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業務用1対多の無線システムにも3Gネットワークを活用

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
J-Mobile社長のDaniel Won氏

モバイルネットワークの進展は、タクシー無線などの1対多の無線システムまでも変えてしまいそうだ。韓国のダサン・ネットワークスは、米モトローラ・ソリューションズからライセンスを受け、タクシー無線のような1対多の無線システムを3Gネットワーク状に構築、その端末をユーザーに提供している。このサービスが日本でも始まる。ダサン・ネットワークスは70%出資のJ-Mobile社を今年の4月、東京に設立した。日本でも1対多の無線通信サービスを9月から始める、とJ-Mobileが発表した。

これまで、タクシー無線のような1対多の通信では、無線の免許が必要であり、独自にアンテナを立てなければならなかった。しかも電波の到達距離はせいぜい数十kmしか届かない。タクシーがもし東京から大阪まで走っていくならタクシーの本部では電波は届かない。こういった1対多の無線通信はPTT(Push to Talk)と呼ばれている。

J-Mobileが提供する1対多の無線システムは、NTTドコモの3Gネットワークを利用するため、無線の免許は要らない上にアンテナはもちろん不要、さらに全国どこでも通話できる。しかも、データ通信ももちろんできることからGPSと連動して、本部のパソコンでディスプレイ地図上にタクシーの位置を示すことができる。

タクシードライバーはもちろん携帯電話を今は持っているが、携帯電話はあくまでも1対1の通話やメールを送受信するだけ。1対多となるとこれまでは無線通信を使ったサービスか、MCA無線しかなかった。MCA無線は独自でネットワークを構築しているため、エリアがNTTドコモほど広くカバーできない。

しかもJ-Mobileは、NTTドコモのネットワークから韓国KTのネットワークへとIP(インターネットプロトコル)を通して、つながっており、制御サーバーは韓国に置いている。米国モトローラ・ソリューションズがPTT端末の高度な音声通信制御を行うPTT制御システムiDENとIP接続を行うためのゲートウェイシステムDIG IP-PTTシステムをKT powertelに提供している。つまり、韓国にあるモトローラのPTTシステムを通して、世界に対して新しいサービスができるようになるという。

J-Mobileが今回提供する端末は、従来のタクシー無線で使われていたようなトランシーバタイプに加え、スマートフォンタイプもある。スマホは使いなれていると同時に、ディスプレイにデータを表示できるというメリットを生かすことができる。例えば、タクシーの乗客が置き忘れた物を見つけたら、その写真を撮り、1台のクルマからセンターに送り、センターから全車に送ることで、もし乗客が忘れ物に気がついて、タクシー会社やタクシーに連絡をとるとたちどころに見つけられる。端末がスマホタイプなので、音声だけではなくデータ通信やGPS機能を使うこともできる。

もちろん、こういった1対多の無線は、津波や地震など災害時にも有効だ。このため、災害時を想定した無線通信システムとして、地方自治体へ売り込む。市役所の職員同士が災害時に連絡を取り合い、住民の安否確認に威力を発揮する。1対多無線は、新しい用途をこれから作り出す可能性がある。

(2013/07/07)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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