昭和のおじさんドラマ『不適切にもほどがある!』の時代設定は、なぜ「1986年」なのか?
バック・トゥ・ザ・1986
昭和のおじさんドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。
主人公の小川市郎(阿部サダヲ)が、娘の純子(河合優実)と暮らしている「1986年(昭和61年)」とは、一体どんな年だったのか。
5月、海外の純資産額で日本が世界一になったことが報じられます。また9月の国土庁発表では、東京23区内の商業地で40%も地価が上昇。「狂乱地価」といわれました。
10月に売り出されたNTT株も人気を集め、11月になるとサラリーマンの生涯賃金が大卒で2億円を超えていきます。
では、テレビの世界はどうだったのか。
前年に始まった『ニュースステーション』(テレビ朝日系)の成功で、民放各局がワイドニュースに参入。同時に、ニュース番組のキャスターに女性が相次いで起用されていきました。
『モーニングショー』(同)の美里美寿々(現・田丸美寿々)さん、『NNNライブオンネットワーク』(日本テレビ系)の井田由美さん、そして『ネットワーク』(TBS系)の三雲孝江さんなどです。
今年4月、三雲さんの娘である星真琴さんが、NHKの看板報道番組『ニュースウオッチ9』のメインキャスターに就任するのも不思議な符合です。
ドラマのヒット作には、市郎も話題にした『男女七人夏物語』(TBS系)がありました。ひょんなことで出会った、結婚適齢期の男性3人と女性4人の恋愛模様。複数の男女の誰と誰が結ばれるのかを予想させる展開は、後のトレンディドラマの原型です。
また、『な・ま・い・き盛り』(フジテレビ系)も話題となりました。ヒロインは中山美穂さん。人気アイドル主演の連続ドラマの先駆的作品でした。
バラエティーでは、今年3月に幕を閉じる『世界ふしぎ発見!』(TBS系)や、視聴者参加のゲーム番組『風雲!たけし城』(同)がスタート。
さらに、過去のドラマやアニメなどの名場面をネタに盛り上がる『テレビ探偵団』(同)もこの年に登場しています。
市郎と純子、世代の異なる2人が生きている86年。今では、どこか揶揄するような口調で語られてしまう「バブルの時代」です。
しかし、好景気にわく社会も、高視聴率番組が林立するテレビ界も、そこに生きる人たちも、今より元気だったことは確かなのです。
クドカンにとっての「1986年」
宮藤官九郎さんが、過去の舞台を1986年(昭和61年)にしたのはなぜでしょう。
この年、70年(昭和45年)生まれの宮藤さんは、16歳の高校1年生でした。
ドラマの中の市郎の娘・純子は高校2年生で17歳。宮藤少年の同世代として、同じ時代の空気を吸っていることになります。純子には、当時の宮藤さん自身が投影されていると言えるでしょう。
また、市郎は1935年(昭和10年)生まれと設定されています。86年には51歳。そして宮藤さんは今年53歳です。市郎が、現在の宮藤さん自身とリンクする。50代は立派な「昭和のおじさん」なのです。
さらに、市郎が2024年(令和6年)にも生きていたなら、御年89歳になっているはずでした。残念ながら、1995年の阪神淡路大震災に巻き込まれたことが明かされています。
昭和10年生まれで思い浮かぶのが、宮藤さんにとっては脚本家の大先輩である、倉本聰さんです。
86年に51歳だった倉本さんは、ドラマ『ライスカレー』(フジテレビ系)を手がけています。若者たちがカナダでカレー屋をはじめる物語でした。時任三郎さん、陣内孝則さん、そして中井貴一さんなどが出演した作品です。
ちなみに、今年2月に亡くなった小澤征爾さんも昭和10年生まれでした。市郎の「生年設定」は、敬愛する先達(せんだつ)たちへのオマージュかもしれません。