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甲子園なき全国の代替大会終わる!  交流試合とは違った重みも

森本栄浩毎日放送アナウンサー
甲子園中止を受けての代替大会がようやく終わった。長くつらい夏だった(筆者撮影)

 夏の甲子園中止が決まったのは5月20日。それから、全国の地方高野連が主導して、独自の代替大会が長期にわたって行われた。球場不足や新チームの始動に伴う時間的制約などで優勝校を決めない地区がある一方、東京では東西の優勝校同士が「東京一」を懸けて戦ったり、東北6県の優勝校による「夏の東北大会」が行われたりした。そこには、甲子園の交流試合とは異なる重みも感じられた。

東京一や夏の東北大会も

 まず、優勝校が決まらなかった7地区を挙げる。( )内の数字は、終了した時点で勝ち残った校数である。茨城(4)、栃木(8)、京都(8)、大阪(2)、兵庫(8)、福岡(4)、熊本(3)。大阪は決勝まで行う予定だったが、雨で順延が続き、履正社関大北陽が優勝扱いとなった。一方で、東京は、東の優勝校の帝京と、西の優勝校の東海大菅生が「東京一」決定戦を行い、菅生がサヨナラで帝京を破った。また、東北では優勝の6校が「夏の東北大会」を行い、聖光学院(福島)が、仙台育英(宮城)を破った。これも独自大会ならではだった。

甲子園と独自大会の間で

 8月10日からは甲子園で高校野球交流試合もあった。直前まで独自大会を戦っていたり、帰郷してすぐに独自大会に参戦するチームがあったりで、調整が難しかったことは容易に想像できる。交流試合の開幕戦に出場した花咲徳栄(埼玉)は、独自大会との兼ね合いで、初日にしか登場できないことになっていた。5連覇中だった埼玉大会では、疲れが残っていたか精彩を欠き、公立の鷲宮に敗れた。しかし、東海大相模は、神奈川大会の最中に甲子園が入るという強行軍にもかかわらず、圧倒的な強さで激戦区の頂点に立った。甲子園では大阪桐蔭に惜敗していて、名門のプライドが感じられる優勝だった。

3年生最優先の強豪も

 筆者の地元の近畿では、「3年生のための大会」として、勝敗よりも3年生の起用を優先させた強豪も多かった。「奈良2強」の天理智弁学園は、ともに下級生の有望選手を外して戦った。優勝した天理は、甲子園の交流試合も3年生中心で戦い、秋に主力だった2年生はベンチ入りしたが試合には出なかった。京都でブロック優勝した龍谷大平安は、ベンチ入り20人全員が3年生。原田英彦監督(60)は、「グラウンドもずっと3年生に使わせていた」と、あえて新チームの始動を遅らせてまで、3年生を優先した。甲子園でも好試合を演じた明石商(兵庫)は、県のブロック決勝でタイブレーク負けを喫したが、狭間善徳監督(56)は、3年生全員の起用を最優先し、勝敗を度外視した采配に徹した。教育者として、最大限の配慮がうかがえる。

近江は3年生全員ベンチ入りで優勝

 有力選手が多かった滋賀は、苦戦も予想された近江が夏の「3連覇」を果たした。初戦が昨年の決勝の相手の光泉カトリックで、両校無得点のまま、終盤へ。ここで近江のエース・田中航大(3年)の足がつるアクシデントで、急遽マウンドに上がったのは公式戦初出場の山田陽翔(1年)だった。山田は3イニングを抑え、自ら決勝打を放ってチームの危機を救った。多賀章仁監督(61)は、決勝まで5試合を戦うと想定して、3年生全員を代わる代わるベンチ入りさせるつもりだったという。多くの地区がそうであったように、独自大会は試合ごとにベンチ入り選手を変更できる。甲子園を懸けた例年の地方大会ならあり得ない措置である。結局、近江はその後、盤石の強さを見せて、多賀監督の思惑通り、3年生全員がグラウンドで勝利の校歌を歌えた。3年生を最大限起用しつつ、有望下級生の力を借りて優勝までこぎつけるのも、名将ならではの鮮やかな采配と言える。

中京大中京は公式戦全勝、聖光は14連覇

 先述の東海大相模は新チーム結成以降、神奈川で負けなしだったし、昨秋の神宮大会で優勝した中京大中京は、愛知の独自大会を制し、直後の甲子園交流試合も智弁学園にタイブレーク勝ちして、公式戦全勝で1年を終えた。エースの高橋宏斗(3年)も、「公式戦無敗が目標だった」ときっぱり話し、全ての試合に全力を傾けたことを強調していた。聖光学院は、昨夏まで13年連続出場の戦後最長記録を続けていた。今夏の甲子園が中止になったため、参考記録扱いになりそうだが、「夏の14連覇」を達成し、その後の東北大会では、仙台育英を圧倒して優勝した。甲子園がなくとも、名門には威信がある。全力で戦う姿は、後輩たちが目に焼きつけたはずだ。

甲子園未経験の優勝校

 7地区の優勝校は決まらなかったが、今夏の優勝校には、春夏の甲子園未経験が4校あった。最後に優勝が決まった埼玉の狭山ヶ丘は女子校が前身の私学だが、共学になって60年近く経つ。聖隷クリストファー(静岡)は、近年力をつけ、プロのドラフト1位選手も出ている。大崎(長崎)は、離島の高校で、県内の清峰や佐世保実で甲子園経験豊富な清水央彦監督(48)が率いる。同校は秋の長崎も優勝していて、実力を証明した。八重山(沖縄)は石垣島にある進学校で、離島のハンディを克服しての優勝だった。

「特別な夏」記憶は永遠に

 単独優勝ではないが、甲子園経験のない進学校の福岡は、全国屈指の右腕・山下舜平大(3年)を擁する福岡大大濠を破って「福岡地区」で優勝した。ラグビーの名門で、修猷館、筑紫丘と並ぶ「御三家」として知られる。また、倉吉東(鳥取)や津久見(大分)は、久しぶりの夏の優勝で、地元は盛り上がったはずだ。甲子園のなかった特別な夏。球児たちが全力で戦った記憶は永遠に残る。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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