トランプの夢?ウッズの夢!
米ツアーは新シーズンが開幕しているが、このところ試合会場に姿を見せることなく米ゴルフ界を騒がせているのは、この2人。ドナルド・トランプとタイガー・ウッズだ。
昨日(米国25日)は、こんなニュースがネット上で大きな注目を集めた。2017年の全米女子オープン会場をニュージャージー州のトランプ・ナショナル・ベッドミンスターから別会場へ変更するよう依頼する手紙を米上院議員3名が連名で作成・署名し、大会主催者であるUSGA(全米ゴルフ協会)へ送ったという。
これを聞いて、「あれっ?」っと首を傾げたくなる方は多いであろう。
トランプが昨春に口にしたイスラム教徒やメキシコからの不法移民に対する差別的発言、さらには女性蔑視的発言を受けて、ゴルフ関連団体は一斉にトランプ所有コースで開催予定だった大会を別会場へ移したのでは?
そう、それが大方の認識だった。
実際、トランプの一連の問題発言の直後にPGAオブ・アメリカはグランドスラム・オブ・ゴルフの舞台をトランプ・ナショナル・ロサンゼルスから「別コースへ変更する」と即座に発表した。
R&Aは2020年の全英オープン会場となるはずだったトランプ・ターンベリーを全英ローテーションから外した。LGU(レディス・ゴルフ・ユニオン)が主催する全英女子オープンは2015年大会だけは別会場に移す時間的余裕がないということで、当初の予定通り、ターンベリーで開催したが、今後はR&AとLGUはアンチ・トランプで歩調を合わせると見られている。
そして、米PGAツアーはトランプ所有のドラルでキャデラック選手権を開催してきたが、今年の大会を最後にドラルと決別し、2017年からはメキシコ選手権へと大会名も開催場所も変更した。
【トランプの夢、消えてはいない?】
こうしてゴルフ関連団体はトランプとトランプ所有コースに背を向けたはずだった。
しかし、USGAが主催する2017年の全米女子オープンはトランプ・ナショナル・ベッドミンスター(ニュージャージー州)で開催される予定。さらには、昨夏にイの一番でグランドスラム・オブ・ゴルフの会場変更(注:実際にはその後、大会自体が消滅)を決めたPGAオブ・アメリカも2017年の全米シニアプロをバージニア州のトランプ・ナショナルで開催する予定。
昨夏の問題発言で一斉にトランプと距離を置いたゴルフ関連団体が、最近では、なんとなくその距離感を曖昧にしている気配が何とも気がかりだ。
トランプの政治の世界における野望はさておき、ゴルフ界における長年の夢が「男子(シニアではなくレギュラーの意)のメジャー大会を自分のコースで開催すること」というのは、米ゴルフ界では有名な話。
その夢の実現に向けて、トランプは国内外の既存の有名コースを買い取ってはトランプの名を冠し、そこへゴルフの大会を次々に招致してきた。そして2014年に購入したトランプ・ターンベリーで2020年の全英オープン開催が実現すれば、それは彼にとって夢の実現になるはずだった。
そこまで夢に近づいていながら、一連の問題発言で自らその夢を消してしまったところが“いかにもトランプ”だと思っていたのだが、少なくとも来年は女子とシニアのメジャー大会が以前からの予定が変更されることなくトランプ所有コースで開かれてしまう見込みだ。消えたはずの夢は完全消滅はしておらず、再燃する可能性も「無くは無い」気配。冒頭の上院議員たちは、もちろん政治的思惑が先行していることは明らかだが、トランプのターミネーターのような気配を感じているからこそ、わざわざUSGAに手紙を書いたのだろう。
果たして、この手紙の効果は現われてくれるのかどうか――。
【ウッズの夢、いまなお】
一方、14か月ぶりの戦線復帰となるはずだった開幕戦のセイフウエイ・オープン出場をドタキャンしたタイガー・ウッズは、大会会場のシルベラードCCに姿を見せることはなかったが、1週間後には新しいベンチャービジネスとして新ブランド「TGR」を立ち上げることを大々的に発表し、ゴルフ界を賑わわせた。
その3日後には、米国で放映された2つのTVショーにゲスト出演し、日頃、ゴルフ関連の会見や取材の場では語らなかったことを饒舌に語り、人々を驚かせた。
その1つ、『ザ・レイトショー』では、毎日8時間、必死のトレーニングを行なっていることやランチ休憩はたった30分しか取らないことなど最近の1日の過ごし方を語り、9月にこの世を去ったアーノルド・パーマーとかつて一緒にステーキを食べた話や歴代大統領と一緒にゴルフをしたときの秘話も明かした。そして、ウッズが大会ホストを務める12月のヒーロー・ワールド・チャレンジで今度こそ復帰するつもりなのだ、と。
もう1つの『チャーリー・ローズ』では、自分のこれまでの人生における唯一の後悔は「あと1年、スターンフォード大学に行かなかったことだ」と語った。卒業まで在籍せず、見切り発車でプロ転向したことが、今では残念でたまらないのだそうだ。
こんなやり取りもあった。司会者から「ジャック・ニクラスの記録に並ぶメジャー18勝は?」と問われると、ウッズは「ノー」と首を横に振った。司会者から「えっ、ノーなの?」と再度問われると、ウッズはやっぱり「ノー」と首を横に振った上で「だって、もっと勝つからね」。
ニクラスのメジャー勝利数「18」に追い付き、追い越すという究極の夢を「ウッズはいまなお諦めていない」という大きな見出しが、すぐさま米ゴルフ界で踊ったことは言うまでもない。
トランプの夢、ウッズの夢。どちらも本人にとっては“男のロマン”なのだろう。だが、人々の側から見れば、望まぬ夢と望む夢がある。望むべからぬ夢もあり、望みたくなる夢もある。みんなが実現を望む夢がドリーム・カム・トゥルーとなってほしいものだ。