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中国「反スパイ法」の具体的スパイ行動とは?――日本人心得メモ

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

2014年11月1日に制定された「反スパイ法」が規定しているスパイ行動は具体的にどのような行動を指しているのか?中国に行く日本人のためにも、「日本人心得メモ」の一部を、イロハからおさらいしておきたい。

◆何をしたらスパイとして捕まるのか?

反スパイ法には最後に「第五章 附則」として第三十九条に「本法が言うところのスパイ行為とは、以下のような行為を指す」と、5項目にわたって書いてある。

(一)スパイ組織およびその代理人が実施するか、あるいは他人に頼んでお金(スパイ活動資金)を渡して実施するか、あるいは国内外の機構・組織・個人らと結託して、中華人民共和国の国家安全に危害を与えるような行動をすること。

(二)スパイ組織に参加するか、あるいはスパイ組織やその代理人から依頼を受けてスパイ行動を行うこと。

(三)スパイ組織およびその代理人以外のその他の(中国の)海外の機構・組織・個人が実施するか、あるいはお金(スパイ活動資金)をもらってスパイ活動を実施したり、またそれら海外の機構・組織・個人と、(中国)国内の機構・組織・個人が結託して情報を窃取、偵察、買収もしくは訃報に提供する活動をおこなうこと。あるいは中国の国家で働いている人(公務員)を扇動、誘惑、買収して国家を裏切るようそそのかす活動をおこなうこと。

(四)敵に、中国の攻撃目標を教えること。

(五)その他のスパイ活動をおこなうこと。

以上の5項目がある。

実は2014年8月に提出された「反スパイ法」の草案の中では、この第三十八条はなかった。途中から多くの意見を求める過程で、これらの5項目が付け加わったのだ。

◆この5項目のどれに、引っかかる可能性があるか?

日本人として注意すべきは、(一)~(三)における「スパイ活動」の中で、「他人から頼まれたとき」である。いったい自分がやろうとしていることが何なのかは分からずに、「悪いけど、あの景色を撮ってきて」とか言われて、観光で写真を撮影してあげたり、「悪いけど、○○さんに、これを渡して」とか言われて、商談の際に会う地元のお偉いさんに物を渡したりした場合など、もしかしたら巧妙に仕組まれたスパイ行為を自分が補助していることにつながるかもしれない。

特に珍しい、きれいな景色だと思って、うっかり撮影したものが、実は撮影禁止地区にある光景だったりする場合も要注意だ。どこに「撮影禁止」の印があるのか分からない場合が多い。

最後の(五)は致命的だ。

当局が、「これはスパイ行為だ」と判断すれば、規定に書かれていなくても、スパイ行為の容疑者として逮捕される可能性がある。

逮捕の範囲を最も広くしている項目である。

◆密告制度の奨励――毛沢東時代への回帰

反スパイ法には密告者を奨励する項目があり、密告者には賞金を与える場合もある。

何でもない日常の「友人」とか、ビジネス・パートナーなどと気楽に「実はね…」などと脇の甘い話をしたりしていると、「奨励」ほしさに「密告」されないとも限らない。容疑は何でも良いのだ。

拘束した人数で、当局のスタッフの点数が上がる場合もある。

中国に行く人は、この「反スパイ法」があることを頭に入れて行動することが望ましい。

(いつもかなり難しい問題を盛りだくさん書く傾向にあるので、今回は反スパイ法に対する「日本人心得」の一部だけに絞った。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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