もう一人のブラインド・スイマーが世界デビュー!富田宇宙「肌で感じた、パラリンピックに挑戦する魅力」
「実力が世界で戦えるレベルにあることは嬉しいが、日本チームは世界で苦戦している。世界が強いこと、日進月歩で伸びていることを肌で感じた。もう一度、あと一年で、できることを考えてやっていかなくてはと思います。金メダルを逃したことは悔しいけど、(オランダの)ロジャー選手の28秒台は今はまだ僕には出せないタイム。競泳者としてのテクニックを見習いたい」
9月15日、ロンドンで7日間に渡って行われたパラ水泳世界選手権が閉幕した。この大会で富田宇宙(日体大大学院)はメインとする男子100mバタフライS11と男子400m自由形S11で銀メダルを獲得した。最終日の400m自由形のレース後に感想を述べた上で、このレースでの状況について詳しく話してくれた。
見えない競泳の難しさと世界への挑戦の魅力を感じた!
「周りとの駆け引きが目的ではないが、レース中、となりの(4レーンにいた中国の)ドンドン選手と接触し、後半はお互いに感じながら泳いでいたんです。ラストは必ず追い抜ける自信があった。僕の中では彼が一番速く泳ぐと思っていたので、ぴったりついていき引き離す作戦で、最後に振り切ったんですけれども、実は奥側(5レーン)にいたオランダのロジャー選手が速かったということです。これがブラインドスイムの難しいところです。ドンドン選手も新しい選手、ロジャー選手も若いしこれから戦う相手だと思います」
ずっと取り組んできた400m自由形での世界デビュー
富田は、S13(弱視)の頃はアジア記録を持ちながらも世界で戦うチャンスはなかった。徐々に見えなくなるなかで日常生活への影響は免れないが2017年、S11(全盲)に分けられたことでパラスイマーとして大きなチャンスを得た。北京・ロンドン・リオとパラリンピック3大会出場で6つのメダルを勝ち取ってきた日本のエース・木村敬一(東京ガス)とともに世界への挑戦ができるようになった。その後、前回2017年メキシコ大会は開催地での大地震により世界選手権の開催期間が延期され日本代表は出場しなかったため2年遅れての世界デビューとなった。
「世界の現場で肌で感じたものは、ホントに、全く違いますね。日本の大会はもちろん、他の国際大会とも違って、パラリンピック前年の世界選手権、(おそらく)パラリンピックというのは世界の選手がそろう試合。ここが本当の意味でトップ選手が全員肩をならべていっしょに戦う場面。みんなこのために練習してきたんだということを肌で感じた。鈴木(孝幸)選手や木村選手が海外で練習している理由を強く感じたし、世界の環境、選手がパラ水泳に取り組む姿勢の雰囲気が日本の選手たちと全然違う。今回学びとり、世界の雰囲気を自分たちが持ち帰って、ジャパンパラで、日本全体で危機感を持ってやっていかなければならない」とレース後の富田は語っていた。
ーーあと1年の練習環境は?
「現在JISSの拡充棟の1レーンを使わせてもらっています。人がいっぱいいるとレーンの中で右へ行ったり左へ行ったりできないので、練習は一人でレーンを使いたい。現在はNTCのプールのレーンを自分の練習の時間で使用させてもらっているので、この上ない環境です。有効に活用していきたい」
帰国後すぐ、日本最高峰のジャパンパラ水泳競技大会が横浜国際プールで開催される。全力で世界を戦ったあとの疲労の中でのレースとなるが、その疲れも含めて「世界選手権での雰囲気を持ち帰って、危機感を持ってあと1年考えていく必要がある」と、富田は話していた。ジャパンパラリンピックは誰でも無料で観戦できる。ぜひ東京20201年前の富田らの泳ぎを観に行ってはいかがだろうか。
<富田宇宙のLondon2019 結果>
9月9日・大会1日目
男子50m自由形S11予選 28秒80 10位
(決勝進出しなかった)
9月12日・大会4日目
男子200m個人メドレーS11 予選 2分29秒33 2位
男子200m個人メドレーS11 決勝 2分30秒17 4位
9月14日・大会6日目
男子100mバタフライS11 予選 1分2秒80 1位
男子100mバタフライS11 決勝 1分3秒64 2位 銀メダル
ミックス4×100m 自由形S11-13(49pt)
予選1泳 富田宇宙:(1分01秒90)1分01秒90 /4分19秒44 7位
決勝1泳 富田宇宙:(1分00秒79)1分00秒79/4分16秒90 7位
9月15日・大会7日目
男子400m自由形S11 予選 4分43秒82 3位
男子400m自由形S11 決勝 4分32秒90 2位 銀メダル
<参考>
・大会公式サイト(IPCスイミングLondon2019)
https://www.paralympic.org/london-2019
・日々のデイレポート(PARAPHOTO)
(取材・写真協力:パラフォト東京2020取材班)