紫外線とのつきあいが下手すぎた? 防ぎすぎも日焼けしすぎもカラダに悪い
梅雨を前に「戸外ではマスクを外してもいい」とのお達しだ。これからの季節ありがたいが、反面、紫外線による肌トラブルも気にかかる。日焼けの時期はまだまだ先、と思いがちだが、肌が強い日差しに慣れていない今の時期、無防備のまま紫外線を浴びると、かゆみのある発疹や赤いみみずばれなど、想定外のトラブルをおこしがちなのだ。特に、2年近くマスクで日差しを浴びていない顔はリスクが高い。
「一昨年からマスクによる肌荒れを起こしている方が多いように、着用時の蒸れや摩擦で肌の抵抗力は低下傾向にあります。それに加えて、ここ数週間、寒暖差が大きくて自律神経が乱れがちだし、新型コロナの影響や戦争のニュースなどメンタルもネガティブな影響を受けています。例年なら平気な紫外線量でも、今年は受け止めきれず、発疹などのトラブルが増えそう。注意が必要ですね」と 津田クリニック、津田攝子副院長。
こうした肌トラブルを避けるためには、例年以上に適切な紫外線対策を心がけたい。
詰めが甘い男性たちと過剰に怖がる女性たち
とはいえ、この「適切」なレベル設定がなかなかに厄介だ。
なにしろ、紫外線に対する意識や知識量は、個人によっててんでバラバラ。 「適切」な対応のつもりでも、基本的な情報の不足からモレがあったり(主にシニア層の男性)、逆に過剰に紫外線を怖がるあまり健康に悪影響が出たり(主に若い女性)と、混乱が続いている。
室内や車内でもシミはできるし、日サロでもシワは増える
男性は比較的、紫外線に無頓着。とはいえ、今や日傘メンズも珍しくないし、シミ予防のため日焼けを避ける人も多い。
松倉クリニック 松倉知之院長によると、「以前はシミ治療は女性中心でしたが、4、5年前から男性の患者さんも増えました。女性は、マスクでレーザー後の保護テープなどを隠せるからと、この2年で増えましたが、男性はマスクとは関係なく増加傾向。現在はシミ治療の3割近くが男性です」
反面、男性が紫外線知識を仕入れるソースは限られているせいか、情報不足や誤解も少なくない。
たとえば、室内や車内での日焼けリスク。シワやたるみの主要因とされる紫外線(A波)は窓ガラスや雲も透過する。今の季節、窓際で長時間過ごしたり曇りの日に無防備に外出したりすると、気づかないうちにジワジワ焼けてしまうのだ。「窓側の腕や顔半分だけにシミやシワが目立って驚いた」、という男性が少なくないのは、そのため。片手グローブのゴルファーも、グローブなしの素手の甲にだけシミやシワが多くなりがちだ。
日焼けサロンの愛用者も比較的男性に多いが、これも勘違いが多い。日焼けマシンは紫外線B波(UVB)の量が少ないので日ぶくれや火傷を起こさず、ノーリスクだと思いがちだ。しかし、肌の弾力を損なう紫外線A波(UVA)を利用しているので、シワやたるみのリスクは自然光より増える。弾力は老化のラスボスと言われるほどで、改善するのはシミ消しよりずっと難しいことを覚えておきたい。
美白女子に骨粗鬆症予備軍が増加中
一方、紫外線を嫌いすぎて、弊害が目立ってきているのが女性たちだ。
紫外線はシミや深いシワの要因だが、日光浴には、体内時計の調整やうつ傾向の抑制などメリットも多い。なによりもビタミンD合成の役割は重要だ。
紫外線を徹底して避けると十分なビタミンDを合成できず、カルシウム不足による骨軟化症や骨粗鬆症をはじめ不整脈、頭痛などを引き起こしかねない。
実際、光老化(紫外線による肌老化)を防ぐために、多くの女性が日焼け止めを常用するようになった1980年前後から、ビタミンD不足の女性は右肩上がりに。現在では7割近い女性がビタミンD不足、または欠乏状態とさえ言われている。*1
「若い女性ほど紫外線を怖がって日に当たらないから、骨密度が低い傾向が見られますね。くしゃみをして肋骨が折れたなんて、笑えない話もあるほどです。美しさの基本は健康、というのが持論ですが、こと紫外線に関してはそうとも言い切れない。美容を優先して過剰に紫外線をシャットアウトすると、健康面に支障が出かねません」と松倉院長(前出)。
赤ちゃんの健康リスクにも警鐘が
影響は自分だけに留まらない。妊婦がビタミン不足だと新生児がビタミンD欠乏症になる可能性も高まる。すでに新生児の22%がビタミンD欠乏症との報告もあり、全国的に乳幼児はビタミンD不足気味。成長障害やくる病の発症も珍しくなく、小児科医では何年も前から“過剰な紫外線防御”に警鐘を鳴らしているのだ。*2
また閉経後の女性だと、それでなくても高い骨粗鬆症リスクが、さらに高まってしまう。*3
「普段はファンデだけで日焼け止めは塗ってない」という女性も、安心はできない。多くの化粧下地やファンデーションはSPF30程度の防御力を備えているもの。SPF30の化粧品等を塗布していると、ビタミンDの合成量は素肌の10%程度に落ちてしまうのだ。紫外線量の少ない冬場なら合成量は限りなくゼロに。真夏でも日傘やUVガード加工の洋服を身につけていると、十分な量を確保するのは困難だろう。
不足分は食事で補うこともできるが、ビタミンD豊富な食材と言えば、魚にキノコ。近年、口にする機会が少ないものばかりで、現実的な解決策にはなりにくい。だったらサプリで、と言っても、ビタミンDサプリは手軽な半面、過剰摂取の危険が、と本当に厄介だ。
真夏の炎天下にすっぴんで10分以上!?
