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親の喫煙がアトピー性皮膚炎に与える影響について、18年間の追跡調査で判明

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

近年、喫煙が健康に与える悪影響が広く知られるようになり、受動喫煙の防止に向けた取り組みが世界中で進められています。日本でも2020年4月から改正健康増進法が全面施行され、多くの施設で原則屋内禁煙になりました。喫煙は、がんや循環器疾患、呼吸器疾患など様々な病気のリスクを高めることが明らかになっていますが、皮膚の病気との関連については、まだ十分な研究がなされていないのが現状です。

そんな中、イギリスの研究チームが、喫煙とアトピー性皮膚炎の関係について大規模な調査を行い、興味深い結果を発表しました。今回は、その研究の概要をご紹介しながら、喫煙が皮膚の健康に与える影響について考えていきたいと思います。

【子供の頃の受動喫煙は、アトピー性皮膚炎のリスクを高めるのか?】

今回の研究は、1991年から1992年にかけてイギリスで生まれた1万4000人以上の子供を対象に、約18年間にわたって追跡調査を行ったものです。研究チームは、子供の頃の受動喫煙と、思春期の能動喫煙が、アトピー性皮膚炎の発症や重症度にどのような影響を与えるのかを調べました。

その結果、子供の頃に親の喫煙によって受動喫煙をしていた子供は、喫煙をしていない子供と比べて、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが高くなるという関連性は見られませんでした。一方、思春期に自ら喫煙を始めた子供については、喫煙量が多いほどアトピー性皮膚炎の発症リスクが低くなるという、一見逆説的な結果が得られました。

しかし研究者たちは、交絡因子を調整して解析し直したところ、これらの関連性はいずれも統計学的に有意ではなくなったと報告しています。つまり、子供の頃の受動喫煙も、思春期の喫煙も、アトピー性皮膚炎の発症リスクを高めるわけではないことが示唆されたのです。

【喫煙とアトピー性皮膚炎の関係は、なぜ明らかでないのか?】

喫煙が皮膚に悪影響を与えることは間違いありませんが、アトピー性皮膚炎との関連については、まだ研究結果が一致していないのが実情です。その理由としては、アトピー性皮膚炎が遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合って発症する疾患であること、社会経済的な状況など交絡因子の影響を完全に排除することが難しいことなどが考えられます。

喫煙は免疫系に作用することが知られており、アレルギー反応に関与するT細胞の働きを変化させる可能性が指摘されています。また、喫煙によって皮膚のバリア機能が低下し、刺激物質が侵入しやすくなることで、湿疹などの皮膚トラブルを引き起こす恐れもあります。しかし、これらのメカニズムがアトピー性皮膚炎の発症にどの程度関与しているのかは、さらなる研究が必要な状況です。

【喫煙が皮膚に与える影響と、注意すべきポイント】

喫煙が皮膚の老化を早めることはよく知られており、シワやたるみ、くすみなどの原因になります。喫煙者は非喫煙者と比べて、肌のコラーゲンの破壊が進んでいることが明らかになっています。また、喫煙によって血管が収縮し、皮膚への血流が減少することで、肌の新陳代謝が低下することも指摘されています。

さらに、最近の研究では、喫煙が皮膚がんのリスクを高める可能性も示唆されています。紫外線による皮膚へのダメージに加えて、喫煙による皮膚の老化やストレスが、がん化を促進するのではないかと考えられています。

喫煙が健康に悪いことは言うまでもありませんが、受動喫煙の影響も無視できません。特に、子供は大人より影響を受けやすいため、親をはじめ周囲の大人が配慮することが大切です。また、妊娠中の喫煙は、胎児の成長に悪影響を与える恐れがあります。

禁煙は簡単ではありませんが、自分自身と大切な人の健康を守るためにも、できるだけ早い段階でチャレンジすることをおすすめします。禁煙外来などの専門的な支援を受けることで、成功率を高められる可能性があります。皮膚の健康を保つためには、バランスの取れた食事や適度な運動、ストレス管理なども重要ですが、喫煙をコントロールすることは、健康な肌を手に入れるための第一歩と言えるでしょう。

【参考文献】

Al-Alusi NA, Ramirez FD, Chan LN, Ye M, Langan SM, McCulloch C, Abuabara K. Atopic dermatitis and tobacco smoke exposure during childhood and adolescence. J Allergy Clin Immunol Glob. 2025 Feb;4(1). doi: 10.1016/j.jacig.2024.100345.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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