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『007スペクター』をIT時代のインプレッションで

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
新宿のTOHO CINEMASのIMAXで観劇

KNNポール神田です!

いよいよ映画『007スペクター』の先行上映が昨日(2015年11月27日金)より始まった。IT分野のジャーナリストが映画の中からそのIT分野における気づきをいくつかリポートしてみたいと思う。

上映直後のインプレッション

監督は前作の『007スカイフォール』のサム・メンデス監督。前作以上のドラマ演出でも秀逸。

前作の流れを組み、もはや冷戦も終わり、諜報活動そのものが、過去の遺物となろうとしている。ジェームス・ボンドの任務も、またコンピュータやドローンにとって替えられる職業になろうとしている。新任の上司「M」にさらに官僚的な「C」の就任によって、「00部門」だけではなく、MI6の存在そのものが風前の灯火となる…。

■生体内追跡チップで「Find my iPhone」化

いつも、どこで何をやっているのかがわからないようなボンドの動きに新任の体制側についた「Q」は、ボンドの腕に血液内に追跡チップを注入し、世界のどこにいてもわかるようにした。まるで、「Find my iPhone」やペットの「マイクロチップ」同様にボンドの足跡は常に監視されることとなった。今までのボンド映画の秘密兵器は敵に対してや自分を守るためのものだけだったが、自分の場所を明らかにする秘密兵器を体内に挿入されることはさすがに現代的な秘密兵器だといえよう。そう、そして今回の映画は、ボンド映画の過去の秘密兵器が大量に登場する。しかもそれらの秘密兵器が、現在となってはあまり機能しないこともみせつける。そう時代は変わったのだ。

■過去作品へのオマージュのオンパレード

ボンドに唯一与えられた武器は、オメガシーマスターのNATO海軍仕様のナイロンベルト製。これは初作の「ドクターノオ」や「ゴールドフィンガー」のショーン・コネリーがつけていたロレックスサブマリーナのNATO海軍仕様ナイロンベルトへの完全なるオマージュである。このように細かいギミックに過去作品のノスタルジックな要素をふんだんに織り交ぜながらも下品になっていない。また、ダニエル・クレイグ・ボンドのクールな使い方にロジャー・ムーア時代との差を感じる。今回の作品は、一度だけではなく、散りばめられたオマージュに、いくつ気づけるのかというとを見つける醍醐味もあるのだ。

■現代版Qのスーパーハッカーぶり

ベン・ウィショーが前作より「Q」を演じることにより、ボンドの活動をコンピューティングでサポートするようになった。今作では、さらにノートパソコンを外部に持ち出しサポートする。現代的な「Q」のノートは、AppleのMacBook類ではなかったのが意味深だ。いくつかのハッカーコミュニティらしきステッカーを貼っていあるノンブランドのPCのようだ。かつては、コロンビアがソニーピクチャーというチカラ関係でソニーや、VAIO一色だった時もあるくらいだから、そのあたりの親会社への心配りも一切ない。そして、Qは…とあるシステムへのハッキングを試みることとなる。また、ノートパソコンでありながら、物体のスキャニングデバイスも保持して調査活動を行う。映画に登場するコンピュータはまさにどんなことでもできる魔法の秘密兵器となる。

■宿敵スペクターのユビキタスなカメラと異様な組織体制

今回の作品は、スペクターの組織の全貌が明らかになる。ここでも注目なのはこの組織は、失敗すると殺されるという誰もモチベーションのあがらない方法で組織をマネージメントしているところだ。登場するのは、どことなくオリンピック選手の室伏広治さん風の宿敵。ボンドとの格闘は「ロシアより愛をこめて」の懐かしい名シーンを彷彿させる。何よりも、今回のボンドを一番苦しめる宿敵は、世界のありとあらゆるところに、悪の結社のネットワーク網を構築していることだ。MI6の中にまでスペクターのカメラは、まるで「ユビキタス(死語)=どこにでも顕在する」カメラである。しかも、その強固なネットワークは民主主義では実現できそうにない理想国家を築こうとするという思想のもとに束ねられている。ある種の「ISIL」のような思想の束ねられ方なのかもしれない。しかしどちらかというと、今回は企業体としてのスペクターの側面も見え隠れする。しかし、非上場であり、リクルーティングも謎、世界の僻地での勤務、社会の公序良俗に反する活動、失敗には死で責任を負わされるとはリスクばかりが目立つ組織でどのように人材を維持しているのかはとても謎である。ある意味、諜報部員も国家への忠誠心だけで存在しているのかもしれないが…。

■自動運転時代のボンド・カーをイメージする

今回のボンド・カーは、ボンドのためにではない009用のアストンマーチンのDB10が登場する。そのクルマを拝借したボンドは、いろんなギミックをテストする。テスラのモデルS並のタッチパネルを装備しながら、ショーン・コネリー時代のスパイ戦を追体験できる。そろそろ、ボンドのドライビングテクニックも、自動運転化されたクルマでは、道路によって、自動制御されるのかもしれない。階段などの障害物があると、自動的に停止してしまうからだ。ボンド・カーに求められる性能は、道路にかかわらず、どんなところでもカーチェイスができる事が求められる。ボンドカーは、どんな時代であってもマニュアル車であることが重要だ。

■サム・メンデス監督が語る今回のボンド

今回のボンドは、おそらく全作品の中で、初めて「00部門」の協力体制の中で戦われた作品だろう。どことなく「ミッション・インポッシブル」風に感じるシークエンスもある。ボンドが孤軍奮闘するだけでなく、ハイテク秘密兵器で活動するだけでなく、人間味と身体能力あふれるクレイグ・ボンドの「アナログ力」に人々は魅了されるかと思う。どんなシーンでもボンドは、決して弾に当たらないというお約束もあるが、それぞれの「00部門」のパーソナルな事情という現代的に生きる世界においてのサラリーマン的なアルゴリズムの必須条件をボンドが打ち砕くところに新時代のボンド像が浮き上がってきている。

できるだけ、ネタバレしないようにレポートしてみたが、ぜひ違和感のある表現は、劇場で納得していただければと思う。

個人的には、今回のボンド映画は、シリーズ最高作品クラスだと思うのでぜひ!

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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