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ドラッグストアの風邪薬「値段が高いほうが良い」は誤解?薬剤師からのアドバイス

市川衛医療の「翻訳家」
ドラッグストアに並ぶ風邪薬/筆者撮影

 風邪の季節です。熱やのどの痛み、咳(せき)などにお困りの方も多いのではないでしょうか?

 そんな時に頼りになるのが、ドラッグストアなどで購入できる、市販の「風邪薬」ですよね。

 しかしドラッグストアに行くと、様々な種類の風邪薬があり、何を選べばよいのか迷ってしまいます。ついつい値段を見て「高いもののほうが効果も高いのでは」とも思ってしまいますが、実際のところどうなのでしょうか?

 現役の薬剤師として「自分にあった市販薬を選びませんか?」をテーマにブログやSNSなどで情報を発信されている@kurieditsさんに聞きました。

処方せんが必要な薬とドラッグストアの市販薬・何が違うの?

Q)基本的な質問ですが、風邪薬に関して、医療機関に行って処方せんをもらわないと購入できない薬(医療用医薬品)と、ドラッグストアなどで購入できる薬(市販薬)では何が違うのでしょうか?

 大きく2つの違いがあります。1つ目は抗菌薬の飲み薬があるかないかです。病院では解熱鎮痛剤と共に抗菌薬が処方されることもあると思いますが、市販薬には抗菌薬の飲み薬はありません。

 もう一つの違いは有効成分の量です。同じ成分でも、病院で処方される薬のほうが、市販薬よりも成分量が多いことがあります。

 たとえば、風邪の症状のときに病院でよく処方される「PL配合顆粒」という薬があります。この市販薬版にあたる「パイロンPL顆粒」は、医療用と有効成分は同じなのですが、1回に服用できる量が2割少なくなっています。医療機関を受診すると医師による医学的判断が伴うので、市販薬よりも多めに使えるわけです。

 ただ、ぜひ覚えておいていただきたいのは、一般的な風邪症状であれば、ほとんどの場合は解熱鎮痛薬などで症状を抑えて自然回復を待つしかないということ。つまり、風邪で病院にかかる必要は、必ずしもありません。

 抗菌薬が欲しくて受診する方もいるかもしれませんが、むしろ近年は風邪症状に対して抗菌薬を安易に使わないことが医学的に推奨されています。

 ですから、風邪をひいた時や、受診すべきかどうか迷った時は、ドラッグストアや薬局の薬剤師に気軽に相談してください。薬剤師は受診が必要かどうかを判断する際に役に立つ知識を持っていますし、できるだけ「気軽に健康相談できる場所」を目指したいと願っています。

ドラッグストアの風邪薬・どう選ぶ? 筆者撮影
ドラッグストアの風邪薬・どう選ぶ? 筆者撮影

ドラッグストアで「風邪薬」を選ぶポイントは?

Q)ドラッグストアに行くと、非常に多くの風邪薬が販売されています。同じシリーズものでも、例えば「○○ゴールドA」とか「××Sプレミアム」のように、種類がたくさんあるようです。何をポイントに選べばよいのでしょうか?

 まず、パッケージデザインに惑わされないことです。派手な箱や文章は効果と比例しません。大事なのは有効成分です。名前も値段も違うのに、中身の成分はほとんど変わらない薬はたくさんあります。

 でも実際は、体調不良の時に薬の成分を見比べるなんて、できませんし、やりたくもありませんよね。薬剤師に相談していただければお手伝いができますが、自分だけで探す場合は、ある程度パッケージを頼りにするしかないかもしれません。

 その中で「どれがいいか探す手間が省ける」という観点でいえば、症状別に分かれた風邪薬が選びやすいですね。ほとんどの市販の風邪薬は「解熱鎮痛」「喉の痛みの改善」「咳止め」「鼻水・鼻づまり改善」の4つの成分からできています。

 もし、このなかで特に辛く抑えたい症状があるなら、パッケージにどの症状向けのものかが書いてあるシリーズがオススメです。「パブロンメディカルシリーズ」や、「ルルアタックシリーズ」、「エスタックイブシリーズ」などがあります。

 それでも迷ってしまう方は、思い切って値段の安いほうを選んでください。どの風邪薬もそれほど効果に大差はないという前提で出費を抑えるのも賢明な判断です。値段の高い薬にこだわる必要はありません。

どの症状に特にオススメか、パッケージに記載する市販薬も増えている  筆者撮影
どの症状に特にオススメか、パッケージに記載する市販薬も増えている  筆者撮影

トレンドは「イブプロフェン」配合の風邪薬

Q)意外です。個人的には、むしろ「迷ったら高いものを」と思っていました。ちなみに最近、風邪薬のトレンドに変化はありますか?

