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W杯予選で「不幸のドロ沼」にある韓国サッカー。ホン・ミョンボ体制でいま、何が起きているのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長

選手に監督、協会、サポーターまで。韓国サッカー界全体が今、前例のない“不幸”な状況に陥っている。

パレスチナ代表との北中米W杯アジア最終予選・グループB第1戦が行われた9月5日のソウルワールドカップ競技場。ホームでまさかのスコアレスドローに終わった試合当日、6万人に迫る観客が訪れたスタジアムの雰囲気は冷ややかだった。

就任初戦からブーイングを浴びた“レジェンド”

場内では韓国サッカー協会(KFA)のチョン・モンギュ会長の辞任を促し、韓国代表の指揮を執るホン・ミョンボ監督を批判する叫びがこだました。

それだけでなく、チョン・モンギュ会長とホン・ミョンボ監督に対する横断幕も無数に掲げられていた。

(参照記事:痛恨ドローの韓国代表、自国で“ブーイングの嵐”に選手が自制求める異例事態…「応援してほしい」

ホン・ミョンボ監督は今回、2014年ブラジルW杯以来10年ぶりに代表監督に復帰した。

ただ、韓国サッカーの“レジェンド”である指揮官は、2022年から率いた蔚山(ウルサン)HD FCを今シーズン途中に退任し、代表監督に就任したことで批判を受けている。

KFAの監督選任過程がスムーズでなかったこともあり、韓国国民は依然として新指揮官を歓迎していないようだった。

ホン・ミョンボ監督体制下の韓国の苦戦を報じる現地メディア(著者撮影)
ホン・ミョンボ監督体制下の韓国の苦戦を報じる現地メディア(著者撮影)

試合後には未曾有の事態も発生した。主力センターバックのDFキム・ミンジェ(バイエルン・ミュンヘン)が韓国代表サポーター「レッドデビル」がいるゴール裏の観客席に近づき、ブーイングを自制してほしいと訴えたのだ。

キム・ミンジェは試合終了直後、チーム全体の挨拶で観客席に向かって頭を下げなかったため、こちらも議論の的になった。昨日の公式記者会見で「観客席に伝えたことはともかく、その後の自分の行動は良くなかった」と反省していたが、選手とサポーターの間で“対立”が生じかねない状況となっている。

選手が“監督支持”を訴えるも…

ただ、観衆のブーイングを耳にした選手たちは、ホン・ミョンボ監督への支持を口々に訴えた。

キャプテンのFWソン・フンミン(トッテナム)は「多くのファンの立場を僕が代弁することはできない。ファンたちも望んでいた監督がいたと思う」としたうえで、次のように呼び掛ける。

「結果を変えることはできない。キャプテンとしてチームのことを考えると、(チームに)応援と愛をお願いするしかない。ファンと選手の関係は良くなければならない。良い雰囲気で励ましてくれれば、僕たち選手はそれを原動力にさらに走れる力を得る。自分たちで自分たちの敵を作ってはいけないと思う。(ファンの後押しが)相手を崩すために助けになることを、ファンの立場からも考えてほしい。応援をお願いしたい」

MFイ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)も、「選手は監督を100%信じて戦わなければならない。監督が勝つサッカーを作ってくれると信じている。サッカーファンの皆さんの気持ちもあると思うが、それでもたくさんの応援を送ってほしい」と口をそろえた。

もっとも、選手たちの切実な要求にもかかわらず、世論が大きく変わる気配は見えない。

現在生じている批判は、パレスチナ戦の1試合のみによって出たものではない。サポーターたちの抗議は、以前からさまざまな騒動で物議を醸してきたチョン・モンギュ会長とKFA、そして選出過程で今一つ歯切れが悪かったホン・ミョンボ監督に対する指摘に過ぎない。

ホン・ミョンボ監督ら、国会に召喚へ

それに9月のW杯予選が終わると、韓国サッカーが国会で取り上げられる“社会問題”となる。

国会の文化体育観光委員会が、韓国代表のホン・ミョンボ監督選任の手続きの適切性などを追及するため、KFA関係者を来る9月24日の懸案質疑会議の証人として呼ぶことで決定している。

この懸案質疑会議には、チョン・モンギュ会長のほか、今回の代表監督の選出に関わったKFAの国家代表戦力強化委員会の前委員長チョン・ヘソン、前委員パク・チュホ、またイ・イムセン技術委員長が証人として召喚される。ホン・ミョンボ監督も召喚予定だ。

この懸案質疑会議でも一騒動ありそうだが、まずは9月10日23時(日本時間)に敵地で迎えるオマーン代表とのW杯予選第2戦が重要だろう。

仮にオマーン戦もパレスチナ戦同様の結果となれば、韓国はアジア3次予選の開幕2連戦を勝利なしで終えることになる。そうなればさらなる混乱は避けられない。10月以降の試合を通じて十分に挽回はできるだろうが、現状の雰囲気を変えられないという点で致命打となる可能性もある。

オマーン戦で求められるのは勝利のみ。でなければ、韓国サッカーは今以上に“不幸の沼”に沈むことになりかねないだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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