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エアコンをつけたまま寝ると朝だるい理由 熱帯夜対策を再考する

西多昌規早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医
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エアコンをつけたままにしたがらない理由

夜間も気温が25℃を下回らない「熱帯夜」の季節がやってきた。2007年夏に東京23区実施されたアンケート調査では、25℃を下回らない熱帯夜条件になると睡眠障害の人が増加し、特に暑さの厳しい都心・内陸部では、30%近くにも上った(1)。省エネルギー意識が高まっているとは言え、エアコンの冷房なしに夏の夜を過ごすことは考えにくくなっている。

一昔前ならば、エアコンは寝つくときだけつけておき、寝ついたところの時間でオフになるようにタイマーをセットしておくのが、一般的だった。しかし昨今のこの暑さでは、エアコンが切れれば、暑さのあまりたまらず目覚めてしまう人も多いだろう。寒くなりすぎないようにやや高めの温度に設定して、一晩中エアコンをつけておくというアドバイスが、最近では主流である。

ただこのように助言すると、

「エアコンつけっぱなしで寝ると、次の朝だるいんですよね」

と返されることがある。

特に外来診察での患者に対する睡眠衛生指導では、患者からのこの質問に科学的な根拠を持って答えることができず、「冷えすぎなんでしょうね」と経験則で対処していた。ただ、このようにエアコンをつけっぱなしで寝て、翌朝からだがだるいという経験をしたひとは多いだろうし、ちゃんとした理由を知りたい人も多いはずだ。電気代よりもこのなんともいえない倦怠感が、一晩中エアコンをつけることに二の足を踏ませているように思える。特に、女性・高齢者に、エアコンを一晩中つけて寝ることに難色を示す人が多い。高齢者でエアコンを無理に辛抱してしまうと、脱水・熱中症のリスクが上がる。エアコンつけっぱなし問題については、きとんとした検証が必要だと考えた。

なぜ、エアコンをつけっぱなしで寝ると、次の朝からだがだるいのだろうか。その前に、高温多湿なところでは睡眠がどうなるかをまとめておく。

最初のコア睡眠期は、エアコンを確実につけておく

人間にとって重要な深いノンレム睡眠(徐波睡眠)は、睡眠前半に主に出現する。徐波睡眠期は、脳やからだの休息にとって大切であり、成長ホルモンも分泌もさかんである。高温多湿では睡眠の質は悪化することは実証されており、この重要な睡眠前半にエアコンをオンにして適温・適湿度に保つことは大切だ。高温多湿環境での睡眠実験によると、睡眠の前半にエアコンをつけておかないと徐波睡眠(深いノンレム睡眠)もレム睡眠も減少し、本来深い睡眠が少ないはずの睡眠後半にズレて出現し、起床しづらくなる可能性があるという (2)。

人間は、深部の熱がからだの表面に放散されて、深部体温が下がったときにスムーズに入眠できる。ムシムシの高温多湿な寝室では、深部の熱が放熱できず、湿度のため汗による揮発もない。深部体温は下がりようがなく、睡眠が悪化するのは当然である。ちなみに暑い夜に「氷枕」がすすめられるのは、頸部を通る頸動脈を冷やされることにより、放熱が促進され深部体温が下がるためと考えられる。

寝付きはエアコンをつけるとして、問題は朝までつけておくか、それとも途中でオフにするか、である。

朝だるいのは「冷えすぎ」

エアコンをつけたまま眠った後のだるさについては、意外なことにエビデンスが少ない。睡眠科学の教科書「睡眠学」(朝倉書店)や論文を調べても、冬のような寒い条件での研究は多いが、夏のエアコンによる冷気で翌朝だるくなるメカニズムを実証した研究はない。

睡眠のメカニズムから考えていくしかないが、以下のようなメカニズムが考えられる。睡眠中は、深部の体温が放熱する傾向にあるため、体温が冷えやすくなる。睡眠中に汗をかいていれば、汗の蒸発によりますます体温が奪われる。起きていればタンスから上着を探すのであろうが、睡眠中は行動も制限されている。薄着のままいやおうなしに冷気に晒され体温が下がってしまうことが、だるさの要因として考えられる。

また夜明け頃は、深部体温はもっとも低下し、皮膚の体表温度は深部からの熱の発散で上昇している。朝の覚醒は、深部体温と体表温度の差が小さいほど、スッキリと起きることができる。朝方にあまりに涼しいと、体表温度が下がってしまい、覚醒度も低下する。これも、だるさの一因である可能性がある。

