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イスラエルとハマスの偽情報を米著名政治家も拡散 SNSで溢れるフェイク、問われるネットリテラシー

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
イスラム教徒のオマル米下院議員(今年1月)。(写真:ロイター/アフロ)

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘をめぐって、インターネットやソーシャルメディアでは偽情報が溢れ、問題になっている。

アメリカでは民主党のイルハン・オマル下院議員がXで、「危険な誤情報を拡散した」とし非難、猛反発されている。

16日付のデイリーメールによると、「パレスチナでイスラエル軍に虐殺された614人の子ども」としてXで投稿された写真に、オマル氏が「パレスチナにおける児童の大量虐殺」というキャプションを付けて再投稿した。しかしそれは、ガザ/パレスチナの子どもの写真ではなく、2013年8月にシリアの東グータでアサド政権が使った化学兵器サリンによって虐殺された子どもの写真だった。この時1400人以上が殺され、その多くは子どもだったと報じられている。元の画像はナショナルジオグラフィックに投稿されていた。

オマル氏は自身のX再投稿後にユーザーから指摘を受け、該当の投稿を削除した。しかしながらオマル氏ほどになると、その影響力は計り知れない(デイリーメールの記事には削除前の写真が掲載されている)。

オマル氏による問題の再投稿は、盟友と言われるニューヨーク州のアレクサンドリア・オカシオ-コルテス議員(通称AOC)がイスラエルとハマスの紛争についてネット上で虚偽の情報や画像が多いことを危惧し、「センシティブな情報や写真を投稿する際は少し立ち止まり、複数の情報源で真実を確認してから行動するように」と注意を呼びかけてから1週間も経たないうちになされた。またオマル氏はこの週末にかけ、イスラエルの行いを戦争犯罪と非難し、ガザ市民への避難指示について「国際人道法に違反している」とする内容をXで再投稿した後に続いたものだった。

ソマリア出身のオマル氏は、難民として1995年に家族と渡米し、その後市民権を取得。2018年にムスリム女性初の下院議員の一人として選出された。スクワッドというあだ名で、AOCなど個性的な民主党女性下院議員4人衆の一人として注目されているが、これまでも反ユダヤ・反イスラエル主義的な発言で反感を買ってきており、経験不足なのか脇の甘さが目立つ。21年にはイスラエルをハマスやタリバンと同一視するような発言をし、党内外から猛反発が起きていた。

イスラエルとハマスの衝突が続くなか、ネットやSNS上では米ホワイトハウスの声明を装ったものや英BBCを装ったものなど偽動画が次々に出ては拡散されている。14日付のワシントンポストは「偽の情報、画像、ミーム、動画が溢れ、何が本物かを判断することが困難になっている」と報じた。

その原因の一つとして、記事は「ここ1年間で相次いだIT企業のリストラによって、コンテンツの監視や取り締まりを担当する部署(アラビア語話者含む)が解体もしくは縮小し、企業がこうした苦情に対処する能力を損なったこと」を挙げている。またハマスと支持者がXを利用し、中東地域で反ユダヤ主義のプロパガンダに精を出しているという指摘が専門家から出ている。EUは、違法の可能性があるコンテンツや偽情報の管理を怠ったとして、X社を調査すると発表した。

ネット時代のフェイクニュース/デマは見極めが簡単ではない分、「情報の出どころ」をまずは確認したい。情報源は、主要メディアの一次ソース(そのメディアが取材しているもの)であれば、まず問題ないだろう。さらに自分のSNSに投稿・再投稿する際は「果たしてこの情報は正しいものか」「写真やビデオはフェイクではないか」と一度立ち止まって冷静に判断することが求められている。知らず知らずに自分が偽情報の拡散に加担する側に回らないようにしよう。

(Text by Kasumi Abe)本記事の無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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