そこでビタミンD不足解消法として提唱されているのが、紫外線防御を“短時間、部分的に解除”する方法だ。
「手の平に10~15分程度、紫外線を浴びれば、一日に必要なビタミンDは得られる、と言われたりしていますね。この方法なら、顔の光老化を抑えることができますが、実際はそんな短時間では足りないと思いますね」と松倉院長(前出)。
環境省等のレポートによると、7月の正午に顔と手に10数分、紫外線を浴びれば、日焼け等のデメリットなしで、十分なビタミンD合成が可能だという。けれど、真夏の晴れた日の真昼に日焼け止めなしで、シミがいちばん気になる顔や手を、10分以上紫外線にさらす女性がどれだけいるのか……。
ちなみに、窓ガラスを通り抜けるのは紫外線A波(UVA)だけで、ビタミンD合成に必要な紫外線B波は透過しない。窓際にいてもシワのリスクが増すだけで、ビタミンD合成は期待薄だ。
ビーチでの日焼け止め制限が世界の潮流に
もうひとつ日焼け止めの弊害として注目を集めているのが、自然環境への悪影響だ。
特定の日焼け止め成分や防腐剤が、珊瑚やウミガメ、渡り鳥等の生物や海自体に与えるダメージへの危惧から、多くの国がビーチでの日焼け止め使用を制限。2020年施行のパラオを筆頭に*4、ハワイやフロリダのキーウエスト、カリブ海のビーチなど、オキシベンゾンとオクチノキサート(ともに紫外線吸収剤)を配合する日焼け止めの販売や使用を禁止している*5。オーストラリアなども施行を検討中と言われ、日焼け止め制限は国際的な広がりを見せているのだ。
実際、コロナ禍で9ヵ月間ビーチを閉鎖し海水浴客が消えたハワイは、その間に海の透明度が約60%も増加。絶滅危惧種のハワイアンモンクアザラシも増加するなど、“危惧”が杞憂でないことを裏付けることとなった。
「じゃあ、もうハワイで日焼け止めは使えない?」と心配になるが、オーガニック系のブランドを中心に、上記の成分を含まないマリンフレンドリーな日焼け止めが増え、資生堂やカネボウなどの国産メーカーも次々と環境に配慮した新製品をリリースしている。これらは大半の国で使用可能。日本ではまだ日焼け止め制限は施行されていないとはいえ、美しい海を守るため、うれしい流れだ。
太陽の恵みを享受する次世代サンケアへ
日焼け止めの新しい流れは、これだけではない。これまでのようにひたすら紫外線を遮断するのではなく、ネガティブな要素を抑えながら日差しを享受する、新世代のアイテムが次々と誕生している。
海外勢で目立つのが、前出のビタミンD不足問題などに挑むもの。
紫外線B波をビタミンD合成に必要最小限だけ通すオーストラリアの日焼け止め『ソーラーD サンスクリーン』や、紫外線を完全に遮断することよりも肌の抵抗力アップを狙ったフランス製デイ乳液『オールデイ オールイヤー N』など、太陽の恵みを享受しつつ、デメリットを遠ざけるアイテムがスキンケア通の注目を集めている。
一方、日本では、紫外線の肌への害は最小限に抑えたうえで美肌に役立てようという、太陽を目の敵にしない日焼け止めが増えてきた。先陣を切ったポーラの『B.A ライト セレクター』は太陽光の有害な波長(紫外線など)だけをカットし、肌に有用な波長は積極的に透過させるという取捨選択タイプ。SHISEIDOの『アーバン トリプル ビューティ サンケア エマルジョン』は紫外線を有用な波長に変える光治療系タイプだ。
いずれも、まだ少数派だが、80年代から続いた過剰な紫外線敵視はピークを越えたもよう。もう目の前の太陽の季節、今年はマスクを外して楽しく“適切に”過ごしたいものだ。
*1 ビタミンDの基礎知識(がんとの関連)第2版:東京慈恵会医科大学付属 柏病院
http://www.jikei.ac.jp/hospital/kashiwa/sinryo/40_02w7.html#case13
国内の大規模コホート研究ROADStudy Osteoporos Int. 2013;24(11):2775-87
*2 京都市内で2006~2007年に出生した新生児1120人を対象とした調査で、全体の22.0%にビタミンD欠乏症を示唆する頭蓋ろうを確認。
Yorifuji, J., et al., Craniotabes in normal newborns: The earliest sign of subclinical vitamin D deficiency, J. Clin. Endocrinol. Metab., 93, 1784-1788, 2008.
*3 体内で必要とするビタミンD生成に要する日照時間の推定 国立研究開発法人・国立環境研究所 https://www.nies.go.jp/whatsnew/2013/20130830/20130830.html
紫外線環境保健マニュアル 2020年3月環境省 https://www.env.go.jp/chemi/kenkou.html
*4 パラオでは紫外線吸収剤のほか、6種類の防腐剤の配合も禁止。
https://www.palau.emb-japan.go.jp/itpr_ja/b_000265.html
*5 禁止成分の配合の有無は、商品外装の成分表示で確認できる。オクチノキサートは、メトキシケイヒ酸エチルヘキシ、メトキシケイヒ酸オクチル、パラメトキシケイヒ酸2-エチルヘキシルと表示されることも多い。