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中国大陸ネットに「日本軍と共謀した毛沢東」の独自評論出現

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
毛沢東没後40年 (2016年9月9日)_毛沢東回帰する習近平(写真:ロイター/アフロ)

先日、中国大陸のネット空間に「日本軍と共謀した毛沢東と中共スパイ」に関する記事があるのを知った。筆者とは全く関係なく行なわれた分析だ。教えてくれたのは、なんと中国政府高官である。何が起きているのか?

◆口封じのために投獄された(中共スパイ)潘漢年

その評論記事は「北京山東同郷沙龍(sha-long)(サロン)」に公開されていた。

これは、「北京に在住する山東省出身の人たちの同郷誌」といった感じのウェブサイトである。このページの少し下の方に「2016/10/16」という日付の記事があり、その三番目に「潘漢年入獄塵封毛沢東於汪精衛来往秘史」という文字の簡体字によるタイトルがある。汪精衛というのは、日中戦争時に南京にあった日本の傀儡政権と言われている汪兆銘政権の「汪兆銘」のことである。

潘漢年というのは、毛沢東が日本軍と共謀するために上海に派遣した中共スパイの一人で、日本の外務省系列の岩井公館に潜り込んだ男だ。岩井公館の創設者であった岩井英一に近づき、スパイ活動を行なった。

この記事のタイトルの意味は「潘漢年が投獄されたのは、毛沢東と汪兆銘の交流に関する秘史を封じ込めるためだ」という感じである。

ここに書いてある中で、ひとつだけ間違いがある。

それは「潘漢年は女性スパイ関露を岩井英一に紹介し、岩井と寝ることによってスパイ活動を行なった」という趣旨の描写である。

岩井は、そのようなことはしていない。関露は岩井とは関係なく、汪兆銘政権のスパイ機関「76号」に潜り込んだだけである。この詳細は拙著『毛沢東  日本軍と共謀した男』で詳述した。

最も興味深いのは、この著者は、筆者(遠藤)といかなる関係もなく、また拙著を読んでいない状況下で、拙著と同じ内容を書いているということだ。その証拠に、この評論記事が最初に公開されたのは、どうやら2014年2月11日で、中国大陸の「百度空間」に同じタイトルの記事が出ているのを見つけ出した。作者は「廖波」という作家らしい。

そこには明確に以下のことが書いてある。

――1939年,(ソ連の)スターリンは、ドイツ・ファシストの目を西ヨーロッパ、特にイギリスに向けさせるために、(最大の敵であるはずの)ヒトラーと「友好互助条約」を締結した。そしてモスクワのコミンテルン(共産主義インターナショナル)は(毛沢東のいる)延安に指示を出し、「聯汪反蒋」(汪兆銘と連携し蒋介石に反抗する)あるいは必要なら「聯日反蒋」(日本軍と連携し、蒋介石に反抗する)ことを許した。これはマルクスレーニン主義の柔軟的応用だとして、毛沢東は直ちにその意を飲み込み、その年の10月に最も腕の高いスパイ大将・潘漢年を上海に潜らせ、新しい諜報根拠地を設置させたのである。

その後、少なからぬ中国大陸のウェブサイトが転載している。

それでいて削除されていない。

◆中国で何が起きているのか?

これはいったい、何を意味するのだろうか?

関連情報をたどっていくと、2014年8月26日に「大学教材編集出版 薛老師」という人が書いたブログに同じタイトルの論評が転載されており、そこからさらに、公安や司法関係の人材を輩出している中国政法大学の教授のスピーチにたどり着いた。

それは卒業式における祝辞の一つで、スピーチのタイトルは「中国にはやがて大きな変化が起きる。その時には必ず正義の側に立て」というものである。

筆者が驚いたのは、拙著『チャーズ  中国建国の残火』に書いた、1947年から48年にかけて中共軍が行なった長春の食糧封鎖に関する別の作者(台湾)の本『大江大海  1949』を紹介していることである。

あのとき数十万の無辜の民が目の前で餓死し、そこから脱出するために、筆者は餓死体の上で野宿した経験を持つ。その事実を書き残すことが、筆者の執筆活動の原点だ。

中国ではいま、静かに、そして秘かに「中国共産党の歴史の真相」を明らかにしようという「志のある人々」が動き始めている。

筆者が、完全に中共政権に見切りをつけて決別し、堂々と客観的事実を書いていこうと決意したのは、2012年前後のことだった。それまでは、もしかしたら生きている間に中国に民主が来るかもしれないという一抹の望みを抱いていたが、自分の残り時間と中国が民主化し、言論の自由を認めるときがくる(かもしれない)時期を考えたら、明らかに自分の残り時間の方が短い。

あの時代を生き抜いてきた者たちが決意する最後の時間帯が、2010年辺りだったのだろうと思う。

中国の政府高官に『毛沢東  日本軍と共謀した男』を書いたと、正直に告げたとき、彼は「よくぞ書いた! いずれ誰かが書かなければならない真相だ」と言ってくれた。

今般の潘漢年の記事に関して、「なぜ削除されていないのか?」と聞いたところ、以下の答えが戻ってきた。

――共産党の中にも、いろいろある。胡耀邦はかつて言っただろう?「もし中国人民がわが党の歴史の真実を知ったら、人民は立ち上がり、必ずわれわれの政府を転覆させるだろう」と。その時期は、必ず来る。ただ、人民が知っても中共政府が倒されないようにするために、つまり「中共の統治で良かった」と人民が思えるように、貧富の格差を無くし、人民を平等に豊かにしなければならない。それを建党100年目の2021年と考えているのだが、現状では達成されそうにない。インターネットの普及により、言論は統制しにくくなっている。胡耀邦の予言が的中するのか否か、中国はいま試練に立たされている。それがこの記事であり、あなたが書いた本だ。影響は小さくない。

日本では筆者が毛沢東に関する本を書いたことにより、筆者を反中反共と警戒して、避けるメディアが一部にある。中国政府に嫌われることを怖がっているのだろう。

しかし、中国の「志のある人々」の間では逆だ。

「遠藤こそ、人民の味方だ」と書いてくれているコメントが散見される。中国政府高官の一部さえ、心の中では同じように思ってくれているのだ。

日本と中国の、この逆転現象は、日本の一部の現実を反映していると、興味深く眺めている。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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