アトピー性皮膚炎患者必見:デュピルマブ関連結膜炎と新たな治療選択肢
【デュピルマブ関連結膜炎:臨床試験と実生活での発症率の違い】
アトピー性皮膚炎の治療薬として知られるデュピルマブ。この薬剤による結膜炎の発症が、臨床試験で報告されているよりも実生活では多いことが分かりました。フランスで行われた最新の研究結果をもとに、デュピルマブ関連結膜炎の実態と対処法についてご紹介します。
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な炎症性皮膚疾患です。日本でも患者数が増加傾向にあり、重症例では日常生活に大きな支障をきたすこともあります。デュピルマブは、そうした重症のアトピー性皮膚炎患者さんに対して効果的な治療薬として注目されてきました。
しかし、どんな薬にも副作用はつきもの。デュピルマブの場合、結膜炎という目の炎症が問題となることがあります。今回の研究では、この副作用の実態に迫っています。
【実生活での結膜炎発症率:臨床試験を上回る結果に】
フランスの12の医療機関が参加したRESO-ADOC研究によると、デュピルマブを使用したアトピー性皮膚炎患者の7.5%が薬剤誘発性眼表面疾患(mOSD)を発症しました。このうち30%が重症であり、デュピルマブの使用中止につながりました。
これらの数字は、臨床試験で報告された結果よりも明らかに高いものです。臨床試験では結膜炎の発症率が低く報告されていましたが、実際の医療現場ではより頻繁に発生していることが明らかになりました。
デュピルマブ開始から結膜炎発症までの平均期間は4.5ヶ月でした。この期間は臨床試験の結果と一致していますが、発症率の違いは注目に値します。
【新たな治療選択肢:JAK阻害薬とトラロキヌマブの効果】
研究では、デュピルマブによる結膜炎のために治療を中止した患者さんに対して、新たな治療法の効果も調査されました。その結果、JAK阻害薬(アブロシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ)やトラロキヌマブへの切り替えが、結膜炎の改善に効果的であることが分かりました。
特にJAK阻害薬への切り替えは顕著な効果を示し、3〜6ヶ月後の時点で81%の患者さんで結膜炎が完全に改善。最終診察時には96%にまで改善率が上昇しました。これは、追加の眼科治療を必要とせずに達成された結果です。
一方、トラロキヌマブへの切り替えでは、3〜6ヶ月後の時点で12%、最終診察時で45%の患者さんに完全な改善が見られました。
JAK阻害薬への切り替えが高い改善率を示したことは特筆すべきで、今後の治療戦略に大きな影響を与える可能性があります。
【日本の患者さんへの示唆:慎重な経過観察と適切な対応の重要性】
この研究はフランスで行われたものですが、日本の患者さんにも重要な示唆を与えています。
日本の医療現場でも、デュピルマブ使用患者さんの目の状態を慎重に観察し、結膜炎などの症状が現れた場合は速やかに対応することが重要です。また、重症の結膜炎が発生した場合は、JAK阻害薬やトラロキヌマブなどの代替治療への切り替えを検討する価値があるでしょう。
ただし、この研究にはいくつかの限界があることも忘れてはいけません。サンプルサイズが小さいこと、後ろ向き研究であることなどが挙げられます。また、日本人患者さんでの効果や安全性については、さらなる研究が必要です。
アトピー性皮膚炎の治療は、個々の患者さんの状態に応じて慎重に選択される必要があります。デュピルマブは多くの患者さんに効果を示す一方で、結膜炎のリスクにも注意が必要です。定期的な眼科検診と、皮膚科医との綿密なコミュニケーションが、安全で効果的な治療につながります。
最新の研究結果を踏まえ、日本でもデュピルマブ使用時の結膜炎リスクに対する認識を高め、適切な対応策を講じていくことが求められます。アトピー性皮膚炎に悩む患者さんにとって、より安全で効果的な治療選択肢が増えることを期待しています。
参考文献:
Reguiai Z, Becherel PA, Perrot JL, et al; GEM reso-Dermatologie and OMCCI Group. Evolution of dupilumab-associated conjunctivitis in patients with atopic dermatitis after switching dupilumab to tralokinumab or Janus kinase inhibitors (RESO-ADOC study). J Eur Acad Dermatol Venereol. Published online July 17, 2024. doi:10.1111/jdv.20233