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内部を迷路のようにすることも……マンションの新世代収納は可動式で、間取りまで変える

櫻井幸雄住宅評論家
収納内に通路や書斎スペースをつくることができる「UGOCLO」システム。筆者撮影

 歩いて入ることができる服入れ=ウォークインクローゼットが日本のマンションに広まり始めたのは21世紀に入ったあたりから。以後、小部屋のような収納スペースは憧れを集めてきた。

 しかし、今、新世代の収納として注目されているのはウォークインクローゼットではなく、壁面収納。壁のように並んだクローゼットなのだが、いままでにない工夫が凝らされている。

 それは「可動式」であること。壁面収納が動くことで、間取りを変えたり、隠れ家のようなスペースをつくり出したりすることもできる。アクティブで、遊び心のある収納が人気を高めているのだ。

 気になる収納の新トレンドを紹介したい。

最初に登場した「UGOCLO」

 動く収納が登場したのは2016年。マンション専業の建設会社として多くの工夫を生み出してきた長谷工コーポレーションが「UGOCLO(ウゴクロ)」と名付けて発表したものが最初だ。以後、2017年から実際のマンションに採用され、新しい間取り可変システムとして、2017年のグッドデザイン賞を受賞し、特許も取得している。

 その仕組みは、3連のクローゼットを1セットとするものを基本とする(下の写真参照)。

観音開きのクローゼットを3つつなげたのが、「UGOCLO」の基本形となる。筆者撮影
観音開きのクローゼットを3つつなげたのが、「UGOCLO」の基本形となる。筆者撮影

 3連のクローゼットは2つの部屋の境に配置され、間仕切りの役目も果たす。この3連収納は押して動かすことができ、その位置を変えることで2つの居室の広さを調整できる、というのが最初のアイデアだった。

 その後、3連収納を2セット背中合わせに配置する方式が登場。両方の部屋から収納を使えるようにして、クローゼット内を通り抜けすることも可能になった(下の写真参照)。

3連収納を背中合わせに配置し、両方の部屋から使えるようにした「UGOCLO」の例。筆者撮影
3連収納を背中合わせに配置し、両方の部屋から使えるようにした「UGOCLO」の例。筆者撮影

 さらに、背中合わせに配置された2セットの間を開けることでスペースを生み出すし、さらに棚やデスクを固定できるようにしたのが冒頭の写真。同じ写真を下にも出すが、可動収納が進化を続け、より便利で楽しくなっているわけだ。

 

3連のクローゼットで、中央の観音開きの扉を開いたところ。収納内に通路があり、隣の部屋に歩いて行ける。その通路にデスクを備えている写真である。手前から奥への通路と交差するもう一つの通路も見える。筆者撮影
3連のクローゼットで、中央の観音開きの扉を開いたところ。収納内に通路があり、隣の部屋に歩いて行ける。その通路にデスクを備えている写真である。手前から奥への通路と交差するもう一つの通路も見える。筆者撮影

底に車輪を付け、収納が簡単に動く

 可動収納は、クローゼットの底に車輪を付けたことで実現する。車輪固定を外したり、ハンドルを回して車輪を下ろすことで、箱状のクローゼットを押したり、引いたりできるようになっているのだ。

 クローゼットが動くことで、間取りを変えることができる……手間とお金をかけてリフォーム工事をしなくても、手軽に暮らし方を変えることができることが長所だ。

 さらに、収納内にスペースをつくり出し、書斎や隠れ家のように使うこともできる。

 その利点を知ると、可動収納付きのマンションでなければ、おもしろくないと感じる人も増えてきた。

 可動収納がトレンドになり始めているのだ。

別の方式も生まれ、可動収納が急速に普及

 可動収納は、長谷工コーポレーションが生み出した「UGOCLO」だけではない。

 家具メーカーも独自に動く収納を開発している。たとえば、クローゼットの底に車輪を付け、部屋中どこにでも動かせるようにしたものもある。自由度が高いため、採用する新築分譲マンションも増えている。

