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1500人が殺害された「安倍首相にはイランで起きている真実を知ってほしい」老ジャーナリストが訴え

木村正人在英国際ジャーナリスト
来日したロウハニ大統領と官邸で会談した安倍首相(首相官邸HPより)

ガソリンの値上げが発火点に

[ロンドン発]ガソリンの値上げをきっかけに先月15日から抗議運動が全土に燃え広がっているイランで、最高指導者アリー・ハメネイ師の主導で弾圧が行われ、死者が1500人にのぼっているとロイター通信が報じました。17歳の未成年、女性400人も含まれているそうです。

国際人権規約アムネスティ・インターナショナルの死者推定304人、死者1000人以上という別の報告をも上回る数字です。イラン革命でパーレビ国王が出国し、体制が一変した1979年以来最大の抗議運動に発展。抗議する市民はハメネイ師の写真を燃やし、体制転覆を叫んでいます。

ロイター通信によると、トランプ米政権のイラン核合意からの離脱と経済制裁の再開でイランの原油輸出は80%も激減。国際通貨基金(IMF)は、イラン経済は今年9.5%縮小すると推定。財政赤字は国内総生産(GDP)の4.5%、来年は5.1%に達すると予測しています。

イランのインフレ率は今年4月50%を突破、国民の生活は困窮しています。イラン当局は若者たちにイラン独自の通信アプリに登録するよう求めていますが、WhatsAppのような海外アプリが普及しているため、抗議運動の広がりを受け、インターネットを遮断しました。

脅されたジャーナリストの家族

ロンドンを拠点に2年前に始まったペルシャ語放送のイラン国際テレビチャンネルで働くジャーナリスト、サデク・サバ氏(67)は今回の抗議運動を報じるようになってから、同僚12人の家族がイランで治安当局から脅しを受けていると筆者に打ち明けました。

サデク・サバ氏(筆者撮影)
サデク・サバ氏(筆者撮影)

同チャンネルは、サウジアラビアの二重国籍を持つビジネスマンが所有。ロンドンの本社では約120人のジャーナリストと約80人のスタッフが働いています。トルコやイスラエルにも拠点を置き、ペルシャ語圏向けに24時間ニュースを伝えている民間チャンネルです。

サバ氏はイラン生まれ。イラン革命をきっかけに同国国内では拘束や拷問などの弾圧が始まり、3年後の1982年、イランから英国に逃れてきました。1990年から英BBC放送のペルシャ語サービスで働き、2009~2016年にはその責任者になりました。

抗議運動の初日から市民を射殺

サバ氏によると、イラン当局がガソリン価格を3倍に引き上げてからイラン全土100カ所以上で抗議運動に火がつきました。ガソリン価格が上がると全ての物価が上昇するからです。抗議運動の初日から武装した治安部隊が市民に対して銃口を向け、射殺したと言います。

(筆者注)AP通信によると月に60リットルしかガソリンを買うことができなくなり、1リットル当たりの価格は1万5000イラン・リアル(約50円)。60リットル以上になると1リットル当たり3万イラン・リアル(約100円)。それ以前は250リットルまで買えて1リットル当たり1万イラン・リアル(約33円)だった。

サバ氏らイラン国際テレビチャンネルにはイラン国内で撮影された数千もの動画が送られてきました。治安部隊は抗議運動に参加する市民の頭を撃って射殺する様子が生々しく記録されていました。治安部隊は手足を撃って動きを止めるのではなく、殺害するために発砲していたのです。

「彼らは市民ジャーナリストです。インターネットは2~3日で再開され、そのあと再びスマホで撮影された何千もの動画が送られてきたのです」とサバ氏は言います。

こうした動画をもとに集中的にイラン国内で進行している現実を報じるようになってからイラン国際テレビチャンネルで働く同僚12人の家族が次々とテヘランの情報省やその他の都市で呼び出されました。

「彼らの住所は分かっている。子供の学校もな」

家族の多くは70~80歳代のお年寄りで「お前の息子や娘がイラン国際テレビチャンネルで働くのを24時間以内に辞めさせろ」と脅されました。

「もし辞めなかったらお前の息子や娘を力づくで捕まえて、イランに連れ戻す。彼らの住所は分かっている。彼らの子供が通っている学校もな」「もし息子や娘を説得できなかったら、イランにいるお前たちも、その結果を見ることになる」、と。

家族はイラン国外に脱出できないよう旅券を取り上げられました。そして仕事を失い、年金支給もカットされるかもしれないと通告されました。

イランの国営通信社はイラン国際テレビチャンネルで働くジャーナリストは厳しい金融制裁と刑罰を科せられると報じました。イラン情報省はサバ氏の同僚について「イランの敵だ。テロリズムを支援している。彼らはどこにいても罰せられるべきだ」と公然と非難しました。

「安倍首相は見て見ぬふりをしないでほしい」

ソーシャルメディア上では同僚に対し死の脅しが向けられました。サバ氏は「同じようことがBBCペルシャ語放送やボイス・オブ・アメリカ(VOA)、ラジオ・フリー・ヨーロッパなどで働くジャーナリストの家族に起こっています」と言います。

真実を伝えるペルシャ語のニュースチャンネルは全てイラン治安当局の弾圧対象だそうです。イラン国際テレビチャンネルはロンドン警視庁に相談し、建物を警備する私服の警備員を雇いました。脅されているジャーナリストやスタッフが心理療法士に相談できるよう手配しました。

一方、日本の安倍晋三首相は20日、イラン大統領としては19年ぶりに来日したイランのハッサン・ロウハニ大統領と官邸で会談しました。制裁を強めるトランプ米政権と、核合意からの段階的な離脱をちらつかせるイランの間を取り持つのが狙いです。

サバ氏はこう力を込めました。

「安倍首相ら国際社会の指導者がロウハニ大統領をはじめイランの関係者に会う時、国家権力を行使した不正義に言及することを期待しています。ジャーナリストの家族を脅しているのはロウハニ大統領の情報省です。こうした非人道的なことは即座に止めなければなりません」

「こうした不正義が行われていることについて日本の人々にも、もっと広く知ってもらいたいのです。日本はアメリカと違ってイランとつながりを持っています。日本はイランで弾圧されている人々を助けることができると思います。だから見て見ぬふりをしないでほしい」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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