同性カップルも家族です!同性カップルの国勢調査における誤記扱いについて解説
最近、日本でも同性婚の挙式が新聞や雑誌等で報道されることが増え、今年6月には女性カップルが婚姻届を青森市に提出したことが地元紙の「東奥日報」で大きく取りあげられました。
しかし、2010年(平成22年)に実施された国勢調査の際に「生計を一にする同性カップル」(以下、単に「同性カップル」)が、「ありのままの姿」を回答しても誤記として「修正」され別世帯として集計されるという問題が取り上げられました。また性的マイノリティ(LGBT)の団体である「”共生社会をつくる”セクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク」(共生ネット)からは総務大臣に対して同性カップルも同一世帯として集計するように要望書が提出されています。
この国勢調査の問題点について金沢大学の岩本健良准教授にお話を伺いました。
国会議員が国会で質問
明智 民主党の松浦大悟参院議員(当時)が2010年10月18日の決算委員会において、同性カップルが国勢調査で誤記扱いされていた問題を片山善博総務大臣(当時)に質問をしています。岩本さんはこの国会でのやり取りについてどのような感想をお持ちになりましたか?
岩本 まず、同性カップルの人権の保護は国連をはじめとして、国際的な潮流になっています。日本でも同性婚を認めて欲しいという運動があります。しかし、法律的に認めるかどうかは別にして、すでに多くの同性カップルが一緒に暮らしています。異性カップルの場合はこれまでの国勢調査でも事実婚であっても法的に結婚しているカップルと同じ扱いでした。国勢調査の目的は人々の暮らしの実態をそのまま正確に把握することです。ですので、同性婚を認める、認めないという議論は横に置いて、現実をありのままに捉えることが必要だと思います。その意味で、松浦議員は重要な問題提起をしたと思います。
同性カップルの国勢調査での集計について総務省へ問い合わせ
明智 岩本さんは同性カップルの国勢調査での集計について、国勢調査を担当する総務省統計局への聞き取りを行ったそうですが、具体的にはどのようなやり取りがあったのでしょうか?
岩本 2013年4月に総務省統計局の国勢統計課へ平成22年(2010年)の国勢調査がどのように行われたかを尋ねました。担当者の方は次のような説明をしました。
同性カップルの扱い「世帯主」と「その配偶者」がともに男性、またはともに女性の場合
(1)まず、名前を見て、明らかに誤記入と判断される場合(例:世帯主=男性と記入し男性名で、配偶者=男性と記入だが女性名)は、性別を修正している。(例: 世帯主/男性/○○太郎;その配偶者/男性/☆☆花子→性別を「女性」に)
(2)そうでない場合は、「配偶者」となっている続柄を、(世帯主からみて)「その他」に修正している。
(例:世帯主/女性/○○さくら;その配偶者/女性/☆☆楓→続柄を「その他」に)
したがって、「世帯主」と「その他」からなる世帯として、「B.非親族を含む世帯」に分類される。
次に同性カップルの世帯数を集計したのか尋ねました。担当者の回答は「集計していない」とのことでした。そこで、今から技術的には集計できるか尋ねたところ、上記(1)(2)の手続きで修正したあとのデータしか総務省に残っていないので集計できないという回答でした。
つまり「修正」前の貴重なデータは残念ながら残っていません。
明智 ありがとうございます。まとめると次のようになりますね。前回の調査(2010年)では性的マイノリティ(LGBT)の団体(共生ネット)が総務大臣に対して要望書を提出するとともに、松浦大悟参院議員(当時)からは総務省統計局への問合せと要望がなされ、今後の改善への含みを持たせた回答もありました。
しかし調査後、要望に反して同性カップルの世帯数の集計は行われませんでした。元の調査票は処分され同性カップルの数が集計できる貴重なオリジナルデータは失われました。岩本さんは来年の国勢調査についてどのようにすれば良いとお考えでしょうか?
岩本 その質問に答える前にまず、大学の研究者による調査について紹介したいと思います。日本における大規模な全国的規模の学術調査であるSSM調査、JGSS調査、全国家族調査(NFRJ) では、いずれも配偶者の性別は尋ねていません。同性カップルの場合、対応について調査票に明記はなく、また答えやすさに差はあるものの、そのことを明らかにせずに回答できる形式となっています(分析上も区別できません)。なお「日本社会学会倫理綱領」では性的指向に関しても差別禁止が明記されています。
これに対して国勢調査や「生活と支え合いに関する調査」(社会保障・人口問題研究所)では、世帯内の全員について、性別と世帯主との続柄を記入する形式となっています。このためクロス集計すれば同性カップルの数やその家族構成を明らかにできる貴重な調査データです。LGBT を対等に扱うことは国連人権理事会でも取り組まれるなど、国際的に大きな人権課題となっています。アメリカ国勢調査局(US Census Bureau)は、2010年から同性カップルの数を公表し、2014年には「家族」に分類し発表しました。
データでもマイノリティの「可視化」を
岩本 社会調査は、調査対象者と実施側との共同作業の産物であるといえます。同性カップルにも実状を答えやすく配慮・説明するとともに、社会還元の面でも、学術的視点からもマイノリティを「可視化」した集計も可能な形でデータを長期保存することが必要です。調査対象者が高い調査リテラシーを持つようになった今、調査する側も多様化する家族を「社会的事実」として受け止め、そのデータを社会施策にも生かし、また経済的・歴史的資産ともなるデータを協働して築く懐の深さが求められると思います。
明智 ありがとうございます。今後は国際的な視点をふまえて国勢調査の改善を求めていく必要がありますね。
平成26年(2014年)11月26日には「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」、レインボー金沢を含む6団体が連名で平成27年(2015年)国勢調査に関する総務省統計局長宛の要望書を同省担当者に提出するとともに、改善をお願いしました。
ぜひ要望書の内容を来年の国勢調査に反映していただきたいと思います。
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岩本健良(いわもと・たけよし)
社会学
金沢大学人間科学系/人文学類准教授。1962年兵庫県生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。研究テーマは、機会の不平等、研究倫理やデータベースなど知的情報基盤、等。近年は、教員・公務員等の採用試験適性検査における人権問題にも取り組んでいる。
(この対談は、今年11月に行われた日本社会学会大会の報告要旨をもとに行いました。)
岩本健良 2014.「同性婚カップルを社会調査はどう扱うべきか? ――2010年国勢調査における LGBT 団体等からの「見える化」運動から考える」『第87回 日本社会学会大会報告要旨集』p.245.