【岩手県宮古市】70年の伝統と努力、納得の味を追究し愛され続ける豆腐屋さん
本州最東端の岩手県宮古市には昔は20軒ちかくのお豆腐屋さんがありましたが、今は3軒ほどにまで減少。家庭の食卓や恒例行事の様子が変化してきてもなお、地元の方々に愛され続けているのが小野寺食品です。
小野寺食品
宮古駅から車で5分。宮古市長町にひっそりと佇む工場が小野寺食品です。敷地には小野寺食品店主の小野寺光政さんが日々手入れを欠かさない自慢の植木やお花がお客様を出迎えます。
小野寺食品は木綿豆腐に焼き豆腐といった豆腐製品をはじめ、こんにゃくも主力商品です。また、夏季限定の栄養豆腐はファンも多く、SNSでは「今年の夏は食べそびれてしまった~」と惜しむ声も見受けられます。
豆腐屋の一日
豆腐屋の朝はとにかく早いです。午前3時から工場は稼働します。小野寺食品は家族3人ですべての業務を行っており、豆腐が大体朝の5時半頃完成した後も、午前は配達やパッキング、作業の状況により午後もお客様の対応や作業が続く日もあります。そして翌日の豆腐を作る分の大豆を浸水するなど、長い一日となります。
ふと疑問に思い、店主の妻・玲子さんに「なぜ、朝早くから豆腐を製造しなければならないのですか?ゆっくり午前中から始めてもいいのではないでしょうか?」と聞いてみたところ、玲子さんは「豆腐はその日に売り切るものという慣習があります。昔はパック包装などしておらず、流水に浸して保管し売っていたので、その名残で今でも早起きをして豆腐作りをしています」と教えてくださいました。実際、地元の業者は朝6時の早い時間から小野寺食品の商品をお店まで仕入れに来ています。
豆腐の製造
小野寺さん一家のお豆腐作りは、前日から浸漬していた大豆を朝一番に磨砕していき始まります。磨砕して形が崩れどろどろになったものは釜で煮て栄養成分を最大に溶出し、その後豆乳とおからに絞ってろ過し分離します。ちなみに、小野寺食品のおからは他のお豆腐屋さんのものに比べてさらさらしており、煮物にしたときに味が染みると評判です。
その後、豆乳ににがりを入れてかき混ぜていきます。小野寺食品では木綿豆腐を製造することが多いので、この時にかき混ぜ具合で美味しい木綿豆腐になるように調整を施していきます。
そうしたら、豆乳ににがりを加えたものを豆腐の型に入れて成型します。小野寺食品では一回で35個分の豆腐が製造できる型を使用しています。この工程は、にがりの量によって凝固時間が左右されますが、大体15分から20分で固まったものは、商品のお豆腐の35個分が一枚の大きな豆腐になったものです。それを板に載せて、水を溜めた大きなシンク中で水に晒しながらカットしていきます。この切り分ける作業を担当している長女の美賀子さんは「水に浮かべての作業になるので浮力との付き合い方に最初苦労しました。見ているよりもずっと難しくコツがいる作業です。」と教えてくださいました。
豆腐のカットが終われば、その豆腐を水の中で冷ましている間、片づけをして朝食をとる束の間の休憩時間です。十分に熱が取れた豆腐はその後パッキングされ、商品の完成です。
お豆腐屋さんの想いと課題
約70年の歴史をもつ小野寺食品。この70年の中で、食文化や原材料額の変化や近年ではコロナ禍によって需要の変化が生まれ町の豆腐屋さんにもその影響が見られました。
玲子さんは、宮古市のお豆腐屋さんの規模縮小に関して、大手メーカーの製品は種類も豊富で、かつ安く手に入るようになったことも原因のひとつであるが、昔からの慣行が変化してきていることにもあると感じています。宮古市では古くからお正月やお盆、お祭りの際お赤飯とお煮しめを食卓に並べるのが一般的でした。お煮しめというのは野菜やすり身製品を煮込んだもので、以前は宮古で行事の時に食べることができるいわゆるごちそうでした。そのお煮しめの中に必ず豆腐が使われています。しかし、洋食も流行ってきた近年では、子どもたちがお煮しめを好まないことやコロナ禍で帰省してくることが困難だった時期もあり、各家庭でお煮しめを食べる機会が減ってきています。そういった和食の機会の減少が町の豆腐屋さんで豆腐を購入する頻度の減少にも繋がっているそうです。
また、光政さんは、以前は外国産の大豆をメインにブレンドしていたが、ここ数年は国産の大豆をメインにするように切り替え、納得のいく味と品質をかなえる豆腐作りを心掛けている一方で、やはり原材料費はじめ光熱費など全体的な費用負担が大変だと教えてくださいました。しかし、機械や人の数に頼ることができる大手に対して、自分たちは手作業で人手も少なく、また高齢になってきて大変なことは多いが、それだからこそ全部自分の責任として毎日真剣に向き合うことができていると、光政さんの優しい口調の中に芯の強さを覚えました。
様々な背景があり、課題の多い町の豆腐屋事情ですが、地元から長年愛されているその味は、昨年から宮古市内の学校給食でも取り扱われるようになり、より子どものころから親しみ深い味となっております。まさに地元の子どもたちの元気な学校生活を支える味です。小野寺食品のご家族は「美味しいと言ってもらえることが励みになります。お客さんに喜んでもらえることが一番うれしいです」と温かい笑顔でおっしゃっていました。 そんな素敵なご家族が愛情を込めてつくっているお豆腐、ぜひ一度試してみませんか?
小野寺食品の商品の取り扱い店舗
小野寺食品で購入も可能です。出来立てのお豆腐はぜひ小野寺食品に直接ご注文を。
他にも宮古市内の販売店舗は、岩手生協マリンコープDORA・ベルフ西町店・西が丘店、JOIS千徳店、マルイチ宮古店、玉木屋、はこいしショップ、平井商店(宮古市魚菜市場内)等です。
【店舗情報】
名称:小野寺食品
住所:岩手県宮古市長町1-1-8
アクセス: JR・三陸鉄道「宮古駅」から車で5分
営業日:通年営業(1月1~3日、その他定休日あり)
公式SNS:「小野寺食品 Instagram」