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中国の中東外交/八方美人の時代の終わり

高橋和夫国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

中国の中東外交を見ていると、上海雑技団を思い出す。それほどのアクロバット的な離れ業を続けてきていた。北京政府は、中東においては全方位外交を展開し、皆に良い顔をしようとしてきた。これは、どこの政府でも望むことなのだが、なかなか難しい。というのは、中東諸国の間で様々な対立があるからだ。にもかかわらず、中国は八方美人的な外交を続けてきた。

たとえばサウジアラビアとイランの両国との関係維持である。中国にとっては両国ともにエネルギーの供給国として重要である。とろこが、この両国は関係が悪かった。にもかかわらず、両国と中国は友好関係を維持した。

そのイランと激しく対立するのがイスラエルである。しかし、中国は、このイスラエルとも密接な関係を保ってきた。イスラエルからハイテク技術を導入し、またイスラエルの経済インフラに多額の投資を行ってきた。たとえばイスラエル北部の海岸にあるハイファ市の港湾のコンテナ・ターミナルの建設に関与している。

そして中国とパレスチナ人の関係も悪くない。そのパレスチナ暫定自治政府は、イスラエルの実質上の占領下にあるヨルダン川西岸地区の一部を支配するのみである。自治政府は、エルサレムに首都を置くことを夢見ている。しかし現実にはエルサレムはイスラエルの占領下にあるので、実際には、この暫定自治政府の首都機能は、西岸のラマラという都市に置かれている。このラマラに自治政府の外務省を訪問して経験がある。外務省のビルがピッカピッカの新築だったのに驚いた。どこから、そのような資金が来たのかと尋ねると、中国が建築してくれたという。かつて日本がODAで被援助国の外交に影響力を行使しているとの批判は聞いた経験があるが、外務省の建物そのものを援助で建ててあげるという中国の外交は異次元である。

しかも対立している勢力の全てと付き合うという以上にすごかったのが、昨年春のイランとサウジアラビアの外交関係再開の合意である。この両国は、関係の悪化から双方の外交施設を閉鎖していた。この合意の仲介をしたのが中国だった。もちろん両者の側に、相互の関係を改善したいという決断があり、中国が調停で後押ししたに過ぎない。それにしても、それまで敵対していた両国に対話の場面を提供した中国外交は称賛に価するだう。中吊りのロープの上で宙返りをするような離れ業である。中国外交には重力が効いていないかのように軽々と難易度の高い大技を決めた。

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国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

国際情勢をわかる言葉で、まず自分自身に語りたいと思っています。北九州で生まれ育ち、大阪とニューヨークで勉強し、クウェートでの滞在経験もあります。アメリカで中東を研究した日本人という三つの視点を大切にしています。映像メディアに深い不信感を抱きながらも、放送大学ではテレビで講義をするという矛盾した存在です。及ばないながらも努力を続け、その過程を読者の皆様と共有できればと希求しています。

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