普通にひつまぶしをメニューとして入れていたけれど、食材が円滑に消化できるよう考えた時に、同じ食材でいろんなメニューが展開できた方が不良在庫を抱えずに済むからな。

さすが愛知県出身だけにムダを排除して生産効率と品質を向上させるトヨタ生産方式に倣っている。

二種類のチーズと鰻のタレがマッチして、これがなかなかクセになる。

食事としてはもちろんだが、酒の肴として楽しむことのできる仕様のピザだ。

やはり鉄板ナポリタンは中京人のSOUL

そしてやっぱり鉄板ナポリタンだ。

四番目人気のメニューは「どて煮」だそうだが、ナポリタンは筆者にとって専門分野であり、絶対的中軸である。

名古屋式鉄板ナポリタンにもいろいろあるが、卵の黄色、ピーマンの緑、赤ウインナーの三色のコントラストこそ、基本的なスタイルだと筆者は思う。

山本さん:手間がかかるメニューを注文されると俺は露骨に嫌な顔をするんだ。

手間がかかるメニューは、な。

は...はい、鉄板ナポリタンは炒めて、鉄板を熱して、それ以前にあらかじめスパゲッティーは茹で置いておかないといけないから、相当手間がかかるんですよね……。

山本さんの顔色など、この際どうでも良いほど、オーダーしたい一品だ。

27年間の飲食店経営は「人間教育」だった

両国にあった創作居酒屋「ごはち亭」時代を含め、27年間の飲食店経営をしてきた山本俊夫さん。その四半世紀以上の歩みは、「人間教育」だったと言う。

山本さん:最初に開業したての頃、大学生のグループがうちで痛飲して、その場でぶっ倒れてさ。

「吐いたもんはてめえらでちゃんと片付けろよ!」なんて叱ったことも一度や二度じゃない。

その大学生が今や大学教授なんかになりやがって、今でも来てくれるんだよな。

あとは、関東でドラゴンズファンなんて、基本マニアックな人間なの。マニアックな人間ってのは、だいたい自分勝手。だからちゃんと社会で通用するように、そいつらを「矯正」してきたんだ。

口ではそう言いながら、実はお客との関係性を大事にしてきた。

山本さん曰く、日本で二番目に出禁(出入り禁止)率の高い店だと言うが、反省の態度が見られればすぐに出禁を解除する優しさも持っていた。過去に5、6回も出禁を通告されたお客もいるのだという。

何度も出禁を食らって、それでも行きたくなるという魅力を放つのは、山本さんの人柄なのだろう。叱る時は叱る、許す時は許す。ドラゴンズにもかつてそんな強いキャラの監督がいたような。

今回もアノ歌に乗せて〆ます

♪一番人気は味噌串カツ

二番人気は手羽先唐揚げ

♪三番人気はひつまぶしピザ~

♪四番鉄板ナポリタン~

いいぞ五八の なごやめし

燃えよ なごやめし~

ぼくもあなたも願ってる

祈る気持ちで待っている

なご味や五八の再開と

山本さんの健勝を

いいぞ元気で 山本さん

燃えよ なごやめし~

というわけで、なご味や五八は今後どこかへ移転し、会員制のお店になるそうだ。

山本さん:俺の体力に合わせたスペースで無理のない営業になっていくと思うよ。来シーズンの開幕までには間に合わせたいと思っているよ。

山本さんがどこへ行っても元気でいてくれることを祈る。

◆本格名古屋めし なご味や五八

〒101-0045 東京都千代田区神田鍛冶町3丁目5−1保坂神田ビル B1

https://www.facebook.com/NAGOMIYAGOHACHI/

070-2220-5839

※上記の店舗は今度こそ2024年12月27日(金)までの営業です。

ライター

日本ナポリタン学会会長としてナポリタンの面白さを発信。 著書に「ナポリタンの不思議」(マイナビ新書)、「麺食力」(ビズ・アップロード) その他「横濱建築」(TWO VIRGINS)、「はま太郎」(星羊社)などへ執筆。

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