 自由に動かせるクローゼットの場合、間仕切りとしてだけでなく、クローゼットを壁に寄せて配置することも可能。これにより、2部屋を1つの大きな部屋にすることもできる。

 伊藤忠都市開発は、自由に動くクローゼットを採用したマンション住戸を「間取りのない家」と名付けて広告展開したところ、多くの人が関心を示した。

 従来のマンション住戸に飽き足らない人たちが、暮らしながら自由に間取り変更できる工夫に注目しているわけだ。

伊藤忠都市開発が「間取りのない家」に採用する収納。横一列に並んだ3つのクローゼットのうち、ひとつだけを手前に動かしたところ。11月から販売される「クレヴィア西葛西レジデンス」のモデルルームで筆者撮影。
伊藤忠都市開発が「間取りのない家」に採用する収納。横一列に並んだ3つのクローゼットのうち、ひとつだけを手前に動かしたところ。11月から販売される「クレヴィア西葛西レジデンス」のモデルルームで筆者撮影。

 このように可動収納が増えてきた背景には、マンションの施工技術が進化したこともある。

 動かせるクローゼットは、間仕切りの役目を果たすため、なるべく天井ギリギリの高さにしなければならない。そこで、求められるのが「正確なつくり」だ。

 クローゼットを寸法どおりにつくる正確さだけではなく、マンションの床から天井までのサイズも図面どおりに仕上げる施工の正確さも求められる。 

 加えて、長い年月住み続けているうちに、天井や床が下がってくるとクローゼットが動かせなくなる。といっても、鉄筋コンクリートの天井(建築用語ではスラブ)がたわんでくることはない。天井及び床の内装材がたわむことがあり得るのだが、可動収納を採用するときは、内装材のたわみも許されない。

 マンションの可動収納は、正確な施工があってはじめて誕生した側面もあるわけだ。

全国初「全戸動く収納」付きの新築マンションも

 可動収納の方式は2つあり、それぞれを採用した新築分譲マンションが全国各地に登場している。

 可動収納を採用するマンションでは、「可動収納付き住戸」と「普通の収納付き住戸」を分けて設定し、購入者が選べるようにしているのが従来方式。「可動収納付き」住戸の割合は、全住戸のごく一部になることが多かった。  

 ところが、近年、可動収納付き住戸の人気が上昇。可動収納付き住戸が先に売れてしまい、売れ残るのは収納が動かない住戸ばかりというケースが生じるようになった。

 多くの人が、間取りを変更できる住戸、隠れ家のような楽しいスペース付き住戸を求めるようになったわけだ。

 そこで、「可動クローゼット付き住戸」の比率が高まり、ついには「全戸可動収納付き」という新築分譲マンションがこの秋名古屋市瑞穂区に登場することになった。

 そのマンションは、64平米以上のファミリー向け住戸をそろえ、抑えた価格でZEH(ゼッチ)仕様、ディスポーザー付きなど子育てファミリー向けに企画されるという。

 子育て世帯では、子供の成長とともに間取りを変えたくなるもの。そのニーズに応える形で全戸を可動収納付きとした。たしかに子育て中の世帯は子供の成長に合わせて間取りを変えたくなる。さらに、将来、シニアの夫婦2人暮らしになったときも間取りの変更の必要が生じる。

 可動収納は、長期にわたり、マンションを住みやすくする工夫として喜ばれることになるわけだ。

全国で初めて全戸に「UGOCLO」を採用するのは「ルネ瑞穂公園」。地下鉄名城線瑞穂運動場東駅から徒歩3分に建設される全91戸のマンションだ。収納内に机を置いたモデルルームで筆者撮影
全国で初めて全戸に「UGOCLO」を採用するのは「ルネ瑞穂公園」。地下鉄名城線瑞穂運動場東駅から徒歩3分に建設される全91戸のマンションだ。収納内に机を置いたモデルルームで筆者撮影

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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