子どもにアイロンをあててやけどを負わせる~児童虐待に対する法律の規定とその限界
佐賀県みやき町の自宅で、29歳の母親が小学2年生の長女に頬や手にアイロンをあててやけどをさせた疑いで逮捕されるというショッキングなニュースが報道されました。調べに対し、逮捕された母親は容疑を認めているということです。警察の調べによると、長女は日常的な虐待の可能性もあるようです(詳しくは、長女の頬と手にヘアアイロンあてやけど 傷害容疑で29歳の母親逮捕【佐賀県みやき町】をご覧ください)。
児童虐待が生じた場合、早急にかつ適切に子どもを保護する必要があります。今回は、法が親に課す処罰と子どもの利益を守るため行う規定をご紹介します。
「刑法」が規定する子どもを虐待した親に課す処罰
刑法では親を暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)、強制わいせつ罪(刑法176条)、強制性交等罪(刑法177条)、保護責任者遺棄罪(刑法218条)などで処罰して、児童虐待の再発を防止します。
刑法208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
刑法204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法176条(強制わいせつ罪)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑法177条(強制性交等罪)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
刑法218条(保護責任者遺棄等)
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。
「民法」が子どもの利益を守るために設けている規定
民法では、親権を喪失させたり(民法834条)、一時停止させる方法(民法834条の2)によって、子どもの利益を守ります。
民法834条(親権喪失の審判)
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。
民法834条の2(親権停止の審判)
1.父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2.家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、2年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
このように、刑法と民法は、児童虐待の再発を防止するための規定を設けています。しかし、親を法で処罰したり親権を停止することと、子どもの傷ついた体と心のケアはかならずしもつながるとはいえません。法には残念ながら限界があります。
虐待を受けてしまった子どもの健全な身体の回復が何より大切なことは言うまでもありません。そのために、行政はもちろんのこと、私たち一人ひとりが何をすべきかを真剣に考えなければならない段階にきているのではないでしょうか。