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日本メディアは騙されやすい?――南沙諸島埋め立て、近く完了に関して

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

16日、中国外交部の「南沙諸島埋め立て近く完了」発言に関して、日本メディアは一斉に中国が譲歩した趣旨の報道をした。中国政府高官は「日本メディアは騙されやすい」と高笑いした。アメリカは前から知っていたとのこと。

◆日本メディアは騙されやすい?

6月16日、中国外交部(外務省)の陸慷(ルーカン)報道局長は、中国が南シナ海の南沙諸島で進めている埋め立て工事について記者会見会場の記者からの質問に対して「既定の作業計画に基づき、(埋め立て作業自身の)一部は近く完了する。ただし、次の段階として、軍事や防衛のほか、海上救難や災害対策、航行安全などに使用する施設を建設する」と回答した。

このことに関して日本のメディアは一斉に中国が譲歩した可能性があるという「主観的憶測(期待感?)」をつけて「客観的事実」を報道した。新聞社名は省略するが、たとえば

●23、24両日にワ シントンで開かれる米中戦略・経済対話を前に、対立激化を回避したい中国は、埋め立て工事終結の方針を示すことで妥協を探った可能性もある。

●ワシントンで第7回米中戦略・経済対話も開催される。中国は国際的な非難の高まりや米国との会議を控え、作業を中断した可能性が高い。

●米中戦略・経済対話の開催を控え、埋め立ての終結方針を示すことで、批判をかわす狙いがあるとみられる。

などである。

それに比べてロイターなど海外の情報は(全文を載せるので新聞社名を書く)、

北京 16日 ロイター-中国外務省は16日、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で進めている埋め立て工事について、一部が近く完了するとの声明を発表した。フィリピンや米国などは埋め立て工事に反対している。同省は、南沙諸島で進めている建設工事について、軍事目的のほか、海難救助、災害対策、環境保護、航行安全の目的があると改めて表明。埋め立て工事の完了後に「重要な機能を果たす」施設を建設する方針を示した。

と、「客観的事実」を書いただけで「希望的観測」や「憶測」などは、いっさい加えていない。

まさに、こうあるべきで、中国のこれまでの動き方を追いかけていた筆者としては、どうも日本メディアの「憶測」に違和感を覚えた。そこで思い切って中国政府高官に、中国の真意を聞いてみた。

すると彼は高笑いをして「あなたも、この違いに気づいていましたか? 日本メディアは、どうしてこうも騙されやすいんでしょう」と言う。

彼は続けた。

「アメリカがなぜ、最近になって突然、南沙諸島埋め立て問題に関して必死になって中国を攻め始めたと思いますか? もちろん大統領選挙があるからで、オバマとしては何か残しておかないと国内的にも国際社会に対してもメンツが立たない。それは誰でもが知っている理由でしょうが、それ以上に我々が知っておかなければならないのは、アメリカは『もうすぐ南沙諸島の埋め立て作業が終わる』ということを、早くから知っていたからなんですよ」

「えっ? スパイがいて、教えているんですか?」と問いを重ねる筆者に、この政府高官は、またもや高笑いをした。

「そりゃ、この時代ですから、どんな方法だってあるでしょう。あんなに頻繁に偵察もしていれば衛星だってある。最近は精度が高いから、専門知識さえあれば、もうすぐ埋め立て作業は完了するなってことくらい分析できるでしょう。もちろんスパイなんて、今さら始まったことではないし……」とまた高笑い。

「要するにですね、アメリカは、もうすぐ作業が終わると知ったので、『いま声高(こわだか)に非難声明を出せば、あたかも、中国がアメリカの非難に負けた』と世間が思ってくれるかもしれないと期待して、最近になって突然、騒ぎ始めたんですよ。デキレース、デキレース……」

なるほど――。

これなら論理的整合性がある。

アメリカは、まもなく埋め立て作業が終わることを知ったので、批判を突然始め、自国のプレゼンス、あるいは大統領としてのメンツを保とうとしたわけだ。「ほら、私が言ったお蔭で、中国は近く完了と言ったでしょ?」と、オバマ大統領は得意げになるという寸法だったのか――。

「日本はアメリカとタイアップして報道してるんじゃないんですか? アメリカが最も報道してほしい『憶測』を付けて報道している。日米の報道こそが、デキレースだと、私は思ってますけどねぇ」

彼は急にに重い口調になって付け加えた。

それにしても、「近く完了」宣言を、アメリカの次期大統領候補に関して民主党と共和党がそれぞれ発表した瞬間に合わせて、中国外交部が発表するとは――。

これは米中のデキレースだったのか?

◆次は計画通りに必要施設を建設

埋め立て工事が完了したので、次はその土地の上に必要な施設を建築するという。

「ただ単に埋め立てだけして、その上に何も建てないとしたら、いったい何のために埋め立てをしたのか。バカみたいじゃないですか? 建てるに決まってるでしょう。中国は半歩たりとも譲歩はしませんよ。計画通りに動いているだけです」

高笑いの政府高官は、これもまた、ピシャリとした口調で話を結んだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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