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10年間のNBAコーチ経験を有する三河新HCが感じるBリーグの違いとそれに挑もうとする飽くなき向上心

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンからシーホース三河の指揮をとるライアン・リッチマン新HC(筆者撮影)

【世界最高峰のNBAと他リーグにある明確な違い】

 少しでもバスケの知識を有している人たちであるならば、世界最高峰リーグについて尋ねられNBAと答えない人は誰もいないだろう。それほどNBAは世界バスケ界の中で圧倒的な存在といえる。

 だがその一方で、過去にNBAに在籍経験のある選手たちが格下の他リーグに移籍して圧倒的な活躍ができるかといえば、そんな単純な話ではない。

 実際2016年にBリーグが誕生して以来、数々の外国籍選手が日本にやって来ているが、NBA在籍経験選手と未経験選手の間でその活躍ぶりに明確な差があるとは思えない。

 「郷に入っては郷に従え」ではないが、NBA在籍経験選手といえども在籍するリーグに合わせて適応していかねばならないということを意味している。それは選手に限ったことではなく、コーチも同様だろう。

【10年間のNBAコーチ歴を経て国外リーグ初挑戦の三河新HC】

 昨シーズンまで28年間にわたりシーホース三河(旧アイシン時代を含む)を率いてきた鈴木貴美一前HCの退任に伴い、新たに迎えられたのが、2013年にビデオコーディネーターとしてワシントン・ウィザーズのコーチ陣に加わり、以来10シーズンにわたりコーチを務めてきたライアン・リッチマン新HCだ。

 彼はビデオコーディネーターの後、ACとして育成担当、戦術・分析担当を歴任。2019-20シーズンには傘下のGリーグでHCを務め、2020-21シーズンからウィザーズACに復帰し、HCが指揮を執れない際はHC代行を務めるなど、NBAの世界で着実にコーチングキャリアを積み上げてきた人物だ。

 代表HCも務め長年日本バスケを牽引してきた鈴木前HCが築き上げた伝統・文化を引き継ぐのは決して簡単なことではないと思うが、リッチマンHCの指揮下で三河に新しい風を吹き込ませてくれるのではないかと、周囲の期待も高まっていることだろう。

【1試合1試合を戦いながら適応している途上】

 だがNBA在籍経験選手と同様に、NBAでコーチとして数々の知識を得てきたとしても、それがBリーグで即座に通用するとは限らない。実際シーズン開幕直後の2節で島根、川崎と戦い、1勝3敗と苦しいスタートを切っている。

 リッチマンHC自身も「学んでいる最中だ」と話しているように、現在はBリーグに適応しようとしている途上にあるわけだ。そして1戦1戦を戦い選手と一緒に確認をとりながら、日々チームとして成長しようとしている。

 「リーグ屈指の強豪チームの島根、川崎と対戦し、チームとしていい部分もあったし、今後は自滅するような展開を改善しようと話し合った。

 例えば川崎戦(第2戦)では41本のフリースローを許してしまった。これでは勝つことが難しくなる。リバウンドやターンオーバーは自分たちでコントロールできる部分だ。その点にフォーカスして練習、フィルムセッションを行った」

 本拠地ウィングアリーナ刈谷に北海道を迎えて行われた第3節では、第1戦を84対65、第2戦も78対56と快勝で連勝に成功。この結果を見ても、チームは少しずつリッチマンHCが目指す方向に向かっているようだ。

【リッチマンHCが感じているNBAとBリーグの違い】

 そんなリッチマンHCに北海道との第1戦終了後、現時点でNBAとBリーグにどんな違いを感じているのかを尋ねてみた。

 「まだ学んでいる最中だが、まず頭に浮かぶのはスケジュールだと思う。十分な練習時間の後、同じチームと2日連続で試合を戦わなければならない。

 自分はGリーグでHCを務め多少慣れているが(Gリーグでも度々同じチームと連戦するケースがある。だが連戦の場合でも1日オフを挟む)、NBAは基本的に連戦することはない。

 それとルールにも多少の違いがある。タイムアウトのとり方や(第4クォーター残り2分での)ボールのインバウンドの仕方が違っている。フィジカルな部分も違う。NBAではBリーグのように選手のハンドチェックをほとんど認めていない」

【リッチマンHC「自分が学び、成長できる楽しい部分」】

 以上のように相違点をいくつか指摘してくれた後、最後はコーチとして試合スタイルの違い、戦術面の違いについても言及してくれた。

 「試合のスタイルもかなり違う。

 NBAではほとんどのチームが(ディフェンスで)マン・トゥ・マンを使う。またBリーグのようにフルコートで相手チームにプレッシャーをかけることはないし、パスをディナイするようなプレーもほとんどしない。フィジカルを最大限に活用してプレッシャーをかけ、相手のリズムを崩そうとする。

 こうしたスタイルの違いこそ、自分がコーチとして学び、成長できる楽しい部分だと感じている」

 リッチマンHCの言葉から理解できるように、彼はNBAとBリーグの違いに戸惑っているのではなく、その違いをチャレンジと捉えコーチとして更なる成長、高見を目指しているのだ。

 今後試合を重ねていきながらリッチマンHCと三河はどのように変貌していくのか、かなり気になるところだ。まだ弱冠34歳の飽くなき向上心に期待したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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