深部体温とは体表温度の経時変化
深部体温とは体表温度の経時変化

ほかにも睡眠中に冷気にさらされると、心拍数変動が大きくなるなど、自律神経系の異常が見られるという知見もある。要は、睡眠中、特に目覚める前の明け方に冷えすぎてしまうのが、朝のだるさの原因と考えられる。

扇風機は睡眠を悪くする

熱帯夜の快眠対策では、扇風機についてもさまざまな情報が出回っている。扇風機からの送風をずっとうけたまま寝ていると死んでしまったという都市伝説があるが、そのような症例報告は文献検索しても見つからない。また、壁などを介して間接的に風を受ければいい、首振り機能を使って間欠的に風をうければいい、エアコンの冷気を還流させるだけも効果的など、さまざまな方法がネット上の快眠対策ではたくさん載っている。

これらの方法も、実証的なエビデンスは乏しい。これはわたしの考えだが、暑いなか覚醒しているときに風を感じれば快適だが、睡眠中に強い風をずっと浴びていては、皮膚体温が奪われてしまい、身体への負担は大きいと考えられる。間歇的に風をうけたとしても、余計な皮膚への冷感刺激となり、睡眠が妨げられてしまうのではないだろうか。

わたしだけの考えかと思っていたが、今年に入って風速 0.14m/s(一般的なエアコンの風速) のエアコンで、体動や心拍数の上昇、覚醒頻度が多く、結果的に睡眠の質が悪くなったという論文が発表された (3)。非常に微弱な風ならばまだしも、エアコンのわずかな送風が影響するのだから、扇風機が良いとは思えないのだが。

朝冷えすぎない対策を

タイマーをつけるならば、寝付きだけのわずかな時間だけでなく、冷房時間を十分にとることをおすすめする。せめてノンレム・レム睡眠が1〜2サイクル含まれる、いわゆる“コア睡眠”分、時間で言えば3時間程度はほしいところだ。

エアコンはオンにすると速やかに温度が下がるが、オフにすると壁や家具からの輻射熱によって、再び温度が上がるのも早い。エアコンはオフになると、たちまち暑くなってしまうのだ。タイマーが切れて中途半端な時間に汗だくで起きてしまい、エアコンをまたつけて寝るということを繰り返していると、心拍変動も大きくなる。また汗がエアコン冷やされ蒸発し体温が奪われるなど身体への負担が増え、朝のだるさの原因となってしまう。電気料金もオン・オフの繰り返しでは上がってしまうだろう。それならば、やや高めの温度、26〜28℃程度で一晩中つけていた方がよい。

それでも朝だるいならば、朝の冷えすぎが考えられる。女性や高齢者は、特に冷えを感じやすい。自分に合うように、カスタマイズする必要がある。

・エアコンの設定温度を0.5〜1℃上げてみる

・送風の強さを下げる

・除湿モードを使う

・夜中3、4時頃にタイマーを設定する。それでもだるいならば、タイマーが切れる時間を30分〜1時間早めてみる。

・吸湿性に優れた、長袖・長ズボンの寝着を使う

(半袖、パンツでは、体表が冷えてしまう)

こういった寝室環境の実験は、どうしても健康な若者に限られてしまうので、子どもや高齢者にとってはたしてどういう環境設定がベストなのかは、未解明だ。インターネットで出回っている快眠情報と比較して、自分に合った方法を工夫していただければと思う。

1. 大橋唯太ほか:東京23 区を対象とした夏季の睡眠障害と夜間の屋外熱環境の関係について. 環境情報科学 学術研究論文集. 2014; 28:367-372.

2.  Okamoto-Mizuno K et al. : Effects of partial humid heat exposure during different segments of sleep on human sleep stages and body temperature. Physiol Behav. 2005; 83:759-765.

3. Morito, N. et al. : Effects of two kinds of air conditioner airflow on human sleep and thermoregulation. Energy and Buildings.2017;138:490-498.

早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

早稲田大学スポーツ科学学術院・教授 早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会総合専門医など。専門は睡眠、アスリートのメンタルケア、睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に、「休む技術2」(大和書房)、「眠っている間に人の体で何が起こっているのか」(草思社)など。

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精神科医の西多昌規(にしだ まさき)です。メディアなどで話題となっている、あるいは世間の関心を集めている事件や出来事を、精神医学やメンタルヘルスから読み解き、独自の視点をもとに考察していきます。医療・健康問題だけでなく、政治経済や社会文化、芸能スポーツなども、取り上げていきます。*個人的な診察希望や医療相談は、受け付けておりません。

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