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「平成30年7月豪雨」の反動で上昇するが…2018年8月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが。(ペイレスイメージズ/アフロ)

・現状判断DI(※)は前回月比プラス2.1ポイントの48.7。

・先行き判断DIは前回月比でプラス2.4ポイントの51.4。

・「平成30年7月豪雨」の影響を受けた前回月の反動が生じている。猛暑で季節物もよく売れているが、人手不足は深刻。

現状は上昇、先行きも上昇

内閣府は2018年9月10日付で2018年8月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、人手不足、コストの上昇などに対する懸念もある一方、秋物商戦や受注増等への期待がみられる」と示された。

2018年8月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス2.1ポイントの48.7。

 →原数値(季節調整が行われていない素の値)では「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「よくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは48.1。

 →詳細項目は「住宅関連」「雇用関連」以外が上昇。「サービス関連」のプラス5.9ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「製造業」「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは前回月比でプラス2.4ポイントの51.4。

 →原数値では「ややよくなる」「変わらない」が増加、「よくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは50.4。

 →詳細項目では「飲食関連」以外が上昇。「小売関連」のプラス3.2ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「飲食関連」以外すべて。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減速への懸念も、消費動向に影響を与えてきそう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からはおおよそ回復している。昨今ではやや低迷、ぬるま湯的な軟調さと表現できる動きにあるのが気になるところ。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年8月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年8月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは総計で前回月から2.1ポイントのプラス、詳細項目では「住宅関連」「雇用関連」以外で上昇。もっとも大きな下げ幅は「雇用関連」が計上した0.8ポイント、もっとも大きな上げ幅は「サービス関連」による5.9ポイント。「サービス関連」の上げは「平成30年7月豪雨」により大きく下落した前回月の反動によるところが大きい。

景気の先行き判断DIは「飲食関連」のみが下げ。上げ幅は「小売関連」の3.2ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年8月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年8月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目は「飲食関連」以外すべて。

「平成30年7月豪雨」の被害も落ち着き、猛暑も消費を後押し

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・暑い日が続いたせいか、ドリンクやデザートがよく動いた。その分、例月よりも単価が上がっている(一般レストラン)。

・8月はイベントがあるので人出が多く、猛暑でタクシー利用が増え、夜の客の動きもあって景気がよい(タクシー運転手)。

・豪雨の影響も落ち着き、今夏は猛暑を受けて夏物衣料やUVケア用品等が好調に推移した(百貨店)。

・天候不順などで野菜価格の高騰が続き、いわゆる買い控えも見受けられる(スーパー)。

■先行き

・秋の新商材発売を前にして、予約希望の声が想定よりも多く、今後の売上の底上げが期待できる(通信会社)。

・気温の変動が大きいため、秋物衣料品の立ち上がりが早くなる見込みである(百貨店)。

・平成30年7月豪雨災害の復興に向けた国と県の支援による被災地への観光客の誘致施策が始まっており、自粛ムードもやや薄れている気配がある。一般の物販や外食での個人消費、個人イベント開催も回復しており、今後は秋の観光需要や法人企業の利用も回復してくる(都市型ホテル)。

・大きく何かが変わるような要素が見当たらない。原材料費や人件費、輸送費のコストアップ分がじわじわと利益を圧迫する状態が続いている(一般レストラン)。

前回月は「平成30年7月豪雨」の影響に大きく足を引っ張られる形だったが、今回月ではその影響も落ち着き、むしろその復興への動きの期待、そして猛暑で動く季節商品の成果や期待が見受けられる。また、早くも秋関連の商品へ期待を寄せる声もある。

企業関連の景況感では猛暑がプラスの影響を示しただけでなく、「平成30年7月豪雨」が企業動向を後押ししたとの話すら見受けられる。

■現状

・猛暑の影響により飲料関係の需要が増加したことにより、容器の販売が増加した。半導体向け需要は引き続き好調である(化学工業)。

・平成30年7月豪雨などを踏まえた災害対策工事の発注がかなり出てきた。入札の落札はできていないが、かなり発注数が多くなっている。解体工事を順調に受注している(建設業)。

■先行き

・平成30年7月豪雨の被害によるJRコンテナの不通区間が解消されコンテナ輸送が通常に戻ることに加え、大型移転業務の受注もあり収入増が見込める(輸送業)。

・当初の生産計画に対して増産傾向である。また、新規車両も3か月後に生産がスタートする(輸送用機械器具製造業)。

原油価格は高止まりの中にあり、燃料費の増加は負担となっているはずだが、少なくとも全国規模の概要ではその声は見られない。

雇用関連では人手不足に関わる多様な意見が見受けられる。

■現状

・建設業の受注は堅調に推移しているが、人手不足で大きな工事を予定どおり仕上げることに苦慮している。急募求人に力を入れているが、苦戦している(求人情報誌製作会社)。

■先行き

・求職者が少なくなり、派遣単価が上がる予定である。単価が上がれば、求職者が増えて派遣人数も増加すると予測している(人材派遣会社)。

人手不足は相変わらずだが、「単価が上がれば求職者が増えて」とのコメントを見るに、これまで労働市場の変化に伴う十分な単価のアップをしてこなかったのかという疑念も湧いてくる。需給の関係の変化に伴う、適切な対応をしてこなければ、状況の維持、さらには改善を期待するのには無理がある。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計29件、先行き計54件、合わせて83件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好12件、やや良好29件、不変98件、やや悪い18件 悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

人手不足を言及するコメントを精査すると、「人手不足と広範囲の業種で言われているが、中小企業では賃金など求人条件を改善するまでには至っていない」「中小零細企業では、人手不足、原料費や運搬・輸送費の高騰などを理由に利益が上がらないとの声を聞いた」「人手不足に加えて、残業規制の推進により、当地の企業では更に受注業務をこなすことができない企業が増え、受注制限につながることが予想される」「小規模・零細事業所においては中長期的な見直しを行う余力もなく、現状を維持するのに精一杯な企業が多い」などのように、雇用市場の変化に対応しようとしない、できない企業において、人手不足感が強いとの印象を受けるものが少なからず見受けられる。

他方、現状を見据えた上で「昨今特に感じることは人手不足、給与条件のアップである。フルタイムでない労働者の条件は、無期雇用と人手不足から20%ほど急激に上がった。よりよい条件を求めて定着率も急激に下がり、求人や人材育成の繰り返しにより正社員の仕事を増やし、忙しくしている」「人手不足を解消するために、従業員に資格を取得させ人材育成を行う企業や、業務の方法、労働条件などを様々な角度から見直し、生産性向上につなげている企業もある」「業界全体で労務改善をしなければ上向きにならない」などのように、問題意識を明確にし、状況改善へとかじ取りをする企業の動きもある。

昨今問題視され今調査でも多々意見が見受けられ、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。

現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。

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※DI

※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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