「放言・暴言・失言の製造機」桜田議員が「子ども最低3人産んで」発言で炎上の何が問題なのか
「(焼却灰は)原発事故で人の住めなくなった福島に置けばいい」
[ロンドン発]自民党の桜田義孝前五輪相(69)=衆院千葉8区、二階派=が29日、猪口邦子元少子化担当相のパーティーで「お子さんやお孫さんにぜひ、子どもを最低3人くらい産むようにお願いしてもらいたい」と呼びかけ、またも炎上しました。
桜田氏は「放言・暴言・失言の製造機」(社民党・又市征治党首)と言われるほど妄言を大量生産してきました。過去の妄言を見ておきましょう。
福島第一原発事故で放射能に汚染されたごみを焼いて出た焼却灰について「(焼却灰は)原発事故で人の住めなくなった福島に置けばいい」(2013年10月、文部科学副大臣時代)
「従軍慰安婦の問題は、日本で売春禁止法(防止法)ができる前までは、売春婦と言うけれど職業としての娼婦(しょうふ)、ビジネスだった。これを何か犠牲者のような宣伝工作に惑わされ過ぎている」(16年1月)
五輪関連予算に関して1500億円を「1500円」と言い間違える(昨年11月、五輪相として)
サイバーセキュリティー基本法改正案を担当しているにもかかわらず「従業員や秘書に指示してやってきたので、自分でパソコンを打つことはない」USBメモリーについても「細かいことはよく分からない」(昨年11月、同)
競泳の池江璃花子選手の白血病公表について「がっかりしている」「(五輪の)盛り上がりが若干下火にならないか心配だ」(今年2月、同)
「(震災直後、沿岸部の国道は通行不能となり、東北自動車道も緊急車両を除き通行止めになったにもかかわらず)国道や東北自動車道が健全に動いたからよかった。首都直下型地震が来たら交通渋滞で人や物資の移動が妨げられる」(今年3月、同)
岩手県出身の自民党の高橋比奈子衆院議員のパーティーで「おもてなしの心を持って、復興に協力していただければ、ありがたい。そして、復興以上に大事なのは、高橋さんでございます」(今年4月、事実上、五輪相を更迭)
効き目がなかった失言防止マニュアル
共同通信によると、桜田氏は会合で「少子化は国家的な問題だ」として女性が生涯に産む子どもの数を増やす必要があると指摘。「最近は、結婚しなくていいという女性がみるみる増えちゃった」と語ったそうです。
桜田氏は「子どもを安心して産み、育てやすい環境をつくることが重要との思いで発言した。誰かを傷つける意図はなかった」という釈明コメントを出しました。
立憲民主党の蓮舫参院幹事長は「最低な発言だ。こんな古い発想を持っている人が大臣だったことが驚きでしかない。国会議員の恥だ」と猛反発しています。
自民党は「失言防止マニュアル」を議員に配布したばかり。注意するポイントや話題は次の通りです。
・発言は切り取られる。句点を意識して短い文章を重ねる
・歴史認識、政治信条に関する個人的見解(謝罪もできず長期化の傾向)
・ジェンダー(性差)、LGBTについての個人的見解
・事故や災害に関し配慮に欠ける発言
・病気や老いに関する発言。弱者や被害者がいるテーマについては表現にブレーキを
・身内と話すようなウケ狙いの雑談口調。日頃の言葉遣いを第三者にチェックしてもらう
べらんめえ口調の麻生太郎副総理・財務相と桜田氏が発言を控えれば、自民党の失言はかなり防げるのではないでしょうか。
童貞や処女を卒業するのも難しい時代
どうして桜田発言が女性や子育て世代の神経を逆なでするのかを見ておきましょう。まず子供がいる世帯ですら全体の23.3%、子供が3人以上いる世帯となると3.2%に過ぎません(2017年)。今の時代、彼や彼女を見つけて結婚し、子供を育てることができるのは一つの特権です。
3人もとなると特権中の特権と言うことになるのかもしれません。
スウェーデン・カロリンスカ研究所の上田ピーター氏らの調査で、バブル崩壊後「失われた20年」に当たる1992年から2015年の間に、18~39歳で性交渉の経験がない日本女性(処女)が22%から25%に、日本男性(童貞)は20%から26%に増加していることが分かりました。
10年時点で日本の18~39歳の処女は326万人、童貞は380万人と推定されています。童貞や処女を卒業するのも難しい時代になってしまったのに「子どもを最低3人くらい産む」という発言は現実離れしています。