 最近の風邪薬のキーワードは「イブプロフェン」です。新しい風邪薬には解熱鎮痛成分のイブプロフェンを主体とした高価格帯の商品が増えています。

 

 医療用医薬品(製品名「ブルフェン」)と同じ用量のイブプロフェンを含む市販薬も出てきています。昨シーズン(2017年~2018年)に「パブロンエースPro」「コルゲンコーワIB錠 TXα」といったイブプロフェンを1日600mg(1回200mgで1日3回)配合した風邪薬が国内で初めて登場しました(※1)。

 イブプロフェン600mgは、もともとは薬剤師でなければ販売できない「第一類医薬品」というリスク区分の用量でした。しかし、3年前にリスク区分が変更されて(※2)、薬剤師が不在の時でも販売できるようになりました。ドラッグストアが扱いやすくなり、1日600mgタイプのイブプロフェンの風邪薬が登場し始めたのです。

 最近の風邪薬はイブプロフェン主体が多く、各社“効果の高い風邪薬”として売り出しています。普段健康な成人に限っていえば、「少しでも成分が充実している薬がほしい」というときに、イブプロフェンを多く含む市販薬を選ぶのはアリだと思います。

 ただ、価格も高いので、従来品と比べてそれほど差があるのか?という冷静な眼ももっていただきたいと思いますし、インフルエンザだったり健康状態によっては避けたほうがよい場合もあります。

 また、市販薬のイブプロフェンは15歳以上しか使用できませんので、お子様のいる家族の常備薬としてはやや不適当だともいえます。

ドラッグストアの専門家・上手なコミュニケーションのポイントは

Q)とても参考になりました。ただやっぱり、ドラッグストアの薬剤師さんに話しかけるのはちょっと勇気がいる気も。。。薬剤師さんが休憩時間などで、お店にいないこともありますよね。

 ドラッグストアには「薬剤師」と「登録販売者」という、2種類の専門家がいますので、そのどちらかを活用することをお勧めします。ドラッグストアでは営業時間内は必ずどちらかが店にいて、お客様の相談に応じられる体制になっています。

 あくまで一般論ですが、薬剤師は薬の効果はもちろんこと、薬同士の飲み合わせや、副作用などを含めた幅広い相談に応じることができます。また科学的根拠(エビデンス)に基づいた情報提供にも強い傾向があります。

 一方の登録販売者は市販薬全般の教育を受けているだけでなく、マスクなどの日用品の知識も豊富なので、薬以外の商品にも興味がある場合に相談するのがよいと思います。

 どうぞ気軽に薬の相談をしてください。スタッフの数が少なくて接客する時間がないほど忙しい店も少なくないのは事実ですが、ほとんどの薬剤師と登録販売者は、薬の情報提供を通じてお客様に喜んでいただく、役に立つことを喜びに感じる人たちです。

 特に薬剤師は普段から薬の勉強をしているので「相談してくれれば色々な情報を提供できるのに・・・」ともどかしく思っている人たちが多いと私は感じています。

 相談する際は下記のポイントを事前に頭の中で整理していただければ、スムーズに情報提供ができると思います。

1)現在の症状

2)その症状はいつからか

3)持病や飲んでいる薬などはないか

4)アレルギーや副作用の経験はないか

注目される「セルフメディケーション」上手に取り入れるポイントは

Q)病気になったら「まずは医療機関」と思ってしまいますが、ドラッグストアでも相談ができるんですね? 

 いま、国は「セルフメディケーション」という考え方を推進しています。これはざっくり言うと、風邪などの軽度の病気であれば受診せずに市販薬などで治す(対処する)という考え方です。市販薬で治すという語感から、「セルフメディケーション=自力で薬を選び、治す」と捉えられることもあるのですが、これは誤解です。

 一般の方々が、ネットでググったりして自分の力だけで解決しようとしても、得られる情報にはどうしても限りがありますよね。

 薬は健康に直結する上に専門性が高いからこそ、国が「薬剤師」や「登録販売者」といった専門家を用意して、彼らが情報提供することで薬を効果的かつ安全に使える制度を設けています。

 セルフメディケーションとは、消費者が風邪薬の棚の前でウンウンうなり時間と体力を削りながら自力で(セルフで)選ぶことではなく、「専門家に相談して情報提供を受けた上で、自分に最適な薬を選ぶもの」だと考えています。

 ぜひ、ドラッグストアにいる専門家を活用して、より安全で役に立つ選択をしていただければと思っています。

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【取材協力】Kurieditsさん

市販薬の販売に携わる薬剤師。“自分にあった市販薬を選びませんか?”をテーマに、匿名でブログ「ドラッグストアとジャーナリズム」を運営中。JCEJ「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」11位、朝日新聞「未来メディアキャンプ」未来メディアキャンプ賞受賞。

ツイッターは@kuriedits

Kurieditsさんツイッタープロフィール画像(本人提供)
Kurieditsさんツイッタープロフィール画像(本人提供)

※1 https://www.taisho.co.jp/company/release/2017/2017090701.html

※2 https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/ippanyou/pdf/161019_1.pdf

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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