今や夫は仕事、妻は家庭というライフスタイルは完全に崩壊し、71%の母親は何らかの形で働きに出ています。一番下の子が12~14歳になると83%の母親が働いています。
女性が子供を産むとどうしても働きに出る時間が減り、キャリアアップと昇給も一時的に止まります。さらに子供が増えると育児、教育の費用がかさみ、家計の大きな負担になってしまいます。
アイドルグループ吉本坂46のメンバーで、4人の子供がいるエハラマサヒロさんは桜田発言に対して、こうツイートしています。
子供を産み、育てやすい日本にするためには以下のような政策が必要です。
一、男も女も同じように参加できる社会をつくる
一、セクハラをなくす
一、男女の教育・給与格差をなくす
一、男も女も同じように育児休業をとる
一、同一労働同一賃金を実現する
一、賃金を上げる
一、保育所を増やして待機児童をなくす
一、男も女も同じように家事と子育てをする
一、児童手当を充実させる
一、教育費の負担を減らす
一、仕事と人生のバランスを考える
桜田発言に対して、女性や子育て世代が「いい加減にしろ」と憤慨するのも当たり前だと思います。
人口減少という目の前の危機
人口動態統計を見ると昨年、日本の人口(自然増減)は44万8000人も減りました。桜田氏に言われるまでもなく、女性に3人以上産んでもらわないと日本社会がどんどん縮んでいく危機はもうやって来ています。
しかし、日本で人口問題を口にするのはタブーとされてきました。戦争中の悪夢がよみがえるからです。
昭和16(1941)年1月22日に閣議決定された人口政策確立要綱で「昭和35年総人口1億(内地人)」「今後10年間で婚姻年齢を現在より約3年早めるとともに夫婦の出生数を平均5児に達すること」を目標として定めました。戦争遂行と版図拡大のためでした。
米国の人口学者は昭和初期「世界人口の危険地域」の一つとして、明治5(1872)年の約3300万人から昭和5(1930)年の約6370万人へ人口がほぼ倍増した日本を挙げ、日本は東南アジアに国内過剰人口のはけ口を求め、戦争が勃発する恐れが大きいと予言していました。
婦人参政権が認められた戦後の総選挙で39人の女性代議士が誕生し、第1号の加藤シヅエさんらの議員立法で48年、人工中絶の違法性を阻却する優生保護法(現・母体保護法)が施行されました。米国で連邦最高裁判決が「中絶は女性のプライバシー権」と認めたのはその25年後です。
優生保護法の秘密
坂本九さんが歌った「幸せなら手をたたこう」の作詞家としても知られる元早稲田大国際バイオエシックス・バイオ法研究所長、木村利人氏は女性の権利を守るという触れ込みだった優生保護法には、日本の人口増加を抑制するという隠された狙いがあったと指摘しています。
「広島、長崎という、人間が、人類が絶対起こしてはならない犯罪的戦略によって日本の人口に対するアタックをした。米国がしたもう一つの実験は、日本に優生保護法をつくったことだ」と。
レイプが多発、経済的に困窮していた戦後の混乱期、優生保護法は女性の味方と称賛されました。
現在の先進国の合計特殊出生率を世界銀行データで見ると、フランス1.9、スウェーデン1.9、デンマーク1.8、英国1.8、米国1.8、ノルウェー1.7、ドイツ1.6、カナダ1.5、日本1.4、イタリア1.3になっています。
第二次大戦の敗戦国である日本やドイツ、イタリアがいずれも少子高齢化に苦しんでいるのは奇妙な一致ではなく、そこに隠された意図があるからではないでしょうか。
保守とリベラルの対立を超えて
今回の問題は米国やローマ・カトリック内部で繰り広げられる人工妊娠中絶に反対する保守と、女性の権利として擁護するリベラルの対立も背景に横たわっているように感じられます。
女性の権利として産む権利を保障し、支援している先進国では出生率が回復しています。移民の社会統合を拒絶している日本が出生率を回復させようと思ったら相当な努力が必要です。
昨年5月には自民党の加藤寛治衆院議員(73)=長崎2区、当選3回=が自派の会合で「結婚披露宴で必ず3人以上の子供を産み育てていただきたいと呼び掛けている」と発言し、撤回に追い込まれる騒ぎがありました。
日本はもはや人口問題をタブー視して避けて通ることはできません。
しかし、これほど複雑で繊細な問題が「お子さんやお孫さんにぜひ、子どもを最低3人くらい産むようにお願いしてもらいたい」と呼びかけただけで片付くと考えているとしたら、自民党は一から考え直す必要があるでしょう。
(おわり)